ANA新運賃はなぜ“炎上”したのか フルサービス航空会社が見誤った”顧客心理”

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2026年06月16日 07:50  ITmedia ビジネスオンライン

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ANAが提供するフルサービスには料金換算できるサービスだけでなく、全体に通じる「安心感」も含まれている

 ANA(全日本空輸)の新運賃に対して、SNS上で批判の声が相次いでいる。なぜここまで“炎上”しているのか。理由を考察すると、乗客が「単なる料金改定だけでない、もっと大切な要素」を重視している現状が見えてくる。


【画像】ANA新運賃はなぜ“炎上”したのか フルサービス航空会社が見誤った”顧客心理”


●国内線の運賃3タイプ SNSでは「手厳しい意見」


 ANAは5月19日、国内線サービスのリニューアルを行った。運賃体系は大きく3タイプに分けられており、予約変更不可の「シンプル」、事前座席指定や予約変更(手数料有料)が可能になる「スタンダード」、当日購入できて予約変更も無料な「フレックス」から選ぶことになる。


 また、無料手荷物の量(シンプルは23キログラムまでの荷物1個、スタンダードとフレックスは23キログラムまでの荷物を2個まで)といった点でも、価格の差がつけられている。簡単に言えば、より融通が利くサービスを求めるのであれば、その分高いプランを選ぶ必要があるのだ。


 しかしながら、この運賃変更に対して、SNS上では手厳しい意見が目立つ。6月上旬には、X上で「空港で座席の余りがないと告げられ、搭乗できなかった」といった報告が上がり、座席数以上の予約を受け付ける“オーバーブッキング”になった場合を心配する声が続出した。


 そしてANAは6月11日、公式Webサイトに「お詫び」を掲載。Webサイトやアプリからの予約や購入、照会、チェックインなどに関するシステム動作に時間を要しているほか、「お問い合わせ窓口の電話がつながりにくく、メールの返信に時間を要している状況」だと説明した。


●上級会員制度の変更も炎上 「年間決済額300万円以上」


 ANAを巡っては、国内線運賃だけでなく、上級会員制度「スーパーフライヤーズカード(SFC)」の改定でも“炎上”が起きている。ある程度の搭乗実績を積めば、上級会員向けのサービスを受けられる仕組みなのだが、そこに自社クレジットカードや電子マネーでの「年間決済額300万円以上」のルールが加わった。


 こうした大幅な改定の背景には、おそらく収益源の確保が急務であることが考えられる。ここ10年ほどを見ても、旅行や出張を取り巻く状況はコロコロと変わってきた。インバウンド需要による“爆買い”が起きたと思えば、コロナ禍に入って、国どころか「県を越える移動」ですらも自粛を余儀なくされた。


 一方で、空路には「交通インフラ」としての機能もある。“ドル箱路線”と言われるような人気航路ならまだしも、一部の地方空港を訪れると、「今後も定期便が運航されるのか」と心配になるような場所もある。


 これらの要因もあり、おそらく航空会社は、飛行機輸送以外に「安定収入」を得る必要性を感じているのだろう。競合でも同様の動きがみられる。JAL(日本航空)の格安SIM事業は6月5日、NTTドコモの「ahamo」ブランドと協業すると発表した。ANAがSFCで決済サービスの利用者を優遇したのも、この流れだと考えられる。


●LCCでは当たり前なのに……


 航空会社の懐事情として考えてみると、LCC(ローコストキャリア)のようにオプション制の運賃にして、価格に応じたサービスに絞り込むのは合理的と言えるだろう。ただし、ANAほどの大手による「サービス変更」としては、あまりにショックが大きかった。


 同社などのフルサービスキャリアが提供している価値は、無料の預け荷物や座席指定といった個別サービスだけではない。「快適に利用できる」という安心感も、その一部だ。今回の運賃改定はサービス内容を分かりやすく整理した一方で、そうした目に見えない価値まで切り分けられたように受け止められた可能性がある。


 加えて、SNSの特性として「公共交通系の話題」が盛り上がりやすい点も挙げられる。鉄道もそうだが、“熱意が高く、細部まで知識を有しているファン”が多い。それでいて一般客も利用する。専門的な角度と、庶民的な角度からツッコみやすい話題なのだ。


 しかしながら、飛行機の話題は、鉄道ほど炎上しない。そこには、移動距離や運賃などの理由から、鉄道より利用頻度が少ないため、エピソードを語りにくい点もあるだろう。だからこそ、飛行機ネタで燃え上がるのは、よっぽどの事だと筆者は考えている。


●ANAの対応、どうすればよかったのか


 では、ANAはどのような対応を行っていれば、ここまで問題視されずに済んだのか。今回もっとも失敗したのは「利用者のショック度」を見誤り、十分な周知を行っていなかったことだと考える。つまりは“広報不足”が原因であろう。


 国内線の運賃変更が発表されたのは、2025年5月20日のことだった。ちょうど1年間の準備期間が設けられていたわけだが、さほどアピールされていた印象がない。予約しようと思って初めて、新運賃に気付いた人も少なくなかったはずだ。


 大幅なサービス変更で思い出すのが、2023年の年末から導入された、ピーク時(年末年始・ゴールデンウィーク・お盆)の東海道・山陽新幹線「のぞみ」全車指定席化だ。発表直後からSNSで大きな議論となり、利用者の間でも変更内容が広く共有された。


 もちろん、先ほど触れたように「飛行機より鉄道ネタの方がSNSで拡散されやすい」といった事情はあるだろう。しかし、ANAの運賃改定とのぞみの全車指定席化との最大の違いは、サービス変更による影響を利用者が事前にイメージしやすかったかどうかだ。


 のぞみの場合、「自由席がなくなる」という変化が分かりやすかったため、発表直後から大きな話題となった。一方、ANAの新運賃制度は仕組みが複雑で、自分にどのような影響があるのかを想像しにくい。その結果、制度変更そのものは十分に話題にならず、実際に予約する段階になって初めて不利益を実感した利用者から声が上がった。


●「軽微な変更」と見誤ったか


 今回の新サービス化について、ANA自身は「詳細に伝えるまでもない、軽微な変更」と捉えていたのかもしれないが、旅客はそう受け止めなかった。その認識の差が問題の本質にあり、結果として“殿様商売感”を演出してしまった。


 JALやANAといったフラッグキャリア(その国を代表する航空会社)は、移動手段そのものだけでなく、「快適な空の旅」を提供している。その“快適性”が揺らぐとなれば、利用者が心配になるのも当然だろう。


 そして、乗客の快適性はブランドイメージに裏付けされている。となると、サービスの改定や、それに伴う料金の変更よりも、「その変更をいかに伝えたか」のプロセスと、そこから透ける誠実さが、より重要になってくるのだ。


 ここから挽回するとすれば、「乗客の不安を解消する」イメージ作りからだ。現状で問い合わせが殺到し、窓口がパンクするほどだというが、おそらく質問のバリエーションは限られているだろう。


 公式Webサイトでは「よくあるご質問」へ誘導しているが、もっと大々的に、そして何度も説明を繰り返すこともできるはず。そうした地道な対応が、信頼回復のカギを握るのだ。


●著者紹介:城戸譲


1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。



このニュースに関するつぶやき

  • 日本のフルサービスは手荷物制限が緩すぎる。出発間際に規格外のスーツケースを持ち込んでくる客のせいで出発が遅れるケースが多い。持ち込み手荷物のルール違反を大目に見てるから図々しくなるんだよ。
    • イイネ!4
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