
2026年に入ってからだけでも『テミスの不確かな法廷』(NHK)、『リブート』(TBS)、 『お別れホスピタル2』(NHK)、『時すでにおスシ!?』(TBS)と既に4本のドラマに出演している松山ケンイチ(41)。40代に入った今、俳優として再ピークを迎えようとしている理由はどこにあるのだろう?
松山ケンイチの一度目のピーク
松山といえば『セクシーボイスアンドロボ』('07年)や『銭ゲバ』('09年)などの主演作はあったものの、'12年にいきなり26歳の若さで大河ドラマ『平清盛』の主演に抜擢されて世の中を驚かせた時の印象が強い。この時を一度目のピークとするなら、少し早すぎたともいえるのかもしれない。
昔ほどではないにしろ、俳優にとって大河ドラマ主演は一つの到達点であり、そこから先は民放も、中途半端な役では起用できないため、仕事のオファが来にくくなる傾向がある。松山の場合も次の連ドラは2年半後の『ど根性ガエル』('15年)を実写で演じるという飛び技だった。その後も『隣の家族は青く見える』('18年)などの主演があるものの、ドラマでは今ひとつヒット作には恵まれていないように見えた。
それが変わったのは『日本沈没−希望のひと−』('21年)ではなかったか。このドラマは完全に小栗旬が主役で、松山は若手官僚仲間の一人だったのだが、深刻になりがちな物語の中でも軽い明るさがあり、ホッとさせるものがあった。
そうした脇で存在感を放った役の代表といえば、連続テレビ小説『虎に翼』('24年)の裁判官・桂場等一郎が挙げられるだろう。常に苦虫を嚙み潰したような顔で伊藤沙莉の壁になりながら、甘いものが好きというアンバランスさをおかしみをもって演じて、視聴者の記憶に残った。
|
|
|
|
「カメレオン俳優」と呼ばれてきた真骨頂
久しぶりの連ドラ主演となった『テミスの不確かな法廷』では、同じ裁判官(判事補)でありながら、ADHD(注意欠如多動症)で挙動に特徴があり、『虎に翼』とは全く違うタイプを演じてみせたことは記憶に新しい。ADHD特有の目や表情の動かし方を完全に演じきってみせ、若い頃から役になり切る「カメレオン俳優」と呼ばれてきた真骨頂を発揮した。
そうした主演の演技ができるからこそ、脇に回っても視聴者の印象に残る演技ができるのであり、かといって悪目立ちするのではなく、主演との相乗効果でドラマを面白く出来る俳優に変化を遂げたのではないか。
『リブート』も本来なら、松山クラスの俳優なら、顔を変える前の役でなく、顔を変えてからの鈴木亮平が演じた役への配役も可能性はあったはずだ。だが本作では、あくまで顔を変える前の、少し気弱なパティシエ役を全うし、松山が演じたからこそ、筋トレなどで変貌していく過程にもリアリティが出せたといえよう。
そして4月から始まった『時すでにおスシ!?』も、職人気質でコワモテだけど、実は心優しい鮨アカデミーの講師という、松山ならではの役を演じている。
第1話で画面に映った自分の顔に驚くシーンには爆笑した視聴者も多かっただろう。真っ直ぐに突き進む女性と絡むと面白さが増す松山だけに、永作博美とのコラボレーションも相性が抜群で、楽しみな滑り出し。この先の展開に期待がかかるとともに、40代になって面白みの増した松山の今後も楽しみだ。
|
|
|
|
古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。「3年B組金八先生卒業アルバム」「オフィシャルガイドブック相棒」「ヤンキー母校に帰るノベライズ」「IQサプリシリーズ」など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に「風景印ミュージアム」など。歴史散歩の会も主宰している。
