【中野信治のF1分析/第9戦】2年ぶり優勝のルクレールに見えた内面の変化。注目度高まる中堅チームの戦闘力

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2026年07月13日 18:00  AUTOSPORT web

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2026年F1第9戦イギリスGP シャルル・ルクレール(フェラーリ)
 F1始まりの地であるシルバーストン・サーキットで開催された2026年F1第9戦イギリスGPは、シャルル・ルクレール(フェラーリ)が約2年ぶりの勝利を飾りました。

 今回は久々の優勝を果たしたルクレールの内面の変化。アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)の好走とトラックリミット違反。そして、ここ数戦で注目する中団チームについて、元F1ドライバーでホンダ/HRCの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 イギリスGPのルクレールは当初、チームメイトのルイス・ハミルトン(フェラーリ)を参考にクルマのセットアップの方向性を定め、自分のドライビングスタイルもハミルトンに寄せていくかたちで合わせていこうと試みたようです。ただスプリント終了後は自分を信じ、自分のドライビングスタイルに合わせ込んだセットアップに戻しており、これが予選でのフロントロウ獲得と決勝での優勝というポジティブな結果に繋がった大きな要因です。

 改めて週末のルクレールの仕事ぶりや走りを見ていると、ルクレールの内面の変化が感じられました。ルクレールは速さはありますが、メンタル面で小さな波が起きやすいドライバーです。大きな波ではないのですが、見かけによらずイライラする様子を幾度と垣間見せていたこともあり、自信を持って臨んだり、怒りを我慢するといった、メンタルコントロールがそこまで得意なドライバーではないという印象でした。ただ、今回は予選・決勝と、自信を持って臨み、結果に繋いだなと見ています。

 2026年シーズンに入って、ハミルトンが自らのドライビングスタイルをクルマに合わせ込んで速さを発揮するにつれて、ルクレールは大きなプレッシャーを感じたことでしょう。ドライビングに関しては少し迷路に入り始めていた部分もあったと感じます。そんな苦しみを経て掴んだ約2年ぶりの優勝ですので、今回ブレイクスルーできたことは、小さな波が起きやすかったルクレールにとって大きな出来事になったでしょうね。

 やはり自信の持ち方がレーシングドライバーの走りを変えますし、流れを呼び込むことにも繋がる。イギリスGPは自信が結果に結びつくことを証明する週末になりました。精神状態の良い・悪いが物事の流れを変えるということを、改めて見せられたように感じています。

 さて、決勝でルクレールの最大のライバルだったのは、ポールポジションスタートのアントネッリでした。アントネッリはホイールシールドの破損というマシントラブルで優勝戦線を離れる結果となりますが、もしアントネッリにマシントラブルが発生していなければどういうかたちでチェッカーを迎えていたのかは気になるところです。

 決勝前半、ルクレールが25周目にタイヤを替えるもアントネッリはコースにステイし、タイヤ交換を35周目まで引っ張りました。アントネッリの担当エンジニアあるピーター・ボニントンは、フェラーリのタイヤのデグラデーション(性能劣化)が早いだろうと予想していたからこそ、この戦略を採ったのでしょう。その判断自体は外れではないと思います。

 ただ、予想よりもフェラーリのタイヤは保ち、デグラデーションによるペースダウンはそこまで大きくはありませんでした。そのため、アントネッリがルクレールの背後に着いたら、面白い戦いや駆け引きが見られたのではないかと思います。

 また、スプリントを経て迎えた決勝だっただけに、各車エネルギーマネジメントの実戦を経験済みのため、決勝ではスプリントほど簡単にオーバーテイクを決める様子は多くは見られませんでした。そのため、10周ルクレールよりコンディションの良いタイヤを履くとはいえ、アントネッリにとってはマシントラブルがなかったとしても、簡単なレースにはならなかっただろうと想像します。

 アントネッリに関しては、マシントラブルがフォーカスされがちですが、私はピットストップを行うまでミディアムタイヤで引っ張り続けた走りが素晴らしかったと思います。好タイムでピットのタイミングを遅らせ続けたからこそ、最後のスティントでハードタイヤに履き替えてからルクレールに勝負を仕掛けられる可能性を残せました。アントネッリがそこまでしなければ破ることができないほど、今回のルクレール&フェラーリは調子が良かったですからね。

 そんなアントネッリは、マシントラブルに見舞われてコントロールが効かないなか、複数回のコースオフを喫し、トラックリミット違反に伴う5秒のタイムペナルティが下りました。9番手でチェッカーを受けましたが、5秒の加算でアントネッリは15位/無得点。これはルールなので仕方がないですね。

 今のF1はドライバーやチームが得をする、損をするに関係なく、明文化されたルールにのみ則ってペナルティを下すのがトレンドです。以前は損得も含めた審査があったと思いますが、今は厳格にルールに基づいた審査となっており、ときには『ルールのためのルール』のような状況が生じ、ファン目線だと違和感を抱く部分が出てきてしまいます。

 ただ今回のアントネッリのケースだと、『マシントラブルでコーナーを曲がりきれないなら、曲がれるまで速度を落としてからターンインしてください』というのがFIAや審査員の主張だと私は思います。『曲がらないのに速く走ろうとするから何度も飛び出すんですよ』と。FIAや審査員の立場を想像すれば、そういう見方もできます。逆に『タイムゲインがないコースオフにペナルティを課すことはどうなんだ?』という意見もあるでしょうが、こういった事象は今後も議論されていくでしょうね。


■ここ数戦で注目する中団チーム

 ここ数戦はトップ4チーム(メルセデス、フェラーリ、レッドブル、マクラーレン)以外のチームの動向も非常に興味深いです。そのなかでも最も興味深いのは、アルピーヌを1点差で追うレーシングブルズ(コンストラクターズ6位)です。リアム・ローソン、アービッド・リンドブラッドという決して仲がいいようには見えないコンビで4戦連続ダブル入賞という安定ぶりを見せています。

 トップ4チームとは明らかな差はありますが、ベスト・オブ・ザ・レスト(中団チームの最上位)を争う中団チームの中では抜群の安定感を発揮していますし、ローソンとリンドブラッドは強烈なライバル関係でありつつ、お互いをポジティブに高め合っていますね。ライバル関係ゆえの『絶対にチームメイトより前に行く』という気持ちが、今のレーシングブルズのクルマのポテンシャルを引き出すために役立っていると思います。

 ローソンはもともと速いドライバーですが、安定すると強さが際立ちます。また、今季唯一の新人であるリンドブラッドが参戦1年目からローソンと張り合える現状は驚異的です。若手を育てることが目的でもあるレーシングブルズにとっては、マシン、ドライバーともにポテンシャルがある、かなりポジティブな状況だと思います。

 その次にはアルピーヌ(コンストラクターズ5位)とアウディ(コンストラクターズ9位)が同じくらいに面白いです。アルピーヌはピエール・ガスリーというレース巧者がエースに君臨しつ、最近は若手のフランコ・コラピントが覚醒状態でガスリーに迫りつつあるので、このふたりの競り合いも注目です。クルマに関しては得意なコースと苦手なコースで成績に波がありますが、バチっと決まった際の速さはレーシングブルズを凌駕するポテンシャルを秘めています。

 そして、毎戦パフォーマンスを少しづつ上げてきているのがアウディです。ベテランのニコ・ヒュルケンベルグが前身のザウバー時代から継続してクルマを作るという部分でチームに貢献しつつ、若手のガブリエル・ボルトレートが予選職人ヒュルケンベルグを上回る走りを予選・決勝で見せてくれています。現状は入賞まではまだまだハードルが残りますが、秘めているポテンシャルは決して侮れないチームですね。

 さて、今回のイギリスGPは3日間合計でF1GP史上最多の56万4000人の来場者数を集めました。改めてここ数年のF1の人気、盛り上がり方は半端ないなと感じるとともに、F1も次のステージに進んだなと思います。今までのF1の価値とは違う場所でF1の価値が生まれてきており、非常に興味深いです。

 また、今季はイギリス人F1ドライバーが多いこともあり、イギリスファンの応援も力が入ったのではないでしょうか。イギリス人ドライバーの活躍を期待した観客が大勢シルバーストンに集結するといった、いろいろなピースがうまく揃った結果、史上最多の観客動員に繋がったのではないかと思います。改めてF1人気の凄まじさを感じたイギリスGPでした。


【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。

・公式HP:https://www.c-shinji.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

[オートスポーツweb 2026年07月13日]

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