
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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今年の6月29日、とある雑誌の取材で、とある街でハシゴ酒をしていた。その取材が早めの夕方に終わったので、あらためて打ち上げをしましょうと、同行してくれた編集さんと1軒の飲み屋に入る。そこに、ちょうど仕事終わりでタイミングの合った僕の友達も合流する。ちょっと不思議なメンバーであり、その3人で飲むのは初めてだった。
それぞれに自己紹介をすませ、楽しく飲んでいたら、話題が自然と、日本時間でその日の深夜2時から行われるらしい「FIFAワールドカップ2026の」日本対ブラジル戦の話になった。
まず断っておくと、僕はスポーツ観戦というものに一切の興味がない。決して、スポーツ選手やスポーツ観戦好きな方を否定する気持ちはなく、本当にただ、その分野に関してうとい。そんな僕でも、なんとなく気づいてはいた。目下、4年に一度の世界的なサッカーの祭典が開催されていることを。朝起きて何気なくSNSを見ると、ふだんならそんな時間に起きていることなどありえない知人が、それも複数人「今のプレー惜しい!」「よく耐えた!」(どちらもイメージ)というような発言をしていて、あ、たぶんサッカー、やってるんだなということはさすがに。
で、この日に同席したおふたりも、かつて一度もサッカーの話などしたことがないのに、このあと帰ったらひと眠りして、2時に起きてリアルタイムで試合を見ることをものすごく楽しみにしているんだと言う。すでにしっかり酒を飲んで、そんな時間に起きられるのかこの人たちは、と思うが、「起きますよ、お祭りですから!」と。なんだなんだ、みんな、そんなになのか。そっか、お祭りなのか。なんだか急にうらやましくなってきたぞ。よし、せっかくだから僕も、がんばって2時に起きてその祭りにのろう!
という夜があった。僕はその日、おそらく数年ぶんの「ブラジル」という単語を浴びた。
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以降しばらく、ブラジルが頭のすみにずっとある日々が続いていた。ブラジル......ブラジル料理......そういえば人生で何度か食べたことのある、シュラスコ。あれってブラジル料理だよな。久々に食べたいな。あとは、フェイジョアーダっていうのもあったよな。豆と肉をぐずぐずに煮込んだような、あれも好きだな。
そんなことを考えていたらたまらなくなり、家から遠くないブラジル料理店を探してみたら「シュラスコ&ビアレストラン アレグリア練馬」という店が見つかった。しかも、かなりリーズナブルにランチが食べられるらしい。行くしかない!
店は駅からすぐの場所にあった。ランチメニューはこのような構成。
・ミックスプレート(税込1,200円)
・イチボステーキプレート(1,300円)
・ガーリックステーキプレート(1,400円)
・ビーフステーキプレート(1,200円)
・シュラスコランチ(1,300円)
・特製煮込みカレー(1,000円)
・期間限定ランチプレート(この日は夏野菜カレーの青唐辛子ソーズ添え)(1,200円)
ランチメニュー
どれも魅力的だ。特にブラジルらしいのは、やっぱりシュラスコランチだろう。けれども、メニューにいちばん大きく写真が載っているミックスプレートの訴求力が、あまりにも群を抜いている。今日はこれだな。お手頃さが嬉しい、330円均一のランチアルコールから「香るエール」を追加して。
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店内は広々として明るく、ちょっと特別な日に来るレストラン的な雰囲気だ。開店時間の午前11時半からすぐにも関わらず、半分以上の席が、主に女性のグループ客で埋まっている。入店時に「ご予約はされていますか?」とも聞かれたから、かなりの人気店なのだろう。ちょっとした場違い感に気遅れするも、店員さんは笑顔で席を用意してくれた。
「香るエール」
無料のスープバーから玉ねぎ入りのコンソメスープをとってきて、ひとまずランチビールをごくり。少し落ち着いて周囲を見回すと、ほとんどの方が頼んでいるのは、15種類の肉や野菜と特製煮込みカレーまでが食べられる、シュラスコ食べ放題ランチのようだった。店員さんが定期的に各テーブルに「〇〇で〜す!」とサーブをしていて、見ると1mはあろうかという鉄串に巨大な肉塊がぶっささっていたりして、そこから豪快にナイフでじゅわりと切り落としては提供している。あまりにもうまそうだ......。お腹がぐーと鳴ったところで、僕のミックスプレートも到着。
「ミックスプレート」
おおおお! これはこれですごい迫力。大皿のはしにライスがこんもりと盛られ(大盛り無料だったが普通にしてもらった)、小皿にコールスローサラダ。あとはもう、肉! 肉! 肉! その内容は、ビーフ、ポーク、チキン、ソーセージなど、6種合計約210g!
その様相は、まさに肉のワールドカップ。どれも表面にこんがりと焦げ目がつき、ジュージューと音がしてきそうなシズル感だ。
別角度から
かなり大ぶりの、鶏もも肉と思われるグリルがふたつ。味つけがそれぞれ違いそう。まずは手始めにそこから攻めてみよう。
いただきます
驚いたのはその柔らかさで、フォークで抑え、ナイフを入れるとふわりほろりと肉が分断されてゆく。いざ食べてみると予感どおりで、肉が信じられないくらいに柔らかくてジューシー。噛みしめると肉汁があふれだす。ひとつはバジル風味、ひとつはピリ辛のパプリカ風味だろうか。あわてて白米をほおばると、幸福感が脳内を満たしだす。
柔らかジューシーなチキン
その横にあるのはこれも鶏肉、かなり巨大だがささみだろうか? こちらはぎゅっと締まった肉質で、シンプルな塩味で鶏の味が引き出されている。
続いては僕の最愛の肉、つまりラブミートであるところの豚肉。これまた巨大で、しっかりと脂がのっているのが見た目からしてたまらない。カットしてひとつ食べてみると、表面のさくりとした食感に続いて、肉と脂の旨味が洪水のようにあふれだし、それでいてあまりしつこさは感じず軽快だ。
ラブミート
そういえば肉たちにはどれも、金串を刺したあとがある。つまり、厨房に鎮座するシュラスコ専用のグリルで、適度に脂を落としながらていねいに焼きあげているということだろう。
テーブルにはひとつだけ、自家製らしき瓶の調味料が備え付けられており、どんなものか試しに豚肉にかけてみると、これがうまい。語弊を恐れずに言えば、おろし玉ねぎ入りの焼肉のたれ、といった感じか。
日本人が大好きな味
圧巻はやはり牛肉だった。ここまでですでに大満足しているものの、ひと口食べて心のなかで「王者の貫禄!」と叫んでしまった。適度な歯ごたえと力強い旨味、高貴な脂の香り、それを引き立てる絶妙な塩味。まるで高級ステーキを口に放り込んだかのようだ。白米との相性は、言うまでもない。
これぞ王様
すでにこれだけ楽しませてもらっていながら、皿の上にはまだ巨大ソーセージも丸々残っている。これがまた、みっしりとした肉質で絶品。
ソーセージもうまい
6種類の肉を気のおもむくままにほおばり、ひたすら白米で追いかける。家庭ではなかなか味わえないそんなぜいたくが、たったの1,200円で堪能できる。ここ、かなりすごい店だな。必ずまた来よう。
ちなみにもうひとつ驚きなだったのが、これだけ肉を食べたにも関わらず、食後、まったく胃にもたれる感じがなかったことだ。油を使わず、味つけも過剰にしないシンプルな調理法によるところだろうか。
最後に念のため、冒頭のエピソードの続きを。日本対ブラジル戦の夜、僕が深夜に目を覚ますことは、残念ながらなかった。気がついたらすっかり朝だった。試合は残念ながら敗退で、日本はベスト32にとどまったようだ。きっとそれでも、相当にすごいことなんだと思う。選手のみなさま、おつかれさまでした。4年後こそは、僕もがっつりとこの祭りにのってみたいと思います。
取材・文・撮影/パリッコ

