2026年F1第7戦バルセロナ・カタルーニャGP 優勝したルイス・ハミルトン(フェラーリ)とチーム代表フレデリック・バスール 大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回、筆者のF1ジャーナリスト、ネイト・ソーンダースは、フェラーリ代表フレデリック・バスールに焦点を当てた。
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■冷静なバスール、勝利の興奮にも浮かれず
フェラーリF1チーム代表のフレデリック・バスールは、突飛な予測や、チームの大多数を占めるイタリア人たちにありがちな激しい感情の浮き沈みに流されるタイプではない。
そのことを、バスールはバルセロナでのルイス・ハミルトンの待望の勝利後にも改めて示した。ハミルトンにとって、フェラーリでの惨憺たる初年度を乗り越えて、チーム加入後31戦目でつかんだ勝利だった。この優勝は多くの人々に歓迎され、7度の世界王者に称賛の声が相次いだ。そしてハミルトン本人もまた、この巻き返しを支えてくれたフェラーリに対して惜しみない感謝の言葉を送った。
しかしバスールは、いつものように周囲を冷静に保とうとした。今回のような勝利、そしてティフォシやイタリアメディアの熱狂を考えれば、フェラーリ代表にとってそれは簡単なことではない。
現在ハミルトンはドライバーズランキングにおいて、アンドレア・キミ・アントネッリに続く2位につけている。ハミルトンのタイトル獲得の可能性について問われた際、バスールはこう答えた。
「正直、この手の質問に答えたいとは思わない。2週間前には、すべてが大惨事だと言われていた。それが今では、世界選手権の話をしている」
「これこそ、私が陥ってはならない最悪のアプローチだ。重要なのは、バルセロナとまったく同じ姿勢でオーストリアへ向かうことであり、選手権について考えたり、『あと25勝したら』『自分に何ができるか』などと先走って想像したりすることではない。それは絶対にやらない」
■“フェラーリ流”を変えた男
過去10年ほどにわたりフェラーリのF1プロジェクトを見てきた人々にとって、バスールのこうしたアプローチは実に新鮮なものだ。前任者たちのマウリツィオ・アリバベーネ、そしてマッティア・ビノットはともに生粋のフェラーリ人間であり、チーム代表時代には期待値をコントロールすることに苦心していた。
ふたりは、舞台裏での運営においてフェラーリ特有の厳格なやり方を守り続けていた。フェラーリには“フェラーリ流”のやり方が存在し、ドライバーはそれに従わなければならない。従わなければチームを去ることになる可能性もある。しかし、バスールはその文化の一部を明らかに変えたようだ。レース後にハミルトン自身がそのことを示唆していた。
レース後の記者会見で、バスールはいつも通り謙虚な姿勢を崩さなかった。昨年から今年にかけてのハミルトンの復活について問われると、彼はこう語った。
「私はそのことについて何の功績も主張できない。ルイスが偉大なチャンピオンであることは最初から分かっていたし、再び本来の姿を取り戻すのは時間の問題だった。ルイスのアプローチは最初から一貫していたと思う。彼は完全にコミットしており、強い信念を持ち、周囲の全員を前進させようとしている。我々にはそうしたエネルギーが必要であり、それが今日実を結んだのだ」
■ブレーキの変更という大きな決断
だが、ハミルトンはバスールが何もしていないという見方をきっぱりと否定した。今年、舞台裏で行われた多くの変化から彼が恩恵を受けていることは明らかである。レースエンジニアは昨年のリカルド・アダミからカルロ・サンティに交代した。当初サンティは暫定的な起用と見られていたが、ハミルトンとの相性は完璧と言えるほど良好だ。
またハミルトンは日本GPで、ブレーキディスクをブレンボ製からカーボン・インダストリー製に変更することを認められた。彼はメルセデス時代に記録的な成功を収めた期間を通して、カーボン・インダストリー製を使用してきた。この変更は非常に効果的だったため、今ではチームメイトのシャルル・ルクレールも同じ変更を行っている。ブレンボは長年にわたりフェラーリと非常に密接な関係を築いてきたことを考えれば、これは重要な出来事だ。以前の経営体制であれば、そのような決断は考えられなかったかもしれない。ハミルトンは、このカーボン・インダストリー製への変更が自分にとって「ゲームチェンジャー」だったと語っている。
■ハミルトンがバスールへ送った賛辞
ハミルトンは、レース後、復活の鍵となった人物としてバスールの名を挙げた。さらに彼は、自分が舞台裏でいかに変革を求め続けてきたか、そしてバスールがいかにそれを受け入れてきたかについて興味深い話を明かした。
巻き返しに関するバスールの役割について尋ねると、ハミルトンはこう答えた。
「まず第一に、フレッドがいなければ僕はこのチームにいなかった。実現させてくれたのは彼であり、そのことに心から感謝している」
「昨年は彼にとって、本当に、本当に大変な時期だったと思う。僕が加入したことはチームにとって大きな衝撃だったはずだ。僕はかなり率直な人間だからだ。何かおかしいと思うことがあれば必ず指摘するし、非常に強く要求する。それは僕という人間の本質であり、その点では一切妥協しない」
「組織全体を運営しながら、さらに長年続いてきた独自の文化とも向き合わなければならないなかで、そうした要求を受け止めるのは簡単なことではない。しかも彼はイタリア文化の中にいるフランス人だ。彼にとって両立させなければならないことは多く、本当に大変だったと思う。もちろんメディア対応もしなければならなかった」
「それでも彼は信じ続けてくれた。良き友人であり続け、素晴らしいチームメイトであり、力強い味方であり続けてくれた。そして最終的には、僕の話に耳を傾けてくれた。僕はいくつかの変更を本当に強く要求した。そして彼はそれを実現してくれた。そのことに僕は永遠に感謝するだろう。なぜなら、そうした変化がなければ今回の結果は実現しなかったからだ。だから、彼には本当に、本当にありがとうと言いたい」
ハミルトンとフェラーリは、まだタイトル争いの本命と呼べる段階にはないかもしれない。しかしバスールは、いつの日かフェラーリを再び世界王者の座へと導くための理想的なリーダーであるように見える。
[オートスポーツweb 2026年06月22日]