“常勝軍団”ソフトバンクホークス城島健司CBOに聞く 「現場と経営の分断」を防ぐ組織設計の要点

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2026年06月13日 12:40  ITmedia ビジネスオンライン

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城島CBOは「組織の意思が正しく広がっていく強固な体制を作ることが、CBOの最大の役割」と語る

 福岡ソフトバンクホークスは、この30年でパ・リーグ優勝を11回、日本シリーズを10回制覇した「常勝軍団」だ。その強さの背景にあるのは、資金力だけではない。プロ野球界に先駆けて4軍制を導入し、スカウティングから育成、監督やコーチ、選手の管理まで、一貫した思想で実行してきた組織設計が礎にある。


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 そして、この強固な組織づくりによる「常勝」こそが、福岡の地域経済をけん引する原動力にもなっている。福岡県の試算によれば、2025年の日本一に伴う県内への経済波及効果は約466億円にのぼる。事実、球団経営でも、コロナ禍の4期連続赤字から2025年度には売上高460億円の過去最高益を叩き出す、驚異的なV字回復を成し遂げた。記者が調べた限り、12球団でも圧倒的な売上高1位だ。


 強いチームを作り、勝ち続けることが、最大のファンエンゲージメント向上になり、自社の強固な経営基盤に直結している。結果的に、地域経済を盛り上げることにつながっているのだ。


 この常勝組織を支える思想の根幹をなすのが、王貞治球団会長の存在だ。監督として黄金時代を築いた王会長が組織に刻んできた文化と哲学は、退任後もホークスのDNAとして受け継がれてきた。王会長のもとで築いてきたホークスの野球の歴史と精神を次世代へ継承すべく、同社は1月に独自のプロジェクト「FUKUOKA OH SADAHARU LEGACY PROJECT」を始動した。


 この一環として、みずほPayPayドーム福岡に隣接する「王貞治ベースボールミュージアム Supported by 博多グリーンホテル」では、特別展「王貞治とともに築き上げた福岡のホークス 〜受け継がれる王貞治の教え〜」を6月25日まで開催している。


 ホークスは、王会長のDNAを組織のアイデンティティとして根付かせることで、強い組織を作ろうとしている。経営陣の意志をどう受け継いでいくかは、プロ球団固有の課題ではなく、一般企業が事業や組織文化を継承することにおいても直面する問題だ。


 常勝集団のレガシーを属人的な経験にとどめず「組織の資産」(ナレッジ)としてどう継承し、現場と経営を接続しているのか。同社のCBO(チーフベースボールオフィサー)を務める城島健司氏に聞いた。


●「組織のサイロ化」防ぐ 現場の知見を資産に変えるCBOの役割


 ホークスは「その場かぎりの勝ち」を追うのではなく、再現性のある「常勝」のシステムを構築することで強いチームを作り上げてきた。


 この持続可能なサイクルを支え、現場(監督・コーチ・選手)とフロント(球団の運営・管理部門)の意思をつなぐ新たな仕掛けとして、同社は2024年11月に「CBO」というポストを新設した。城島CBOは「私の大きな役割は、ホークスという組織が目指す方向を明確にし、それを現場から編成、育成の担当まで一貫して伝え、つなぐことです」と説明する。


 一般的にプロスポーツチームには、特有の構造的課題が存在する。現場で指揮を執る監督やコーチ、そして選手たちは数年単位で入れ替わる一方で、フロントの球団職員は長期にわたり組織に残るという点だ。現場での出来事が監督やコーチ、選手だけで完結してしまい、経営サイドが現場の知見を十分に把握できない状況は、一般企業の開発部門と経営陣の間に生じる分断にも共通している。現場のリアルな情報やノウハウが縦割りの中でうまく接続されないために、各部署が閉じこもってしまい、組織が「サイロ化」してしまうのだ。


 ホークスは、この「現場と経営の分断」を防ぐための組織づくりに、早くから取り組んできた。現場とフロントのズレをなくすために、CBOを「両者のつなぎ役」として機能させているのだ。城島CBOは「プロスポーツという組織は、現場とフロントの2軸がきちんと足並みをそろえなければ、持続的な経営として成り立ちません」と語る。現場の日々の動きや監督の思考をフロントに持ち帰って議論し、現在の経営層から未来の経営層へと、ナレッジを伝達することが求められるのだ。


 プロスポーツチームにとって、現場の知見を属人的なものにせず、球団の「経営資産」として運用していくことは、チームが持続的に強くあり続けるための絶対条件だ。そうして「常勝システム」を構築し、チームが勝ち続けることで、ファンを熱狂させる。結果的に、地域の発展や経済活性化へと還元されていく理想的な循環が生まれるのだ。


 さらに城島CBOは「王会長がいなくなっても、私や(現在の)小久保裕紀監督がいなくなっても、組織の意思が正しく広がっていく強固な体制を作ること。それを見届け、記録し、つないでいくことこそが、フロントを担う私の最大の仕事」と自身の役割を定義する。


●「孫正義オーナーの意思」と「王イズム」 組織を支える2つの判断軸


 もう一つ、王会長が築き上げたナレッジである「王イズム」の継承にも力を入れている。


 城島CBOは「ホークスは、王会長が長年にわたって築いてきた歴史の上に成り立っています。王会長がホークスで積み重ねてきた時間は非常に長く、いまのホークスという組織を語る上で、欠かせない存在です」と語る。


 「今の若い選手たちの中には、監督時代の王会長を知らない選手もいます。ですが私は、ホークスのユニフォームを着る以上は、全ての選手が、組織の礎を築いた人間が何をしてきたのか、言わば『王イズム』を知る義務があると思っています。FUKUOKA OH SADAHARU LEGACY PROJECTも、王会長の偉業を知り、組織のアイデンティティを共有するためのものです」


 名将と呼ばれる監督であっても、いつかは必ず交代の時期を迎える。一般的な企業経営においても、トップが変わるたびに現場に方針が正しく伝わらずにブレてしまい、過去の積み上げがリセットされてしまう課題に、多くの組織が直面する。ホークスはCBOというポストを置くことで、指導者の交代による方針のブレを抑え、トップの意思を未来へと正しく伝える仕組みを構築しているのだ。


 「私たちがチームをつくる上で、孫正義オーナーの意思と王会長の考え方が、いわば2つの大きな軸になります。だからこそ私は『孫オーナーが何を考え、どんな思いで組織を見ているか』理解することを、非常に重視しています。オーナー本人の言葉はもちろん、これまで一緒に仕事をされてきた方々が見てきたオーナーの姿にも、学ぶべきことがあると思っています。組織を預かる立場になってからは、そうした材料をできるだけ集め、意思決定の土台にしています」


 孫オーナーの「経営トップとしての意思」と、王会長の「現場の哲学」。この2つを、城島CBOが情報のハブとなることで、組織全体に浸透させているのだ。


●「平均点」はいらない 個の強みを最大化するマネジメント


 ホークスは人材のマネジメントにおいても、明確なビジョンを持っている。同社が重視しているのは「どんなチームを目指すのか」「どのような選手を育て、どう戦うのか」という組織の輪郭を言語化することだ。


 「ファンがどんな野球を求めているのか、王会長がどんな野球を目指してきたのかを言語化し、それを積み重ねる中で『ホークスといえばこういうチームだ』という像がはっきりしてきました。これは単に伝統ができたという話ではなく、組織の判断基準が明確になったということです。メジャーリーグを見ても、強い組織ほど自分たちの色が明確で、スカウト、育成、現場の戦い方までが一つの戦略でつながっています。ホークスもこの30年で、その状態に近づいてきたと思います」


 この「自分たちの色」が明確にできているからこそ、ホークスは「他社では評価が分かれる人材でも、自社の中なら力を発揮できる」といった独自の視点で人材を評価し、獲得につなげることが可能となっているのだ。


 1軍から4軍まで擁するピラミッド組織の中で、選手が上のステージに上がるための基準についても、指導者の主観や勝敗といった結果だけに依存していない。打球速度や投球の回転数、動作解析データといった「個人の成長プロセス」を定量的に可視化し、納得感のある指標を示しているという。


 同社の人材育成の特徴は、欠点を直して「平均点」の選手を育てるのではなく、個の強みを最大化する適材適所のマネジメントにある。城島CBOは「私たちが大事にしているのは、選手の欠点を並べることではなく、強みをどう伸ばすかです。プロの世界では、全てがそろった選手ばかりを集めることはできないですし、必ずしもそれが最適解とも限りません」と断言する。


 だからこそホークスは、何か一つに突出した武器を持つ「スペシャリスト」を見いだすことに注力しているのだ。際立った個性や強みを持つ選手は、チームの勝利に貢献するだけでなく、ファンを熱狂させ、球場に足を運ばせるための強力な資源にもなる。


 組織の判断基準が言語化されているからこそ、一貫した組織運営ができる。城島CBOは「スカウト(の担当者)はスペシャリストを見つけ、育成(の担当者)はその長所を伸ばし、現場はそれをどう勝ちにつなげるかを考えます。この一貫性があるからこそ、組織としての再現性が生まれるのです」と話す。


 この一連のプロセスこそが、組織的な強さの源泉となっている。城島CBOは「データを見る人間もいれば、技術指導を担うスタッフもいます。そうした情報を持ち寄って『この選手にはどんな育成方法が合うのか』を議論し、できるだけ効率の良い成長曲線を描いていくのです」と説明する。


●常に新しい施策を打ち出す「アジャイルな組織文化」


 属人的な指導から脱却するため、同社は、最新のデータやテクノロジーを駆使している。


 具体的には「ベースボールサイエンス部門」を設け、各軍に帯同して戦術を分析するアナリストや、モーションキャプチャーによる動作解析などを担うR&Dの専門スタッフを配置している。指導体制においても、技術的な指導を行うスキルコーチと、戦略面に特化する打撃コーチを置き、役割を明確に分けている。


 城島CBOは「選手の成長を一人のコーチの経験や感覚(といった暗黙知)だけに委ねるのではなく、組織全体で支えることが大切です」と語る。スカウトが選手の背景を把握し、科学班がデータを分析し、現場の指導者がそれを実際の勝負の駆け引きに落とし込む。多角的な情報を持ち寄ることで、組織全体で選手を育成している。


 こうした高度なデータ活用や組織編成を支えているのが、ホークスの根底にある「まずやってみる」というアジャイルな組織文化だ。同社は、プロ野球界で、いち早く3軍制や日本初となる4軍制を導入するなど、常に新しい施策を打ち出してきた。


 城島CBOは「ホークスの組織の強みは、まずやってみようという文化があることです」と説明する。


 「孫正義オーナーは『議題に上がったことならまずやってみなさい』という考え方ですし、王会長も『朝令暮改でいい』とよく話します。つまり昨年うまくいったからといって、今年も同じことを続ける必要はないということです。むしろ、うまくいっているときほど新しいことに挑戦し、もし駄目なら戻せばいいという発想が組織に根付いています」


 何かを始める前に失敗の責任を問うのではなく、失敗を「うまくいかない方法が一つ分かった」という成果として捉える。例えば4軍の運用に関しては、実戦を重ねるのではなく、練習による課題解決に特化した組織として、その体制を位置付けているという。また、単に体を動かすだけではなく、ホークスの歴史やカルチャー、ソフトバンクという会社の成り立ちを学ぶ時間も設けた。数年前に4軍を始めた時とは、その運用を大きく変えているという。


 城島CBOは「決めたから変えないのではなく、必要ならすぐ変える。それを本気で実行できるのが今のホークスだと思います」と話す。全ての仕組みをあくまで「途中経過」と捉え、変化を恐れずに常に最適解を探り続けているのだ。


●「常勝」の組織力が「都市の経済」をも動かす


 ホークスの強さは、一つの戦略でつながる組織設計と「王イズム」というナレッジの継承、そして変化を恐れないアジャイルな組織風土によって生み出されている。王会長のDNAを組織のアイデンティティとして継承しながらも、その手段は時代の変化に合わせて柔軟にアップデートしているのだ。


 この一貫した組織設計こそが、同社に再現性のある「常勝」をもたらしている。プロスポーツというビジネスにおいて、組織の質はそのままグラウンド上の「商品価値」に直結する。


 そして、洗練された“強い組織”が勝ち続けることは、単なるスポーツの熱狂を生むだけにとどまらない。勝つことで顧客満足度を上げ、ひいては福岡を活性化させる経済基盤にもつながっているのだ。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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