佐原伸一氏(チームスズキCNチャレンジ) 例年よりも1カ月早く開催された2026年の鈴鹿8耐が幕を閉じ、国内の2輪レースとしては、8月29〜30日に栃木県・モビリティリゾートもてぎにて開催される真夏の全日本ロードレース選手権の第5回大会が待ち受けている。フル参戦しているチームスズキCNチャレンジのプロジェクトリーダーを務める佐原伸一氏に、鈴鹿8耐の総括と全日本ロード中盤戦への展望、さらに今後のビジョンについて話を聞いた。
■挑戦3年目はサステナブル技術の拡大に確かな成果。助っ人・水野涼の加入も「大きかった」
スズキが2024年に社内でのレース活動を復活させるべく始動させたチームスズキCNチャレンジは、カーボンニュートラル技術を投入したGSX-R1000Rを走らせて環境負荷低減に取り組んでおり、今年で3年目を迎える。初年度より鈴鹿8耐に参戦しており、2年目からは併せて全日本ロードのJSB1000クラスにも参戦しているチームだ。環境技術とレースパフォーマンスを両立させる存在として、その注目度は年々高まっている。
昨年に引き続き100%サステナブル燃料や、MOTUL バイオ由来のベースオイルなどを使用しているほか、今年はさらに新しい取り組みも行っている。カーボンに代わる新素材とも言われ注目を集めているビーコンプ(持続可能なサスティナビリティに優れた天然素材を使用している)をカウリングやシートカウルの広域に使用。さらにサイレンサーやマフラーのみだけでなく、テールパイプのパイプ部分にも環境配慮型チタンを取り入れている。また、ブリヂストンが開発する再生資源・再生可能資源比率を更向上したタイヤも使用しており、今年は再生資材料が増えているという。
「僕たちが行っているプロジェクトは人数も少なく、様々な部署から人を集めて、ようやくチームが成立しています。開発も同じように2輪だけでなく、4輪やマリンといった様々な部署の人たちに加わってもらい、選手たちと直接レースの開発に関わることで、レース独特のスピード感や求められる速さを知ることができると思います。一緒に開発することで技術力の底上げ、そして人材育成にも繋げることができていますし、今後も速さに繋げるとともに、さらに技術力を底上げするできるように頑張っていきたいですね」
そう語るのはプロジェトリーダーの佐原氏。直接目には見えないところではあるが、毎年少しずつ環境に負荷低減への取り組みを促進させ、社内およびチーム一丸となってレースを戦っている。そんななか2026年の鈴鹿8耐は、参戦初年度の8位を上回るベストリザルトの7位を獲得。予選では惜しくもトップ10トライアルを僅差で逃すものの、決勝では転倒などもなく、一時は強豪チームやEWCフル参戦組といった上位勢にも見劣りしないペースをも披露するなど、環境負荷低減に取り組みながら、しっかりと結果を残している。
また、今年はチーム結成当初から加わっているエティエンヌ・マッソン、初年度から開発にも携わり、2年目からはライダーとして実際に戦っている津田拓也、そして全日本ロードでポイントリーダーの水野涼が新たに迎え入れ、3名体制で挑んだ。電撃加入となった水野も事前テストでスズキ車に初めて跨ったというが、少しずつアジャストを進め、決勝では連続スティントもこなすなど、チームに大きく貢献していたようだ。
「決して満足はしていませんが、我々の実力はここにあるんだという現状を把握するのにも繋がったと思っています。0.07秒差でトップ10トライアルを逃したことは悔しいですが、自信に繋がりました。ライダー3人もドライとウエットでも変わらず似たようなタイムで走ってくれていましたし、同じ方向性を向いてくれていて、1台のマシンをチームワークで作り上げたという実感がとてもあります。水野君も一緒に仕事をしている期間は短かったですが、とてもクリアなコメントをしてくれて、要求もはっきり言ってくれますし、要求に対してできるできないということもすぐに理解してくれます」
「バイク作りという面でも、レース中でも雨の中でとてもいいペースで走ってくれました。それがなければ、この順位に繋がらなかったかもしれません。やっぱり水野くんの加入というのは大きかったですね。他のライダーも『今年はさらに良くなったね』と言ってくれたので、ライダーを選ぶ責任者として、その評価は嬉しかったですよ」
■鈴鹿8耐での経験を活かして全日本ロード中盤戦へ。世界の舞台見据えるも今後の活動は……?
また、今年の鈴鹿8耐は事前テストも含めると雨での走行も多く、チームスズキCNチャレンジとしては、鈴鹿8耐においては参戦初年度以来初めての経験だった。先ほども触れたように、普段は再生資源・再生可能資源比率を高めたサステナブルなスリックタイヤを使用している一方、レインタイヤにおいては現在開発されていないため、他チームと同じ通常仕様のレインタイヤを使用して挑んでいたという
佐原氏は「マシンのポテンシャルを左右するファクターのひとつとしているタイヤですが、レインタイヤはあまり経験がなく、マシンとどうマッチングするのか不安でした。結果的にうまく機能していましたし、トップ10内を走るのにも十分なペースはあったので、ポジティブに捉えています。通常のバイクやセッティングでも普通のタイヤもサステナブルタイヤも入れ替えながら使えるんだよという証にもなったと思っています」と手応えを口にする。
また、今年はそれに加えて数多くあるサステナブルアイテムの中でも新しいパーツとして装着されている可動(可変)式のウイングレットが、実戦で確かな効果を示したという。
「ハイスピード(高速域)でウィングが風の抵抗を受けて変わることによって、CdA(空気抵抗計数)が良くなり、低速ではしっかりとダウンフォースが出るというものを開発し始めました。決勝では耐久性も確認できましたし、効果も感じられたので今後も進めていこうとしている開発項目のひとつですね」
「一見すると『それってエコなの?』と思われるかもしれませんが、高速域での風の抵抗は燃費にも繋がりますし、ダウンフォースをしっかりと得ることも、僕たちが使っている再生素材が入ったタイヤをより普通のタイヤ以上にパフォーマンスとグリップを向上させたいとトライしているものです。なのでプロジェクトの目的からは外れていないと思っています。実用化に向けて一歩ずつ進められていると感じています」
環境性能とレースパフォーマンスの両立を掲げ、進化を続けるチームスズキCNチャレンジ。今年もトップ10争いを繰り広げ、過去最高の7位を獲得するなど着実に成果を残した。佐原氏も「今年もトップ10で争うことができ、世界の仲間入りもできたのかな」と振り返る。一方で、鈴鹿8耐レース終了後に取材を行った時点では、その先の活動については"白紙"だという。
「チームスズキCNチャレンジの活動としては、来年以降はまだ白紙ですね。今回の鈴鹿8耐を経て、僕たちより上にいるのは世界で活躍するライダーを率いるチームやEWCフル参戦組といったライバルたちです。なので、僕個人としては次は世界に挑戦するしかないと思っています。耐久性を確認するためにも耐久レースはベストなシチュエーションですが、所詮まだ8時間でしか確認ができていないので、24時間だとどうなるのか? というのはいつかは通らなければいけないステップだと思っています。来年になるのか、再来年になるのか、その先になるのかはわかりませんが、頑張っていきます」
年内における活動としては、鈴鹿8耐を終えて全日本ロードに照準を当てることとなる。今季は表彰台獲得こそないものの、昨年8月の第3戦もてぎ大会はレース1で表彰台も獲得している。昨年よりパワーアップしたカーボンニュートラル技術を投入したGSX-R1000R、そして鈴鹿8耐での経験を活かしてより戦闘力向上も期待される。
「今年は全日本ロードにフル参戦しており、前半戦はいろいろ新しいことにトライしていたがために苦労したことも多々ありましたが、鈴鹿8耐のテストやレースウィークを通して分かったことや、セッティングも進んでいるので、後半戦にはおそらく結果としても結びついてくると信じています」
鈴鹿8耐における活動は今後不透明ということだが、挑戦を続ける彼らはきっとさらにパワーアップした姿を披露してくれることだろう。また、全日本ロードも併せて彼らが今後どのような進化を遂げていくのか注目していきたい。
[オートスポーツweb 2026年08月29日]