
韓国の水原で5月23日に行われたサッカーの女子アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)決勝は、北朝鮮の「ネゴヒャン」が日本の「日テレ東京V」を1対0で破り、優勝した。
北朝鮮が韓国との関係を「敵対的な2国間関係」と規定し、南北の交流・協力を否定している中で、北朝鮮のサッカーチームが訪韓しただけに、韓国では大きな話題になった。北朝鮮のスポーツチームの訪韓は7年半ぶりだ。
北朝鮮は、これまでの南北交流で使われてきた「訪問証明書」ではなく、「パスポート」を提出した。韓国は北朝鮮を「同胞」としているので「パスポート」を認めず、参考資料としたが、今後も同じような問題に直面するだろう。
昨季から始まった女子ACLでは優勝チームに100万ドル(約1億5900万円)の賞金が出るが、北朝鮮には国連や米国から経済制裁が課せられており、受領できなかったようだ。北朝鮮の監督は優勝後の記者会見で、記者が質問で北朝鮮を「北側」と述べたことに反発し、退場するというシーンもあった。
北朝鮮の「敵対的な2国間関係」という姿勢が頑強なため、このチームの訪韓で南北関係が変化するという見方は少ない。だが、「関係改善の呼び水になってくれれば」という韓国市民も多かった。
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米中関係の改善に大きな役割を果たしたピンポン外交のように、スポーツが外交に影響を与えた事例は多い。そんなことを考えながら思い浮かんだのは今年9~10月に開かれる愛知・名古屋アジア大会だ。
高市早苗首相は昨年11月、拉致問題の解決のために「既に北朝鮮側には首脳会談をしたい旨を伝えた」と明らかにした。
しかし、金正恩党総書記の妹の金与正党総務部長は今年3月に談話を出し「われわれの国家指導部は会う意向も、対座することもない」と拉致問題のための日朝首脳会談を拒否し、「私は日本の首相が平壌に来る光景を見たくない」と拒絶反応を示した。
だが、北朝鮮は昨年秋にアジア大会の組織委員会に正式に参加の意向を伝えた。サッカー、重量挙げ、レスリング、柔道、卓球、バスケットボール、バドミントン、ハンドボール、体操、ダイビングなどの10数競技への参加が見込まれ、選手150人程度を含む260~270人の派遣を希望しているという。
日本政府は独自制裁として北朝鮮の国籍保有者の入国を原則禁止としている。しかし、アジア大会は五輪に次ぐ国際的な総合スポーツ大会で、「特例」として入国を認めることを検討しているという。
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朝鮮中央通信は4月11日、李日煥党書記(党政治局常務委員)が国家体育指導委員会の委員長に就いていると報じた。北朝鮮の「国家体育指導委員会」は北朝鮮のスポーツ政策の最高指導機関だ。李日煥委員長がアジア大会参加のために訪日を申請した場合、日本政府はどうするのだろうか。朝鮮労働党の序列5位、党政治局常務委員の訪日はこれまでの北朝鮮幹部の訪日で最高位クラスとなる。どのクラスの人物が訪日するのかまだ分からないが、北朝鮮との本格的な対話を目指すなら、アジア大会は興味深い機会となる。高市首相が本当に日朝首脳会談を目指すのなら、この機会を活用することも考えていいのではないだろうか。「もしや」にも備えておくべきだろう。

平井久志(ひらい・ひさし) 共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.22からの転載】
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