GOODSMILE RACING & TeamUKYOのトラックエンジニアに就任したビクター・フェルダー氏 2026スーパーGT富士公式テスト 2026年、GOODSMILE RACING & TeamUKYO(GSR)は大きな節目を迎えた。長年チームを支えてきたトラックエンジニア・河野高男氏が、年齢を理由に第一線から退く決断を下し、同時にメンテナンスガレージも河野氏が代表を務めるRSファインからキムインターナショナルへと移行することになったのだ。
これまでRSファインとともに3度の王座(=2011年、2014年、2017年)を獲得してきたGSRは、体制変更のなかで新たなトラックエンジニアを迎える必要が生じたが、その後任となったのがドイツの名門HWAでAMG GT3の運用に携わってきたビクター・フェルダー氏だった。
■安藝代表が語る「なぜビクターなのか」
フェルダー氏がキャリアを積んだHWAは、AMG創設者のハンス・ヴェルナー・アウフレヒトがモータースポーツ業務を移管すべく1998年に創業し、以来メルセデスのモータースポーツ活動を担ってきた名門。DTMドイツ・ツーリングカー選手権でメルセデスのワークス車両を走らせ、その技術力を欧州トップカテゴリーで長年証明してきたチームだ。また、SLS AMG GT3やAMG GT3の開発・製造・サーキットサポートにおいてキーとなる役割も果たしてきたファクトリーである。
そのHWAでパフォーマンスエンジニア、トラックエンジニアとして経験を積んだフェルダー氏は、世界中のカスタマーレースで走るAMG GT3の構造や挙動、アップデートの意図まで理解するファクトリー系エンジニアだと言える。チームの安藝貴範代表は、その選定理由をこう語る。
「ここ4〜5年、スパ24時間や鈴鹿1000kmでのレースも視野に入れながら、HWAやAMGから毎年エンジニアを派遣してもらってきました。これまではダンパーの専門家やタイヤに強い人など、いろいろなタイプが来てくれたのですが、そろそろ“全部分かるやつをくれ”とお願いしたんです」
AMG GT3は世界中で走り、欧州の強豪チームには膨大なノウハウが蓄積されている。GT3は改造が許されないホモロゲーション車両であり、その分パーツ選びや組み込みも含め、速く走らせるノウハウが成績に影響しやすいとも言える。その最新トレンドを外さないために、GSRはAMG側に強く要望し、そこで推薦されたのが、GT3を知り尽くしたフェルダー氏だった。
ガレージ変更に加え、このオフには新シャシーも投入して車両各部を刷新したため、オフシーズンの作業量は膨大だった。ただし、昨年から継続してチームに残る現場メカニックも複数名おり、ガレージが変わったなかでも経験値は決してゼロではない。とはいえ、序盤は噛み合わない場面もあったという。
「トラブルも多かったし、最初は呼吸が合わないところもありました。でもフェルダーを中心に、みんな大人なので富士にはまた合わせ込んできて、チームワークはすごく良くなりました」
安藝代表がとくに評価するのは、フェルダーの性格と仕事のスタイルだ。
「リーダーシップが強くて、細かいところまで気が利く。メカニック一人ひとりへの気遣いもあるし、真面目でドイツ人らしいですよね。指示は細かいけど、理由を明確に説明するので、みんなが理解したうえで動けるんです」
その結果、「作業精度が上がり、メカニックのあやふやさが消えた」と代表は語る。フェルダーが持ち込んだ欧州流の規律・精度も含め、新体制のGSRは新たなリズムで再構築されつつある。
■フェルダー氏が語るスーパーGTで戦うということ
フェルダー氏はこれまで、最初にシュニッツァー・モータースポーツでBMWのGT3マシンを4年間走らせ、そして2019年からはAMG GT3の運用に携わり、すでに7年間にわたってこのクルマを扱っている。BMW時代も含めると、欧州のGT3シーンで10年以上最前線に立ち続けてきた人物だ。
彼がGSRと初めて接点を持ったのは2024年12月、台風の影響で延期され鈴鹿で行われた最終戦だった。当時はまだHWAの契約エンジニアとして帯同していたが、「チームの雰囲気がとても良く、すぐにコミュニケーションが取れた」と振り返る。2025年から正式に加入し、昨季はパフォーマンスエンジニアとして河野高男氏の下で働いた。
「河野さんは非常に経験豊富で、彼からは多くを学ばせてもらった。今年は彼のポジションを引き継ぐチャレンジとなるが、良い仕事ができるよう全力を尽くすつもりだ」と、礼儀正しく語るフェルダー氏。
とはいえ、欧州でGT3の最前線を戦ってきた彼にとっても、スーパーGTは未知の要素が多い。これまで経験がなかった国内サーキットについては、2025年に河野氏のもとでシーズンを戦ったことで理解が進んだというが、スーパーGTでは開発タイヤを使うという、欧州のGT3シリーズとは異なる戦いが求められる。
フェルダーは「GT300のタイヤ戦争は大きな魅力であり、同時に大きな挑戦となる」と話し、現状で感じている難しさを語る。
「シーズン序盤は気温5度で走ることもあったり、夏になれば路面温度が50度を超えることだってなくはない。さらには豪雨も珍しいことじゃないし、ありとあらゆるコンディションが考えられるだろう。そんな中で、どのコンディションでも機能するタイヤを開発し、シーズン中も新しいコンパウンドを投入し続けるタイヤメーカーには尊敬の思いしかない。横浜ゴムとの協力関係は良く、毎ウィークごとにミーティングを行っている」と語る。
事前のテスト時間は限られ、さらには開幕戦の天候も読めないが、富士公式テストの時点で開幕戦に持ち込むスペックはすでに決定済み。「あとは天候が予想通りになることを祈るだけ」とフェルダーは苦笑する。
2025年のシリーズタイトルを手にしたのは、同じAMG GT3ユーザーであり、ブリヂストンタイヤを履くLEON PYRAMID AMGだった。フェルダー氏はふたつのチームのタイヤ特性について、「暑いコンディションではヨコハマと我々のコンビネーションは良かった。逆に寒い時は少し苦戦した。レオンはその逆で、寒い時に強く、暑い時に苦戦する傾向にあったように思う。週末の中でいえば、予選では差は大きくないが、ロングランでは我々はデグラデーションが比較的大きく、単純に言えばタイヤ無交換は難しかった」とコメント。まず今年の第一の改善点は、涼しいコンディションでのタイヤの使い方だと話した。
そのなかで、冷え込んだ富士公式テストではトップタイムを刻むセッションもあったが、「僕たちは後からニューを投入したので、アタックしたタイミングがライバルと違っただけだと思う」と冷静に理解。「ライバルは非常に強く、現状はまだ足りない。もっとパフォーマンスを見つける必要がある」とあくなき改善に集中している。
最後に、開幕戦への意気込みを尋ねると、「正直、まだまだ学ぶこともやることも多い。なるべく多くを分析して、開幕戦に向けて最善の状態にしたいところだ。オフシーズンにはメンテナンスガレージも変わり、マイレージを考慮したシャシー交換など多くの作業があったが、それでもこのチームならどんな困難でも乗り越えられると信じている。岡山には万全の準備をして臨む」と締めくくった。
欧州でGT3の猛者たちと渡り合い、AMG GT3を知り尽くしたエンジニアが、日本独自のタイヤ戦争という新たなレースに挑む。再発進するGOODSMILE RACING & TeamUKYOの新たな舵を取るフェルダー氏は、河野氏から受け継いだ経験と、欧州仕込みの技術と視点をどこまで成績につなげることができるだろうか。
[オートスポーツweb 2026年04月01日]