
箱根駅伝4連覇を狙う青山学院大。今季は大エース・黒田朝日(GMOインターネットグループ)が抜けた穴をどう埋めるのか、チームとして新たな課題に向き合っている。ホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会(7月4日)では、主将の中村海斗(4年)らが苦しむ一方、自己ベスト更新者が出るなど主力選手の明暗が分かれた。中央大や早稲田大が個の力で先行するなか、勝負の夏に挑む王者の現在地を追った。
【「今回は結果で見せないといけないと思っていたのですが...」】
7月4日のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会5000mのE組が終わった後、中村海斗は大の字になって倒れ込むと、しばらく起き上がれなかった。序盤は先頭を走り、レースを引っ張った。主将の意地を見せる走りは、闘志と気迫を感じられた。だが、2600mを過ぎてからずるずると後退し、終わってみれば14分29秒67と13分台には遠く及ばず、19位に終わった。その表情には悔しさが滲んだ。
「(せっかく涼しい)北海道まで来ているので、最後までついていきたかったんですけど、前に行く気持ちが先行しすぎて位置取りに失敗してしまった。自分としては(練習の疲労など)体の重さが少しあったほうがいいんですが、その重さがあまりいい感じでもなかった。それでも最低限まとめられる状態だったので、結果が出なかったのはメンタルかなと思っています」
中村は、個人としてはもちろん、キャプテンとしても結果を出さなければならない気持ちが強かった。
「自分自身、キャプテンとして、ここまで結果でチームを引っ張れていないですし、一方で2、3年生の主力が走りでチームを引っ張ってくれているので、そこはうれしいんですけど、自分としては不甲斐ない、悔しいと感じていたんです。だから、今回は結果で見せないといけないと思っていたのですが......」
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中村は悔しさを噛み締めるように、そう言った。
今回の千歳大会で弾みをつけたいと考えていた青学大の選手は中村だけではない。安島莉玖(3年)も関東インカレの2部10000mで23位に終わり、今回は5000mで自己ベストを狙って出場したが14分25秒77に終わった。フィニッシュ後、待機所に戻った安島は呆然とした表情を浮かべ、厳しい結果を受け止めていた。期待された小河原陽琉(3年)も、レース後半に苦しい展開になり、持ちタイムの13分31秒99に遠く及ばない13分55秒11に終わった。
一方、自己ベストを更新したのが、佐藤愛斗(3年)、そして黒田然(3年)だ。佐藤は13分42秒37、黒田然は13分42秒18でC組3位に入った。黒田然はこう振り返る。
「(自分の)持ちタイムは13分47秒だったんですけど、正直、ちょっと疲れが溜まっていたので、今回は自己ベストまで見ていなくて、意外といけたという感じでした。ここでひとつ結果を出せたので、これから合宿、駅伝でいい走りができるようにつなげていきたいです」
平松享祐(4年)も13分34秒05の自己ベストをマークした。
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「ペースだけ見ながら進めていましたが、思った以上に走れました。最後に上がらないかもと思ったんですけど、意外と動いてよかったです。今回は、個人でのタイムというよりはチームのためにタイムを出すということを意識していました。自分がタイムを出すことでチームに勢いをつけ、(学生)3大駅伝で勝てる可能性を見せることが今日の仕事だと思っていたので、4年生としてそれはできたかなと思います」
平松の言葉からは、4年生の意地と危機感が読み取れる。今の4年生は「最弱の世代」と言われてきた。過去3年間、この世代で箱根駅伝を走れた選手は平松のみ。部内基準のタイムをクリアできず、4名がマネージャーに転身した。原晋監督はよく「駅伝は4年生」と言い、4年生がチームで果たす役割を重視している。主将の中村はその言葉を受け止めつつ、その役割について考えたという。
「チームを引っ張るのは、いろいろな意味で簡単ではないです。ただ、僕は必ずしもチームのトップを走る、トップのタイムで走ることがチームを引っ張ることではないと考えています。それぞれまだ自己ベストが低いなかでも、確実に自己ベストを更新する走りや、そこに向かって努力する姿勢でチームを引っ張っていかないといけないと思うんですけど、その部分で4年生ひとりひとりの覚悟がまだ足りていないのかなと思っています」
どうやってチームを引っ張っていくべきか。中村は思い悩んだ時、先輩の吉田祐也や鈴木塁人(ともにGMOインターネットグループ)とジョグをしながら相談した。ふたりからは「自分らも本当にダメな世代で、よく監督に怒られた。自分たちの世代とよく似ているけど、自分のやり方で頑張れ」と言われ、その言葉に背中を押されたという。
【「今季の箱根駅伝は山で大逆転という見込みがない」】
今季は箱根駅伝4連覇がかかる青学大だが、黒田朝日という大エースが卒業し、どのようにチームづくりをしていくのか、注目されてきた。折田壮太(3年)は「今季の箱根は、山(5区)で大逆転という見込みがないので、個々が力を伸ばして平地で勝つしかない」と語っていたが、その主軸になるのが3年生世代だ。前回、箱根2区10位の飯田翔大、1区16位の小河原、10区2位の折田、7区3位の佐藤らが健在で、さらに安島、佐々木大輝もいる。
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前回は出場を逃した黒田然も、箱根出走を虎視眈々と狙っている。
「今のチームは4年生が精神面や言葉でチームを引っ張ってくれているなか、3年生の役割は結果を出すこと。そのなかで自分は、チームにいい選手がいますので、そこに追いついて、主力としてやっていく意識でいないといけないと思っています」
平松は、新戦力の台頭に期待している。
「今シーズンはエースがいないのですが、それはイコール、誰にでもチャンスがあるということだと思うんです。下級生のなかから主力組に入り込もうとして、しっかりと高め合っていけています。それを夏が過ぎて3大駅伝で発揮するだけかなと思っています」
中村は、今季のチームづくりについてはどう考えていたのだろうか。
「自分たちは『今年は総合力で勝つ』と言っているんですけど、一方で個々のレベルアップがないと総合力で戦えないと思います。エース不在で自分がという思いや団結力はこの前期シーズンでついてきたと思うんですが、もっと個人の力、強さをつけないと今年は駅伝で勝てないと、みんなが感じていると思います」
トラックシーズンは、中大と早大が圧倒的な個の力の強さを見せた。5000mのチーム上位6名の平均タイムは、いずれも13分30秒を切っている。タイムは必ずしも強さを示すものではないが、それにしてもこの数字は青学大をはじめ、他校からすると脅威でしかない。
「トラックシーズンの自己ベスト更新の数では、昨年と比べても引けを取らない結果になっています。ただ、タイムで言うと中大や早大に対して、まったく太刀打ちできていないのは感じています。
スピードという点ではトラックのタイムが指標にもなってくるので、そう考えるとかなり離されてしまっていますし、この2校は本当に強い。中大と早大はトラックをメインにしていて、自分たちは距離走やジョグをメインにしています。ただ、ここで負けていても仕方ないというのは言い訳でしかないので、夏でしっかり盛り返していきたいと思います」
中村の言う通り、青学大にはまだ夏がある。例年、ここで走り込み、体が重いなか出雲駅伝、全日本大学駅伝をこなし、コンディションを整え、箱根で結果を出してきた。
こうして磨かれるのがロード力だ。一定のスピードで走るトラックはタイムが出やすいが、駅伝で結果を出すには、襷を受け取った状況に対応して戦える力が重要になる。競った状態か、追う展開かで出力がまったく異なる。青学大の選手はその状況に応じて走れる力を夏に養っている。また、黒田朝日や太田蒼生(GMOインターネットグループ)など、とんでもない走りをする選手が突然、箱根に現れるのも青学大である。
「例年、青学は夏を大事にしています。夏でひとりひとりを強くする、チームを強くするというのをテーマにやっています。トラックは中大や早大に先行されていますが、ロードでは負ける気がありません。ハーフも駅伝も、ロードではどのチームにもトップを譲らない。そのためにも泥臭い夏にしたいと思っています」
中村は、決意を秘めた表情でそう話した。チーム全体に危機感が高まっている今、暑い夏に厳しい鍛錬を自分たちに課せるか。ここまでトラックで先行する中大や早大の背中を追うべく、青学大は勝負の夏を迎えることになる。
