佐々木蔵之介「この映画を見た後で自分の気持ちがさまようようなところがあるので、誰かと一緒に見てほしいと思います」『名無し』【インタビュー】

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2026年05月22日 08:10  エンタメOVO

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佐々木蔵之介【ヘアメーク:晋一巴(IKEDAYA TOKYO)/スタイリスト:勝見宜人(Koa Hole inc)】 (C)エンタメOVO

 その男が右手で触れた瞬間、相手は消え、死が訪れる。世にも奇妙な凶器なき犯行と謎に包まれた動機とは…。俳優だけでなく、脚本家、映画監督としても活躍する佐藤二朗が、初めて漫画原作を手がけたサイコバイオレンスを、自らの主演・脚本、城定秀夫監督で映画化した『名無し』が、5月22日から全国公開される。本作で、佐藤演じる犯人の山田太郎を止めるべく奔走する刑事の国枝を演じた佐々木蔵之介に話を聞いた。




−最初に脚本を読んだ印象から伺います。

 衝撃的でびっくりしました。この物語をお客さんはどのように受け止めるのだろうと思いながら読みました。なかなか手ごわいなと。

−国枝のキャラクターをどのように考えましたか。

 どう演じるかは事前に考えたところもありますが、撮影が始まってからも監督と対話を重ねながら、現場の空気の中で少しずつ見つけていった感じです。ただ、あまり突っ込んでお話しするとネタバレになるので言えないところもあります。

−役作りはどのように。

 国枝がなぜ刑事という職業を選んだのかは分かりませんが、劇中で、警官の照夫さん(丸山隆平)が「人はみんな1人じゃない」と言います。だから僕は、国枝が人や社会とつながる人でありたいと思って生きてきたと考えて役作りをしようと思いました。

−ある意味、主人公の山田太郎と国枝は、コインの裏表のような対照的な存在だと思いますが。

 これは、どこまで言っていいのかというのがあって、なかなか核心には触れられないんですけど、太郎は「神様、もし暇してるなら手をつなごうよ」と言いますが、国枝は「神様なんかいねえよ」ってはっきりと言います。つまり、太郎とは違う人間だというのが、このせりふに象徴されていると思います。シナリオの中には、非常に観念的な、ちょっと演劇的に感じるせりふもあったので、なかなか表現するのが難しいところがありました。でもそのせりふが強く刺さってくるとも思いました。

−とても衝撃的な内容ですが、この映画のテーマはどこにあると感じましたか。

 一見、血なまぐさい場面が多いのですが、太郎がそこに至るまでというか、なぜそういう行動を起こしたのかというのが核なんだろうと思います。テーマはつながるということでしょうね。人とつながる、空とつながるという。

−佐藤さんとは昔から演劇仲間だったそうですが、今回は佐藤さんから誘われた形ですか。

 そうですね。プロデューサーを通して、佐藤さんが国枝を僕にしてほしいと言ってくれたんです。ずっと関西で芝居をやってきた僕が上京し、「自転車キンクリート」という劇団の『マクベス』に客演した時に、初めて佐藤さんと一緒になって、その後小さい劇場やドラマでも共演しました。同じ小劇場出身だったので、何か近しい関係だとずっと思っていました。佐藤さんは「ちからわざ」という演劇ユニットで脚本を書いて演出をし、出演もされています。今回は、ご自身で脚本を書いて主演をされています。そういう作品に呼んでもらえたのをすごくうれしく思っています。

−この話は、佐藤さんだからこそ出てきたものだという感じはありましたか。

 多分、この山田太郎というのをこんなふうに演じてみたいというところから始まったんだと勝手に思います。そこからストーリーを膨らませていったり、いろいろと作っていったのかもしれません。先ほど、城定(秀夫)監督と話をしましたが、「もともとはこういうストーリーではなかった」とおっしゃっていたので、佐藤さん自身がこんな役をやってみたいと思って書いた脚本から、さらに芽吹いて映画ができたのかなと思います。

−城定監督の演出はいかがでしたか。

 監督とは今回初めてお会いしたんですけど、現場ではポイントを抑えた上で、「じゃあここは一気に撮りましょう」とやってくださるので、とても速く進みました。安定感と緊張感が両方ある現場だったので、バランスのいい感じがしてとてもよかったと思います。あまりにもスピード感があり過ぎると、「撮れたの? 大丈夫?」なんて思うんですけど、今回はしっかりと的確にポイントを抑えた上でのことだったので、とてもやりやすかったです。

−完成作を見た印象はいかがでした。

 これはあくまでフィクションです。もちろん脚本を読んでいる時から、触るものが消えるなんて状況はフィクションだと思ったし、自分自身も出演しているので客観的にもそう思っていました。ところが映画を見た後に、フィクションなのに妙なリアリティーを感じたというか、気持ちは乾いているのに生温かい肌触りのようなものを感じて、これは城定さんの力なのかなと思いました。この作品をリアルに思えたということは、やっぱり何か心に突き刺さるものがあったんですよね。それが何なのかを具体的に言うのはなかなか難しいのですが、これを見たお客さんもそれぞれいろんなことを感じたり考えたりする映画になっていると思います。見た人がどんな答えを見つけるのかが楽しみです。

−観客や読者の皆さんに向けて、アピールや見どころも含めて一言お願いします。

 これは難しいな。逆にどんなふうに思われました?

−今、コンプライアンス云々が言われる時代に、よく作ったなと思いました。ただ、その奥にあるものについてはいろいろと考えさせられるところがありました。

 そうですよね。この映画を見た後で自分の気持ちがさまようようなところがあるので、誰かと一緒に見てほしいと思います。映画を見た後で、どう思ったのかを話し合える相手がいた方がいいし、面白いんじゃないかなと思います。答えは見つからなくてもいいんです。一緒にその場を共有するというか、一緒に体感してみてはどうだろうと思います。

−例えば、観客の1人として映画を見た場合も、客観的にはなれないものですか。

 なれないですね。やっぱり僕は自分の演技とかを見てしまいます。ただ、山田太郎に対しては、同情もしないけれど、彼があそこに行きついたように、人は大なり小なり孤独ではあると思うので、それについてはいろいろと考えました。

(取材・文・写真/田中雄二)




https://youtu.be/Kmcp_q1JPY4?si=YvcozdOz1GZzkX5G

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