パイプ役を担う『アスリート委員長・山本尚貴』の仕事術。ドライバーとJRPの“直接の対話”が建設的議論を生む

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2026年03月31日 07:10  AUTOSPORT web

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スーパーフォーミュラで、JRPの『アスリート委員長』を務める山本尚貴
 安全で魅力的なレース運営、そしてファンサービス等の施策において、全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦するドライバーの“選手目線”での意見を採り入れることを目的に、JRP日本レースプロモーションは2025年シーズン開始に先立ち『アスリート委員会』を立ち上げた。初代委員長に就任したのは、3度の王者であり、2024年限りでSFのシートから退いた山本尚貴である。

 就任から1年、ドライバーと運営側の橋渡し役を担ってきた山本に、この1年の仕事の裏側や、2026シーズンに向けた展望などを聞いた(取材は2月の鈴鹿公式テストで実施)。


■以前は意見を「誰に」「どうやって」伝えるべきかが不透明だった

──アスリート委員長としての最初の1年が終わりましたが、当初思い描いていたような仕事はできていると感じていますか。

山本:新設されたばかりのポジションで、何が正解かも分からず、手探りの状態から始めて、あっという間に1年が経ってしまったな……というのが正直な感想ですね。

 そもそもの部分で言うと、FRDA(フォーミュラ・レーシング・ドライバー・アソシエーション)はあくまでも任意団体であり、JRPの外にあった組織です。それをJRPの中に、上野禎久社長に対する諮問機関として設置してもらうことで、ドライバーの意見をJRPの中にしっかりと通す。また、JRPが考えていることをちゃんと選手たちに伝える。そのパイプライン的な役割を担わなくてはいけないという意識を持って、昨年1年間仕事をしてきたつもりです。

 ドライバーたちの間でいろいろな意見があっても、これまではそれを「誰に」「どうやって」伝えたらいいのか、という部分が不透明だったと思います。それをJRPに通すという役割でもありましたし、ドライバーたちから声が上がる前に自分で気づいた部分を、上野社長をはじめとしたJRPの方々に伝えて、改善につなげていった部分もあります。

──我々メディアに見える部分では、ミックスゾーンにおけるドライバーの取材方法や、ピット出口でのスタート練習時のレーン分けなど、山本委員長が中心になって動いていたようですね。

山本:そういった細かい部分もいろいろとやってきましたが、一番は安全に関わる部分、具体的には悪天候の時でしょうか。何かが起こってしまってからでは遅いので、その前に判断して、手を打っていくところでは、自分の経験も活かしたお手伝いはできたかなと思っています。


■立場を変えて知った“判断の裏側”

──昨年はオートポリス、SUGO、富士など、悪天候が絡むイベントも複数ありましたが、判断が難しい場面もありましたか?

山本:自分がドライバーの時は(危険なコンディションなどを)『なんで理解してもらえないのか』と感じる場面もあったのですが、昨年から管制の中にも入らせてもらって、これまでとは違うものを見聞きすると、レースコントロール側の判断の“裏側”も分かってきました。

 たとえば雨の時、レースコントロールでは、コースにある雨量計などがひとつの判断基準になっていたりするのですが、ドライバーとしては雨粒の大きさだったり、路面上の水の溜まり方だったりが気になるわけです。そこは走っているドライバーと、建物の中にいる管制の人たちとの間で、受け止め方にどうしても差が出てきます。

 そこで自分が外に出てみて実際に肌で感じてみるとか、選手たちから実際のコースの状況を聞いたりして、それをタワーに伝えたりということもできるようになりました。

 もちろん、僕がしていることはあくまでドライバーの目線からの「参考程度の助言」であり、実際には競技長はじめ競技役員、ドライビングアドバイザーがレースをコントロールしてくれています。

 ただ、結果的に去年は大きな事故もなく1年を終えられたので、自分も多少は役に立てたのではないかと感じていますね。

──ミックスゾーンなど選手が集まる場所にも顔を出し、ドライビングマナーに関してのヒヤリングなどもしているように見受けられました。

山本:そこに関しても、僕はあくまで“パイプ役”です。何か権限を持つポジションではないですが、たとえばドライバーが「なんでこういうジャッジだったんだろう?」と疑問に思う部分について、管制とドライバーの両方の裏側が理解できる身として「噛み砕く」役割はできるのかな、というだけですね。

「実はこういう判断があって、そのジャッジが下されたんだよ」といった形で説明をすれば、納得してくれる選手や関係者もいますから。そこを噛み砕く役が、いままではあまりいなかったのかなと思います。

──昨年途中からは、開発車両のドライバーとしてタイヤやハードウェアの開発にも携わっていますが、実際にマシンに乗ることが委員長の仕事に活きている部分はありますか?

山本:普段ドライバーから聞く、ちょっとしたコンプレインなども、自分が乗れば「あぁ、これのことか」と実感できますし、自分の中でそこがリンクすると、JRPやサプライヤーさんに対しても、言葉に責任を持って提言しやすくなったと思います。

 たとえばウエットタイヤに関してもそうですが、やっぱり外で見ていると(ドライバーが話す)言葉のニュアンスがダイレクトには伝わってこない部分もあります。実際のレース車両ではなくとも、起きていることをみんなと同じレベルでは感じ取ることができるので、開発車両に乗らせてもらっていることは大きいと思っています。


■選手の声がきっかけとなったフォーマット変更

──鈴鹿テスト前日に発表された今季のレースフォーマット変更も、アスリート委員会を通じて上がってきた声を反映したものだと上野社長は説明していました。

山本:皆が「スーパーフォーミュラを良くしたい」とは思っているわけですが、それをひとつにまとめていくことはとても難しい作業になります。

 ただ、昨年何度かJRPの各担当とドライバーを交えて話し合いを持ったことで、文章や伝聞などとは異なる『直接の対話だからこそのニュアンス』が互いに伝わったと思うんです。 JRPサイドは「あぁ、選手はそういう風に思っているんだ」、ドライバー側は「そこまで考えて運営してくれているんだ」という風に思ってくれたようなので、対話というのは大事だなと改めて感じました。

 その流れがあって、フォーマット変更についても「こういう風にやりたいんだけど、どう思う?」という問いかけが(JRP側から)あり、「それはいいですね」とか「ちょっと違うと思います」といった、建設的な対話ができたんです。いまはJRPのメンバー、競技役員の方も含めて、かなりモチベーション高くやってくださっていますので、それが意見の反映やフォーマット変更における柔軟さにも表れていると感じます。

 また、そういった風通しの良さは、最終的にはお客さんの動員にもつながっているのかなと感じてもいます。やっぱりまずは内側で納得できるものができないと、外から見ているお客さんには伝わらないと思いますから。その、意見や対話をまとめる作業を、少しでも手伝えたらなと思っています。

 実際昨年は、レース毎に全ドライバー宛にヒヤリングシートを送らせてもらい、僕から気になっていた部分について質問をしたり、現場で選手から上がった意見に対して、各ドライバーにもそれを展開して確認するといった作業を行っていました。その問題となっていた部分については、開発テストで実際に確認したり改善に向けたテストなども行いました。

 ただ、選手はやっぱり選手であって、選手側がすべてのルールを作って決めていくのはスポーツではないと思うので、意見やリクエストは聞いてもらいつつ、競技運営する側、プロモーションする側にルールなどはしっかりと作ってもらうという、『スポーツとしてあるべき姿』をきちんと保つための、アスリート委員会でありたいですね。

──今季のフォーマット変更について、委員長の目線からもう少し説明してもらえますか。

山本:決勝のピットウインドウの部分に関していえば、やはり昨今問題点として指摘されているダブルピットの問題がまずありました。ただ、一気に変えることは難しいですし、なにかひとつを変えても別の問題が生じる可能性は多いにあります。

 今回のフォーマットの改正では、『また別の問題を生まないようにするための策』も講じることはできているかなと思っていますが、実際に今年レースをやってみて、また出てきた課題をしっかりと将来に向けて改善していきたいですね。

 フリー走行終盤の組み分け走行についても、20数台がいっぺんにアタックすることで、物理的に距離が取れずクリアラップが取れないという問題がありました。また、一度に多くの台数が走ると赤旗のリスクも高まるので、「なんとかできないか」という話し合いの中で、選手の声として出てきた案です。

 また、1レース制イベントでの新たな予選フォーマットについても、「予選で速いドライバーがきちんと称えられるべき」というドライバーの意見から、実現できたものです。

 そういった声を聞いて、どうしたら実現できるのか検討し、JRPやサーキットさんと調整し、さまざまな人の協力もあって、それを実行できるところまで漕ぎ着けられたという形ですね。


■「無事にレースが終わって欲しい」

──アスリート委員長という立場になり、現在はどういった心境や心構えでレースを見ているのですか?

山本:うーん、難しいですね……。正直、誰が勝ったとしても喜んだり、悲しんだりする立場ではありません。やっぱりレースを円滑に、そして安全に終えるということが自分の責務だと思っているので、「何事も起きずにレースが終わって欲しい」という気持ちがまず一番にあります。

 あとは、どんなレースでも、大なり小なり課題や問題、改善点は出てくるので、そういった部分にはとくに敏感になって見ています。「やっぱりここは直したいよな」「こういう声が上がってくるだろうな」とか。先手を打って動かなければいけない部分もありますので、レースの見方という意味ではこれまでとはまったく異なりますね。

 2026シーズンもそのサイクルを繰り返して、なるべくレスポンス良く、改善できるようにしていきたい。自分のポジションが2027年も2028年もあるかは分かりませんが、いまの選手たちを含め、このスーパーフォーミュラに関わっている方々が毎年設定している目標を、しっかりとクリアできるような環境を整えることを、お手伝いしていきたいと思っています。

 本当に微力ながら、ではあるのですが、この世界で長くやらせてもらってきたからこそ伝えられる部分もあると思いますし、幸いまだ現役ということが説得力につながる部分も多少はあると思っているので、そういったところも「活用してもらえる」ように頑張っていきたいですね。

 いまはとにかく今年のレースが楽しみですし、また無事に一年が終わって欲しいと願っています。

[オートスポーツweb 2026年03月31日]

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