『日本史の詰んだ人図鑑 (サンクチュアリ出版)』本郷和人(監修)これまでの人生で何度「詰んだ......」と感じたことがあるだろうか。生きていくうえでは、何事も順風満帆というわけにはいかず、一度あるいは何度もピンチに陥ることがあるはずだ。もちろん、歴史上で「成功者」として語られる人物にも「詰んだ」瞬間は存在する。しかし彼らはピンチを逆転させたからこそ、歴史上に名を残すことになったのだ。
今回紹介する『日本史の詰んだ人図鑑』(サンクチュアリ出版)は、そんな歴史上の偉人たちの「詰んだ」エピソードを47人分詰め込んだ一冊である。
たとえば、加賀百万石の祖・前田利家。織田信長に少年時代から仕え、その武芸で出世街道まっしぐらと思われていた利家だが、"短気"のせいで大ピンチに陥ったことがあるという。
愛妻からもらった大事な笄(こうがい・髪を整える道具)を、茶坊主の拾阿弥に盗まれ、さらにはバカにされた利家。信長に訴え出るも、拾阿弥は信長のお気に入りだったため、お咎めなしだった。
「どうにも怒りがおさまらない利家は、あろうことか信長の目の前で拾阿弥を斬り殺してしまったのです。お気に入りを惨殺された信長は『利家を殺せ!』と激怒しますが、家臣たちが必死になだめ、利家はなんとかクビになるだけですみました」(本書より)
殺されはしなかったものの、完全に武将としては「詰んだ」状態。そこで利家は「戦で活躍すればいい」と考えた。しかし利家はクビになった身である。本来は戦に加わることは許されないが、利家はなんと"勝手に"参加したのだ。そして2つの戦で手柄を立て、ついに信長の許しを得ることとなった。短気ゆえに詰んでしまったが、粘り強さと強引さで返り咲いた、「かぶき者」の利家らしいエピソードである。
自分ではどうにもならないことで、人生が「詰んで」しまった人物も。『南総里見八犬伝』で知られる滝沢馬琴は、貧しい武家の子として生まれながらも物語を書くことへの憧れを捨てきれず、24歳から人気戯作者・山東京伝に弟子入りをする。
そして長い修業の末、48歳で『南総里見八犬伝』を書き始めると大ヒット。大長編作品となり、「八犬伝」の執筆が馬琴のライフワークになるのだが、67歳の時に悲劇が......。目のかすみが日に日にひどくなり、73歳で両目を失明してしまったのだ。このまま「八犬伝」は未完となるのか......?
「読むことも書くこともできなくなった馬琴を助けたのは、数年前に亡くなった息子の妻・お路です。『私が物語を聞いて、代わりに書きます!』と手をあげたお路でしたが、口述筆記は簡単な仕事ではありませんでした。というのも、馬琴はやたらめったらむずかしい漢字や言葉を使ったからです」(本書より)
単語の意味や漢字の説明を聞きながらの執筆。さらに、やっと書き上げた1枚をお路が読み上げ、馬琴が細かく修正するというプロセスで、物語は遅々として進まない。それでもお路はへこたれず、時には馬琴に叱られ、時にはなだめられながら執筆を続ける。そして、馬琴が最初に執筆を始めたときから28年、ようやく全98巻106冊の『南総里見八犬伝』が完成した。理解者の存在と諦めない心、そして血の滲むような努力が名作を生み出したのだ。
ベストセラーと言えば、『源氏物語』の紫式部も「詰んだ」人である。今も昔も色男の代名詞とされる"光源氏"を生み出した紫式部。彼女自身もさぞキラキラした人物だったのだろうと思いきや、実は陰キャで繊細な性格だったという。そのため華やかな宮仕えが性に合わず、さらに頭の良さが悪目立ちをして同僚たちから無視をされる羽目に。
結果、宮中に上がってからわずか数日で実家に帰ってしまった。当時、紫式部は夫に先立たれ、娘をひとり抱えた身。これからの生活をどうすればいいのか......。
そして半年以上が過ぎた頃、紫式部は再び宮中に戻ることになる。しかし無策では戻らなかった。実は実家に籠っていた間、"恐怖の女房社会=宮中"でどうすればうまくやっていけるのかを考えていたのだ。
「『みんなが冷たいのは私の頭が良すぎるせい。バカなふりをすればいいんだ!』と気づいた紫式部は、『一』という漢字すら書けないおっとりした無能キャラに生まれ変わります」(本書より)
この作戦が見事成功し、同僚と打ち解けられるようになった紫式部。『源氏物語』の執筆活動も軌道に乗り、宮中で大ヒットとなる。あえての"キャラ変"でピンチを乗り切った紫式部、切り抜け方も機転が効いている。
自分のやらかしで「詰んだ」り、追い詰められて「詰んだ」り。また、出自や時代の流れで「詰む」こともあるだろう。しかし歴史を見ると、「詰む=終わり」ではないのだ。なんとかなるということを教えてくれる本書は、まさに今人生が「詰んだ」と感じている人にこそ読んでほしい一冊だ。
『日本史の詰んだ人図鑑 (サンクチュアリ出版)』
著者:本郷和人(監修),小豆だるま(イラスト),東滋実(執筆)
出版社:サンクチュアリ出版
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