Fコードで挫折した作曲家が楽器を発明――電子楽器「インスタコード」開発者が語る“誰でも演奏できる音楽”

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2026年05月31日 11:50  マイナビニュース

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ギターを始めた人の9割は1年以内に辞めるとも言われる。「Fコードで挫折した」経験を持つ人は決して少なくないわけだが、そんなギターの挫折経験者を中心にプロの作曲家・アーティストの間でも話題を集めてきたのが、5年で累計1万台を販売した電子楽器「InstaChord」(インスタコード)だ。



開発者は、楽譜が読めない楽器未経験者でも電卓のように並んだ数字ボタンを押すだけで簡単に弾き語りや伴奏を楽しめるユニバーサルな演奏システム“KANTAN Music”の普及に取り組むゆーいち氏。世界で最も敷居の低く、高い表現力を備えた楽器の誕生秘話などを聞いた。

○音楽との出会い、学生時代からの趣味が仕事に



――75年生まれのゆーいちさんは大学の合唱部の出身で、就職後に作曲など音楽のお仕事を長年されてきたそうですね。



音楽と関係ない会社に就職し、ネットでメンバー募集をしていたアカペラグループで作曲を担当するようになりました。コミックバンド的なアカペラグループで、企業の作曲依頼やイベント出演なども増え、現場で揉まれながら音楽の勉強をしてきた感じです。



――最初は完全に趣味の音楽活動だったとか。



会社に勤めながら土日は音楽活動という生活を20年ほど続けていました。40代になってからは「おふろdeアフロ」という、世界初の浴室ミュージシャンとして2人組コミックバンドで活動を始めました。



――どのような活動をされていたんですか?



営業中の温浴施設の大浴場や露天風呂でライブパフォーマンスをしていました。



呼ばれれば温浴施設以外のステージも立つんですが、アカペラグループ時代に知り合ったスーパー銭湯の店長の「入浴中って暇ですよね?」という声から結成されたグループで、現在も活動中です。一時期は週末に温浴施設を何件もハシゴして年間100本ぐらい営業していました。



――その活動がInstaChord開発につながるんですか?



相方に「せめてギターくらい弾けるようになったら?」と言われたことが直接のきっかけなので(笑)。両親が音楽好きで、子どもの頃からいろんな楽器に挑戦してきたんですが、楽器は挫折の連続なんです。演者として音楽に向き合うようになったのは大学で合唱に出会ってから。「おふろdeアフロ」では首から下げた洗濯板を打楽器代わりに叩きながら歌うという苦肉の策でステージに立っていました(笑)。



不器用な自分でも弾ける楽器を探して、いろんな電子楽器を試すうち、“簡単に演奏できる楽器は簡単な表現しかできない”と気づき、いつの間にか自分がほしい電子楽器を開発する側になっていました。


○不器用さが生んだ、新しい楽器のアイデア



――InstaChordが他の電子楽器と異なる点は?



まず多くの人が楽器演奏で挫折するのは、楽譜を理解して楽器を操作する訓練が必要だからです。ギターの場合はコードごとに弦の押さえ方を習得する必要があります。InstaChord は1〜7の数字ボタンがあり、基本的に1〜6のボタンを押しながら弦のパーツを爪弾くだけで、ほぼ全ての曲のコード伴奏ができます。


――数字を追いかけていく簡単な操作でコード演奏ができるということなんですね。



度数(ディグリー)というコードを数字に変換した楽譜を採用したことも大きな特徴ですね。度数は音楽理論や作曲などに用いられる世界共通の音楽記号で、コード進行を構造的に把握できる表記方法です。



コード譜の場合、同じ曲でもキーが変わると楽譜を全て書き変えなければなりません。熟練のジャズプレイヤーなどは、度数で書かれた楽譜を見ても脳内でコードに変換できるので、さまざまな曲を即興で演奏できます。



InstaChordは「だったら数字のまま演奏できる楽器があっても良いのでは?」という発想の楽器で、設定さえすればキーが変わっても押すボタンは変わりません。



――実際の開発ではどんな苦労があったんでしょうか?



InstaChordは当初、スマホアプリとしてリリースすることも考えていましたが、収益化の難しさなどを踏まえ、2018年の冬頃にハードウェアとして開発の舵を切りました。製品の構想をメーカー企業にプレゼンして回っても門前払いでしたね。そもそもハードウェア開発は回路設計、部品調達、筐体設計と専門の会社が別々なので。



試作機の製作にはマンションや車を売り払い、知人にも資金を借りて約1000万円の資金を用意しました。

○「Fが指1本で弾けます」



――個人によるハードウェア開発って、敷居が高いんですね。



一方で3Dプリンターの普及で個人開発者が電子機器を自作する潮流もあり、「ウダー」という電子楽器の開発者である宇田道信さんと知り合ったことで、InstaChordの試作機の製作は、大きく前進しました。宇田さんが回路設計やプログラミングを引き受けてくれた結果、2019年10月には実際に音の鳴る試作機が完成しています。



――それだけ事業的な可能性を当時から感じていらっしゃったんですね。



試作開発にあたってアンケートによるニーズ調査をしたんですが、楽器を弾けないけど弾きたい人は楽器を弾ける人より圧倒的に多い。特に、僕より少し上の世代は誰もがフォークギターを少しは触ったことあるんですが、そのほとんどが挫折を経験しているので、市場としてはかなり大きいんです。



――量産化の段階ではクラウドファンディングに挑戦し、目標の5000万円を上回る7900万円の予約注文があったそうですね。



ギターのコード演奏は弦を指で押さえる難しさがなければ、右手で手拍子のようにリズムを刻むだけなので、ほとんどの人はすぐ弾けるようになります。「Fが指1本で弾けます」と言うと、少しでもギターを触っていた人は感動してくれますね。



――主な購入者層はギターの挫折経験者ですか?



そうですね。ただ、単に楽器初心者へ向けた製品ではなく、楽器を弾ける人もほしくなるような、自分で楽器を操って音楽を演奏する気持ち良さにはこだわりました。あくまでリズムを刻むのはユーザー自身ですし、より上手にカッコよく弾きたくなる演奏感は大切にしています。練習で上達することも楽器演奏の大事な要素で、敷居は非常に低い一方、技術的な上限はない楽器です。



ユーザーからは持ち運びやすさも評判で、カバンから取り出し、すぐ弾ける使い勝手の良さはギター上級者にもウケています。InstaChordの演奏を通じて音楽理論の基礎が身につけられることもポイントで、ギターやピアノより短期間で作曲の理屈を掴みやすく、大学などの授業にも導入されていますね。


○プロにも愛用される一方で課題も? 新製品も発売予定



――音楽活動の経験から自分が欲しい楽器を突き詰めたからこそ、プロの音楽家の愛用者も多いそうですね。



むしろInstaChordの革新性は音楽の先生など玄人に理解されやすいところもあり、そこは販売面の課題でもありますね。見た目はギターのようですが、全く新しい楽器のため、実際に体験するまでイメージが湧きにくい方も多いんです。



――5年で累計1万台という数字には満足していない?



2020年、試作機を持って出展したアメリカの楽器見本市では、脳出血の後遺症で半身の麻痺が残る方など、多くのアメリカ人に「ジーニアス!」と褒めちぎられました。「アメリカ人は5倍のテンションで話す」と後で知りましたが、「InstaChordは世界で100万台売れる」「3年で億万長者だ!」と、当時は確信していたので(笑)。



――この規模の事業を一人で回していること自体が驚きですけど。InstaChord社はゆーいちさんの一人会社なんですよね?



外部委託しやすい時代ですし、いつか会社を売却したいので身軽にしておきたいなと(笑)。開発や製造、販売やアフターケアも自分の責任でPDCAサイクルを素早く回せることが何よりの利点ですね。



――“KANTAN Music”では「かんぷれ -KANTAN Play Core-」という楽器や、ソフトウェア製品なども展開していますが、今後の新製品の販売予定は?



部品も設計もゼロから考えて進化させた楽器を、今年6月頃に発表できるかなと。InstaChordを多くの人に体験していただく中、その反応をつぶさに観察して得た知見を詰め込んだ新製品です。



楽器演奏の体験が少しでもあると、音楽の聴こえ方や見え方が大きく変わります。InstaChordを弾いているうちに音楽に対する解像度が上がって、より深く音楽を楽しめるようになるはずです。ぜひ、多くの人に演奏の扉を開いてみてほしいです。(伊藤綾)

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