なぜ“だし”はここまで広がったのか 「飲むだし」に「だしクッキー」「だしペチーノ」まで

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2026年04月14日 06:20  ITmedia ビジネスオンライン

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「だし」を使った商品がじわじわ広がる

 近年、じわじわと「だし」の注目度が高まっている。だしには、旨味によって素材本来の味を引き立てる役割があり、手軽に料理に使える顆粒(かりゅう)やパックタイプなどが昔から売られている。しかし、近年は「飲むだし汁」やだしを使った「スイーツ」など、幅広いバリエーションが登場している。


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 例えば、星野リゾートが展開する都市観光ホテル「OMO7大阪」では、大阪のだし文化を楽しむ「アフタヌーンだし」を2023年から2025年まで3年連続で提供。だしを使ったドリンク「だしジンソーダ」や「だしレモネード」のほか、だしソムリエが目の前でハンドドリップした「飲むだし」も用意した。


 老舗の久原本家グループ(福岡県久山町)が展開する、だしや調味料のブランド「茅乃舎(かやのや)」も、だし汁をそのまま味わう「だしスープ」を2018年から販売。2025年の夏には、テークアウト限定で「冷たいだしスープ」も店頭販売した。2026年3月には、自社の野菜だしを使った「茅乃舎 里山クッキー」も登場した。


 また、錦佐竹生花店(京都市)が2025年8月に開業したカフェ「A DROP OF ZEN ヒトテキノ膳」では、だしを使った「だしペチーノ」を目玉メニューの一つとして展開。見た目は甘そうだが、味わいは“和食そのもの”だという。


 なぜ、だしの活用が広がっているのか。久原本家 マーケティング統括本部 ブランドマーケティング部 次長 野口香織氏と錦佐竹生花店 代表 佐竹拓氏、プロジェクトマネージャー 中川涼太郎氏、ブランドプロデューサー 上田伊音氏に取材した。


●じわじわ浸透する「飲むだし汁」


 明治26年(1893年)に「久原醤油」として創業した久原本家グループ。醤油からたれ、スープへと広がり、2006年に顧客の声をもとに、だしシリーズが生まれた。通販で販売を開始し、2010年には東京ミッドタウン店を開店、現在は全国に34店舗(2026年4月時点)を構える。


 そんな同社では、“飲むだし汁”のトレンドが広がる以前の2018年に「だしスープ」(540円、当時の価格)を発売した。お湯に溶かして飲む顆粒の小袋タイプとし、「間食やコーヒー代わりに飲んでほしい」と考えたが、狙い通りにはならなかったという。


 「当時、『だし汁を飲む』文化が浸透していなかったため、お客さまが迷われないようにと『飲むだし汁』ではなく、『だしスープ』という名称にしました。しかし、“名称”と“打ち出した飲用シーン”がマッチせず、多くの方が食事に合わせて飲まれていました。この反省を生かしてトライアンドエラーを重ね、2024年にリニューアルを実施。小袋からスティックタイプに変更して、携帯性を高めました」(野口氏)


 しかし、「だし汁を飲む」習慣は広がっても、「食間に飲む」習慣はさほど浸透しなかった。現在も食事中に飲む人のほうが多いという。そこで、2026年2月に実施したリニューアルでは、素材の風味を引き立たせ、食事に合わせて楽しむ味わいにした。パッケージは、ギフトを意識してパウチから箱に変更。味わいは、4種類(和風・洋風・中華風・和風の抹茶、各1080円)を販売している。


 「このリニューアルを通じて利用者層が広がり、着実に売り上げが伸びています。従来の顧客層である50代以上よりも下の世代の方が購入したり、ギフトとして選ばれやすくなったりしています」(野口氏)


 また、2025年夏に東京駅店と東京ミッドタウン店で販売したテークアウト商品「冷たいだしスープ 和風」(250円)も好評を得た。だし汁は、夏場のミネラルや塩分補給に適しているとして打ち出したところ、女性を中心に幅広い層に受け入れられたそうだ。今夏の販売も検討中だという。


 ここ数年で「飲むだし汁」をうたう商品が増加。ただ、習慣化は難しいようで、コカ・コーラが2020年に発売した和だし飲料「GO:GOOD ゴクっ!と旨い和だし」や味の素が2023年に発売したドリップ式飲むおだし「Dashi-ChaR」<かつお><とまと>は、いずれも終売した。


●しょっぱい「だしクッキー」も好調


 茅乃舎では、だしの活用の幅をさらに広げ、多くの人に手に取ってもらうべく、スイーツ展開にも挑戦。2026年3月に、野菜だしを使った「茅乃舎 里山クッキー」(4種×各4枚入り、2268円)を10店舗限定で販売している。


 味は「野菜だし」「生七味」「抹茶」「黒胡麻」の4種類で、そのうち野菜だしと生七味は“しょっぱい”味わいにした。


 「料理をしない方や若年層へのアプローチ、ギフト需要などを目的にスイーツを開発しました。甘くない『野菜だし』や『生七味』は、お酒とのペアリングも意識しています」(野口氏)


 以前にも、だしを使った「かりんとう」などスイーツ開発に挑戦したことはあるが、その多くは継続販売に至らなかった。現在も販売しているのは、あられ・おかきの専門店「赤坂柿山」とコラボした「おかき」のみ。しかし、里山クッキーは発売当初から好評を得ているそうだ。


 「お子さんを意識して、甘みのある『抹茶』と『黒胡麻』も入れたのですが、当社の顧客層には『野菜だし』と『生七味』が人気ですね。開発には約2年を費やしていて、実は全てのだしで試しました。議論を重ねた結果、味わいや色のバランス、飲み物との相性などを考慮して、野菜だしを選びました」(野口氏)


 好調を踏まえ、同製品は母の日に合わせて全店舗で販売予定だという。


 だしを使ったユニークな商品は、他の企業でも見られる。京都市で花屋を営む錦佐竹生花店では、2025年8月に開業したカフェ「A DROP OF ZEN ヒトテキノ膳」で、だしを使ったドリンク「だしペチーノ」を売り出した。


●京都では、甘くない「だしペチーノ」が登場


 錦佐竹生花店は、約400年の歴史を持つ錦市場内に店舗を構えており、このエリアを訪れるのは約9割が観光客だ。そんな環境を生かし、本格的な和の体験を手軽なカタチで届けたいと考えたという。


 コンセプトは「ワンハンドで食べられる和食」。だしや抹茶といった日本の素材に、カフェカルチャーを融合させたドリンクスタンドとした。だしを使った2種類の「だしペチーノ」のほか、日本庭園の様式の一つ・枯山水を表現した「抹茶膳 - 枯山水を味わう禅庭抹茶ラテ -」(いずれも980円)などを販売する。


 だしペチーノは、野菜や魚介などの食材をすりつぶし、だしでのばした和食「和のすりながし」をベースに開発。現在は「玉ねぎと九条ネギのグラニテ」と「かぼちゃと白味噌、塩昆布とナッツのキャラメリゼ」の2種類を扱う。開発を担当したのは、和食の開発経験を持つブランドプロデューサーの上田氏だ。


 「いずれも鰹と昆布を使っただし汁を使い、野菜のペーストや白味噌を合わせました。トッピングには牛乳か豆乳を選べるエスプーマや九条ネギのグラニテ(シャーベット状の氷)、塩昆布、ナッツなどを使っています。また、ドリンクの中に小さな白玉などを入れて、いろいろな食感も楽しめるようにしました。ドリンクには塩味がしっかりあり、エスプーマを混ぜるとクリーミーな味わいになります」(上田氏)


 デザートドリンクのような見た目だが、「味わいについてはデザート感は全くない」そうだ。「どんな味なんだろう」と興味を引くことで、購入につなげることを狙った。実際に、好奇心から手に取る人が多いという。立地柄、外国人の来店が多く、売れ行きが良いのは抹茶ラテだが、最近はだしペチーノを選ぶ人が増えているそうだ。


 「『だし』という日本語を知っている外国人も多いのですが、認知度では『うまみ』のほうが高く、店頭の看板には『Umami』と書いてアプローチしています。だしペチーノを選ぶのは、やや女性が多いですね。多くの人は『何が入っているの?』と、まず驚きのリアクションを示しますが、その後は『おいしい』という感想をいただけています」(中川氏)


●なぜ、だしの活用が広がっている?


 結局のところ、なぜ「だし」が注目され、活用範囲が広がっているのか。野口氏は「“おいしさ”と“健康”の2つの側面があるのではないか」と考えを示した。


 「『だし』という言葉には、すごく“シズル感”がありますよね。近年は、ポテトチップスやおにぎりなど、『〇〇だし味』といったネーミングの商品が非常に増えたなと。『だし』をうたうことが訴求になるのだなと感じています。あとは、白湯代わりやファスティング(断食)後の回復食としてだし汁を飲むなど、健康志向の人たちが、だしを好むようになった印象もあります」(野口氏)


 自社においては、ライフスタイルや年代が変わっても、だしをおいしく食べられるようバリエーションを増やしていく方針だ。最近の事例では、子どもを持つ社員の声から生まれた「赤ちゃんのためのだし」(和風・洋風、各594円)を2025年2月に発売。反響は上々で、「孫へのプレゼント」としても多く選ばれているという。


 一方、A DROP OF ZEN ヒトテキノ膳の上田氏は、外国人からの注目が高まっている理由として、「日本料理の原点には、だしがあるという理解が深まっているためではないか」と見解を示した。


 「これまではアウトプットとしての日本料理が注目されていましたが、原点の『だし』も『うまみ』として広く知られるようになっています。さらに、だしがさまざまにアレンジされ、王道ではない新しい使い方が増えるほど、より注目度が上がるのではと考えています」(上田氏)


 同社では、だしペチーノのラインアップを増やしつつ、都内など新たな地域への出店も検討しているという。新規性のあるメニューであり、プロモーションの難しさがあるが、「小腹が空いたタイミングや軽めのランチ代わりとして、目的来店を促せるよう情報を届けていきたい」と中川氏は話した。


 最近では、多くの自販機でだし汁を販売したり、だし汁を使ったカクテルを提供するバーが登場したりしている。定着という意味では課題があるかもしれないが、だし文化は着実に進化を遂げているようだ。


(小林香織、フリーランスライター)



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  • 出汁文化の本場である上方では、出汁を使うのが当たり前なのでわざわざ名付けなかった。出汁が当たり前でない関東がようやく出汁の美味さに気づいたからわざわざ出汁使用を明言するようになった。
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