
いよいよ最終回を迎える高石あかり主演のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。物語の序盤から強烈な存在感を放ってきた一人が、ヒロイン・トキの母、雨清水タエ(北川景子)だ。
物語より過酷な“史実”
『ばけばけ』視聴者の脳裏に最も深く刻まれているシーンのひとつは、第6週で見せたタエの“物乞い”だろう。夫を亡くし、家を追われ、極限の貧困に陥りながらも、街頭に正座するタエの背筋は一点の曇りもなく伸びていた。施しを受けても、無礼な男には決して頭を下げない。その凛とした姿は、北川景子の圧倒的な美貌も相まって“美しき没落”を象徴する名シーンとなった。
この描写は、決してドラマの誇張ではない。タエの実在のモデルである小泉チエもまた、家老の娘として「御家中一番の御器量」と称えられたお姫様育ち。しかし、明治維新後の小泉家を襲った現実は凄まじく、チエは実際に「美人のおこも(物乞い)」と呼ばれながら、食を乞う身にまで零落したのだ。
「チエは没落してもなお、掃除ひとつせず読書や三味線を嗜んでいたといいます。それは生活能力の欠如という悲劇であると同時に、武家の奥方としてのアイデンティティを死ぬまで捨てなかった、彼女なりの凄まじい抵抗だったのかもしれません」(ドラマ関係者、以下同)
一方で、タエとともに注目を集めていたのが、板垣李光人演じる三之丞の存在だ。ドラマでは、職を探しながらも「人を使う仕事でなければできない」と語り、視聴者を呆れさせもした彼だが、史実はさらに過酷だった。
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三之丞のモデルとなった小泉セツの実弟・藤三郎は、働きもせず小鳥の飼育に没頭し、病床の父に鞭で打たれるほどの放蕩息子だった。そんな彼が犯した最大の不祥事が、小泉家の“先祖代々の墓”の売却である。
「日本文化、そして『家』という概念を神聖視していたヘブンの実在モデルである小泉八雲にとって、墓を金に換える行為は断じて許せるものではありませんでした。史実では、再会した藤三郎に対し、八雲は顔面を蒼白にして『あなた武士の子です。なぜ墓の前で腹切りしませんでしたか?』と激昂。その日のうちに彼を追い出したとされています」
チエが説き続けた“家の誇り”は、ある意味で息子を現実離れした“モンスター”に変えてしまった側面もあったのかもしれない……。
北川景子演じるタエの実在モデルのチエの最晩年は、娘・セツの献身的な支えによって真っ当な生活を取り戻し、1912年に74歳でこの世を去った。
晩年の彼女を知る人々は、その姿に「往年の美貌と動かぬ気品」を感じたという。物乞いという地獄を経験しながらも、最後まで“武士の娘”として生ききったチエ。その壮絶な一生は、北川景子という俳優を得て、朝ドラ史に残るキャラクターとして視聴者の記憶に残るものになっただろう。
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