2026年F1第2戦中国GP アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス) 上海インターナショナル・サーキットで開催された2026年第2戦中国GPは、19歳のアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が初優勝を飾り、史上最年少ポール・トゥ・ウイン記録を更新しました。アントネッリの初優勝、フェラーリ移籍後初表彰台獲得となったルイス・ハミルトン復活の要因、そして次戦日本GPの見どころなど、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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予選・決勝の流れが味方した感じもありますが、アントネッリは19歳とは思ぬほど落ち着いた戦いぶりを見せてくれました。予選Q3序盤にポールポジション最有力候補のジョージ・ラッセル(メルセデス)がバッテリーとギヤのトラブルに見舞われ、ラッセルは100パーセントのポテンシャルを発揮できない1アタックでのポールポジション争いとなりましたが、それまでのアントネッリの走りを見るに、たとえラッセルにトラブルがなくとも、メルセデスのふたりは予選から五分五分の戦いだったでしょうね。
アントネッリは、予選前に行われたスプリントでスタート失敗、アイザック・ハジャー(レッドブル)との接触(アントネッリに10秒タイムペナルティ)というミステイクが続きましたが、予選・決勝では落ち着いた素晴らしい走りを見せました。個人的には、スプリントの失敗という経験が、予選・決勝での落ち着きに繋がるポジティブな方向に働いたのではないかと感じています。
また先述のとおり、決勝の流れがアントネッリに味方したことも初優勝に大きく影響しました。10周目にランス・ストロール(アストンマーティン)がストップしてセーフティカー(SC)が導入され、このSC中に首位アントネッリ、2番手ラッセルがダブルピット(2台同時ピットイン)でミディアムタイヤからハードタイヤに履き替えました。アントネッリは首位を守りましたが、ラッセルはハードタイヤスタートでSC中もコースにステイしたフランコ・コラピント(アルピーヌ)、エステバン・オコン(ハース)に続く4番手でコースに戻りました。
14周目のリスタート後、ラッセルは暖まらないハードタイヤに苦労しました。その上、コラピントとオコンのステイ組2台の攻防に行く手を阻まれ、その隙をついたハミルトン、シャルル・ルクレール(フェラーリ)にも先行を許し、一時は6番手までポジションを下げました。フェラーリ勢を攻略したラッセルが2番手に戻ったのは29周目。この時点でアントネッリとは7.9秒ものギャップが開いており、チェッカーまでにこのギャップを覆すことは叶いませんでした。
ラッセルはリスタート後にハードタイヤの熱入れに苦労したことに加え、フェラーリ勢攻略のためにアントネッリよりもタイヤを使わざるを得ませんでした。終盤のアントネッリとラッセルのタイヤマネジメントについては、タイヤのコンディションが大きく異なるため、どちらが優れていたかといった比較はできません。ただ、もしアントネッリとラッセルのタイヤが同じ状況だった場合でも、アントネッリはラッセルと十分に戦えるペースがあったのは確かです。
また、アントネッリの戦いを語る上で欠かせないのが“ボノ”の愛称で知られる担当エンジニア/メルセデスF1のレースエンジニアリング責任者を務めるピーター・ボニントンの存在です。F1はドライバーが高い能力を持っているだけではなく、その能力をチームがしっかりと引き出さなければシリーズタイトルには届きません。今回のアントネッリの初優勝は、彼の能力や成長を証明する走りであり、ボノがアントネッリの能力を着々と引き出していることの証明に感じました。
また、フェラーリ移籍後初となる3位表彰台を獲得したハミルトンは、決勝後に実に気持ちのいい笑顔を見せてくれましたね。長年F1を見続けている私もあの笑顔を見て、ホッとしたと言いますか、嬉しい気持ちになりました。昨年の苦戦ぶりから、ハミルトンがどれほど苦しんできたのか。私もひとりのレーシングドライバーとして、その苦しみが痛いようにわかります。
戦えるポジションに帰ってきたハミルトンは『次はフェラーリのチーム内でナンバー1になる』という強い意志を感じさせる走りで、ルクレールと激しいポジション争いを幾度と見せてくれました。ルクレールとのバトルを見て『なぜそんなことをするの? チームで協力してメルセデスを追わないと』と思った方は少なくないと思いますが、あのチーム内バトルは『自分はまだ戦える』という執念をフェラーリに証明するために、ハミルトンがあえてと見せたように思います。
技術規則の大幅変更で、グランドエフェクト(車体床下のトンネルを流れる空気によって車体の下に真空状態/ベンチュリー効果が生じ、その吸引効果で車体が地面に張り付く)の影響が削減され、同時にクルマのバランスも比較的普通のレーシングカーらしくなりました。昨年までのグランドエフェクトカーはウインドウが狭い(ドライビングに対する許容が狭い)クルマで、わずかでもドライビングスタイルがウインドウから外れると、実力差以上に大きなタイムロスに繋がるクルマでした。
昨年、ハミルトンが苦しんだのは彼が遅くなったわけではなく、ハミルトンのドライビングスタイルがグランドエフェクト依存のクルマに合っていなかっただけです。そのため、ハミルトン復活の要因は、技術規則変更の恩恵を受けたからだと考えています。戦えるクルマをふたたび手にしたハミルトンが、古巣メルセデスとどのような戦いを見せるのか。ルクレールとのチーム内バトルとともに、今季の見どころになりそうです。
■日本GPの戦局を左右する鈴鹿サーキットのコース特性
さて、次戦はいよいよ鈴鹿サーキットでの日本GPです。鈴鹿で強そうなチームはどこかと言えば、開幕2連勝のメルセデスであることは明らかです。そのメルセデスに次ぐポジションにいるのがフェラーリです。昨年ほどピーキーなクルマではないことは好印象ですね。
タイヤの熱入れはメルセデスよりフェラーリが早い(予選一発やレーススタート、リスタート直後に有利)。ただタイヤのデグラデーション(性能劣化)はメルセデスよりフェラーリが厳しめ(早めにタイヤが限界を迎えてラップタイムが落ちる)です。鈴鹿は高速コーナーが多くタイヤへの攻撃性が高い(タイヤに厳しい)コースです。あとは鈴鹿のコース特性がメルセデスとフェラーリのどちらに有利に働くかで戦局が決まりそうです。
また、コンストラクターズ3位につけるマクラーレンにとって、例年鈴鹿は相性が良いコースです。今季2戦を終え、メルセデス製パワーユニット(PU)の使い方やトラブル対応などの経験値を積み、徐々にワークスであるメルセデスとのギャップが縮まるでしょう。ただ、今季は車体面でもメルセデスのポテンシャルに届かないように見えるため、鈴鹿ではトップ2チームを凌ぐまでには辿り着けないかもしれません。まずはどこまでトップ2チームに迫れるかが楽しみですね。
そして、予測が難しいのがレッドブルです。メルボルンや上海とは異なるコース特性である鈴鹿で、今年の車体がどういった動きを見せるのか。そしてレッドブル・フォード・パワートレインズのPUがどのようなポテンシャルを見せるのかが気になるところです。良い方向に行けばマクラーレンに迫る走りを見せてくれるでしょう。ただ、もし鈴鹿で良い走りを見せることができなければ、今シーズンを通じて苦戦が続いてしまう可能性が出てしまうため、日本GPはレッドブルの今後を占う上でも注目の一戦です。
また、中国GPで良いポテンシャルを見せたハース、アルピーヌも強さを見せてくると予想しています。小松礼雄チーム代表率いるハースは、コースによって得意・不得意が少ないオールマイティなマシン作りです。一方、アルピーヌは比較的ストレートスピードが出ています。この両者だと、高速コースの鈴鹿では、クルマ全体のドラッグ(空気抵抗)が少ないアルピーヌが意外な好走を見せるかもしれません。
また、ハースも決してストレートが遅いわけではなく、何よりもオリバー・ベアマン(ハース)という予選一発を確実に刻んでくるスピードセンスに優れたドライバーがいます。ベアマン、そして経験のあるオコンがクルマのポテンシャルを100パーセント以上引き出す走りを予選から見せ、良いグリッドを掴めれば、マクラーレン、レッドブルらに食い込む可能性はゼロではないと考えています。レースで強いクルマを作ることは小松チーム代表が得意としている部分ですからね。
鈴鹿サーキットは高速コーナーが非常に多く、また複合コーナー(複数のコーナーが連続するコーナー)もあり、マシンの空力に頼るコースです。空力効率が良くなければ(ドラッグが大きい場合)、ストレートや高速コーナーでスピードが出ません。その一方でヘアピンやシケインのような低速コーナーもあるので、しっかりと路面を掴む脚周り(サスペンション・セッティング)が求められ、マシンの総合力が試されるコースであり、エンジニアにとっても最も難しいコースのひとつだと思います。
また、特に高速コーナーが多いことから、反射神経に優れた若いドライバーたちに有利に働くコースだと感じています。そして、今年は走りながら電気エネルギーを充電し、適切な場面・場所で使用するエネルギーマネジメントという新たな難しさが加わりました。
今年の日本GPは、これまでには見られなかったエネルギーマネジメントのテクニックが見られるでしょう。ただ走るだけではなく、より速くフィニッシュラインに辿り着けるようエネルギーマネジメントを理解し、実践できたドライバーが、鈴鹿で結果を残すグランプリとなります。このエネルギーマネジメントに加え、アクティブ・エアロダイナミクスも相まって鈴鹿ではオーバーテイクが昨年よりも増えることは間違いなさそうです。これまで以上に見逃せないレースとなるでしょう。
そして、鈴鹿はアストンマーティンにPUをワークス供給するホンダにとっての母国グランプリとなります。ただ、母国グランプリだからといって特別な結果を期待するのではなく、2026年シーズン中に上位争いに食い込むために前進すべく、まずはレースを完走することが大切です。一長一短で現在の苦しい状況を脱することはできません。1周でも多く走り、ひとつでも良いデータを得て、今後のレースでより良い走りができるように繋げてほしいと願っています。
【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。
・公式HP:https://www.c-shinji.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
[オートスポーツweb 2026年03月21日]