
「iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現される米Tesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、このクルマを連載形式でレポートします。
日本でのTeslaの顧客体験が危険水域に達しています。今月のTesla連載は、テスラジャパンの顧客体験悪化の話題をお届けします。
●大黒ふ頭で納車というスペシャルなユーザー体験!?
この原稿を書いているのは2026年7月初旬、この6月の日本でのTeslaの販売数は4000台弱(推定値)だったといいます。人気の高い独メルセデス・ベンツに迫り、独BMWを超えました。補助金効果があるとはいえ「あのテスラが!」と驚きを禁じ得ません。
|
|
|
|
東京や横浜を走行中もModel 3やModel Yに遭遇する機会が増えました。Teslaユーザーとしては喜ばしい限りです。しかし、この販売数の急増により、見過ごせない副作用も顕在化しています。
4年半乗ったテスラ「モデル3」を総括――気になるバッテリー劣化率、クルマには満足も唯一の不満点とはで「販売増ゆえのサービス地獄に陥っているのでしょう」と指摘しました。この原稿を書いたときから販売数はさらに伸び、それに呼応するかのようにさまざまな面で状況は悪化しています。
具体的には、納車に関する情報について連絡なし、約束したタイミングを反故にした納車の遅れ、直前になっての納車場所や日程の変更、購入者が納車日に出向いたら車検証もナンバープレートも準備されていなかった、サーバに車両が未登録のためアプリとひも付けできない、といった事例がSNSやコミュニティーにおいて報告されています。
極め付きは、大黒ふ頭での受け渡し通告です。6月の最終週末の数日前に一部のユーザーに対し関東地域の納車場所である東京の湾岸地区のショッピングモール「有明ガーデン」ではなく、横浜の大黒ふ頭での受け渡しを通告するメッセージが届いたとのことです。
大黒ふ頭というと上海工場から海路で運ばれたTesla車両の陸揚げ拠点です。さすがに、この知らせには、ここまで来たか!と度肝を抜かれました。当日の納車台数が有明ガーデン駐車場のキャパシティーを超えてしまったための苦肉の策だったのでしょう。
|
|
|
|
ただ、その週末は台風の直撃が予想されていました。さすがに、直前になって海辺の吹きっさらし状態の大黒納車はキャンセルされた模様ですが、現場の混乱ぶりを象徴する出来事でした。もし、実際に大黒納車が敢行されていたならば、台風一過で「♪〜大黒ふ頭で虹を見て〜」(サザンオールスターズ)と伝説になったかもしれません(そんなことはないか…)。
正規の有明ガーデンの納車にしても、週末などは1日200台という状況もあり、テスラジャパンのスタッフだけではリソースが足りず、TOCJ(テスラオーナーズクラブジャパン)のボランティアまで動員する状態です。ただ、新ユーザーの質問や疑問への対応、記念撮影のお手伝い等が主な役割で、責任を伴うような役割を負っているわけではありません。
筆者は、2025年6月「体験してみよう」という趣旨でこの納車ボランティア活動に参加しました。当時は数十台程度の納車数で、牧歌的な雰囲気の中、和気あいあいとした時間が過ぎていきました。
今回もボランティアによる納車サポートが実施されましたが、かなり大変だったようです。LINEのボランティア連絡用コミュニティーには、テスラジャパンのスタッフの状況を含め現場の混乱が生々しく時系列で投稿されています。橋本理智社長自ら納車カウンターに出向きユーザーに対応していたことでもその状況がうかがい知れます。
6月の最終週末は充電無料キャンペーン締め切りの直前ということも相まって納車が集中したとはいえ、この狂乱ぶりは尋常ではありません。驚いたことに、当日になって大黒ふ頭から有明ガーデンにキャリアカーでピストン輸送さながら運ばれてくる車両もあったようで、EVなのにピストンとはこれいかに、と冗談のひとつも言いたくなります。
|
|
|
|
事は納車時の混乱だけではありません。台数が急増したということは、テスラジャパンがそれに見合うサービス体制を整えないかぎり、整備、定期点検、車検といった後のサービスについて、多くの課題がそのままスライドしていくことになります。新規ユーザーだけでなく、筆者のような既存ユーザーにもその影響が拡大していくことが予想されます。
●既存ユーザーも不安に陥れる今後のサービス体制
例えば、延長保証に加入している場合、保証対象外事由として次の項目が明記されています。「保証の制限」項目に「Tesla延長保証の対象となる欠陥を発見したにもかかわらず延長保証対象車両をTeslaサービスセンターまたはTesla認定修理施設に移動させ、またはTeslaが推奨する修理もしくは整備を行わなかったこと」とあります。
これをかみ砕いた言い方に直すと「保証対象となる欠陥について、他社の整備施設で整備を受けた帰結として、車両に不具合が生じた場合は保証対象外」ということになります。他社で整備したら即保証対象外というわけではありませんが、このような項目が最上位に記載されている以上、ユーザーとして安心・安全を優先するなら、TeslaサービスセンターまたはTesla認定修理施設でのサービスを第1に望むと思うのです。すくなくとも筆者はそう感じています。
しかし、肝心のサービス拠点のキャパシティー不足で、「保証対象となる欠陥」が表面化したにもかかわらず、整備や修理の順番待ちに時間がかかり、自分の車両を運用できない事態に陥る可能性は否定できません。おまけにテスラジャパンは、代車の数に限りがあるようで、筆者の経験則では相当前からの代車予約が必要でした。ユーザー数が増えると状況はさらに悪化する可能性があります。
日本におけるTesla車の販売台数は、グローバル市場と比較して決して多くはありません。従って、サービス拠点や整備等の人材への投資が思うように進められない苦渋もあるでしょう。ニワトリと卵ではないですが、投資を行うためには販売数を増やさねばなりません。まさに成長段階ゆえのジレンマです。
●日本型「もみ手」接客を期待するべからず
日本では、ディーラーでクルマを購入することが一般的です。ディーラーは車両の利幅、オプションのような付帯商品や、点検等のサービス、メーカーやインポーターからのインセンティブなどで利益を得ているといいます。ケース・バイ・ケースで差があるようですが、粗利は販売価格の1割から2割程度というのが一般的だと言われています。
その一方でテスラは直販モデルなので、販売現場の収益構造は、日本のディーラーとは別構造です。裏を返せば、日本のTeslaユーザーは、ディーラーが受け取る利益を支払っていない分、車両を安価に購入可能という見方も成り立ちます。
なぜ、上記のような思考に至ったのかというと、先日、独フォルクスワーゲンのディーラーに出向き「ID.4」に試乗してきました。その際、久しぶりに「もみ手」での接客を受けました。まあ「もみ手」は「手厚い待遇」と読み替えてください。約束の時間に訪問したらディーラーの敷地入口で担当者が直立不動で出迎えるは、キャビンアテンダントのようなコスチュームの女性スタッフが飲み物を提供してくれるわ、退出時には視界から消えるまで30度の角度でお辞儀をしてくれるわで……。
20年近く前に正規ディーラーで購入した前車メルセデス・ベンツ以来の体験でした。その前の仏シトロエン(新車を4台乗り継いだ)のときもそうでしたが、営業担当者が納車セレモニー的な振る舞いをしてくれたのを思い出します。
それと同時に、約5年前のTeslaの購入時のドライな対応とのギャップに思わず吹き出してしまいました。ID.4はすべて込み込みの見積もり額で約760万円と高額で、Model 3のコスパの良さを再認識させられました。同時に760万円の中には、ディーラーの利益も含まれていると思ったのです。
ディーラーの取り分が上乗せされていないからその分Tesla車両のコスパが良いのかもしれません。だからと言って、テスラジャパンの混乱した体制を正当化する理由にならないことは百も承知です。ですが、クルマの購入やその後の運用において日本型の「もみ手」接客を期待するのであれば「Teslaはなし」という認識をもつ必要がありそうです。少なくとも現状においてはそうです。
イノベーターやアーリーアダプターに属するTeslaユーザーであれば、「まあ、テスラだからしょうがないね」で見過ごされていたことも、これからは違います。日本のスタイルに慣れた多くの平均的なユーザーがたくさん誕生していますし、これからも増えるでしょう。クルマの購入はある意味人生の大イベントです。そのようなユーザーにとって現状のような不首尾丸出しの体制を続ける限りは、ブランド価値を毀損し、その先にあるのは、販売数の低下とユーザー離れです。
このような「負のスパイラル」という落とし穴を避ける意味でもテスラジャパンのかじ取りが正しい方角に向かうことを切に望みます。
著者プロフィール
●山崎潤一郎
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。

W杯で「消されたロゴ」逆手に(写真:ITmedia ビジネスオンライン)37

1ドル162円台、40年前との違い(写真:TBS NEWS DIG)134