2026年F1第12戦オランダGP アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)とランド・ノリス(マクラーレン) 大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回、筆者のF1ジャーナリスト、ネイト・ソーンダースは、オランダGPでのメルセデス代表トト・ウォルフとマクラーレン代表アンドレア・ステラの発言に焦点を当てた。
────────────────
■マクラーレンの復調に警戒するウォルフ
夏休みを挟んでマクラーレンが復調したことで、メルセデス代表のトト・ウォルフは不安を抱いて後方に注目せざるを得ない状況になっている。ウォルフによれば、迫り来るパパイヤオレンジのマシンを警戒すべき、もっともな理由がいくつかあるという。特に問題となるのが、マクラーレンの反撃を食い止めるために、メルセデスがアップグレードへどれだけ資金を投入できるかという問題だ。
ランド・ノリスはハンガリーとオランダで勝利を挙げ、チャンピオンシップ争いの様相をわずかに変えた。いずれのレースでもマクラーレンは大規模なマシンアップグレードを投入しており、現在パドックの大半は、現コンストラクターズ王者が当面のところメルセデスにとって最も手強いライバルになったと認めている。
次は、メルセデスが自らのアップグレードで反撃する番だ。F1では通常、そういう展開になる。
■「我々には金がない」ウォルフの衝撃発言
ところが、ウォルフはザントフォールトでのレース後の記者会見で、メルセデスには、コストキャップの制約下において、近いうちに反応できるだけの予算上の余裕が残されていないという、興味深い発言をした。
「我々にはマシンにアップグレードを投入するための資金が残っていない」とウォルフは語った。
「以前にも言ったが、我々は計算に基づき、シーズンを通して開発費を均等に配分しようとしている。最大のアップデートをいつ投入すれば、チャンピオンシップのポイントを最大化できるかを考えている。できないことは、できないのだ」
これは驚くべき告白であり、パドックでも物議を醸した。ウォルフの発言を信じない者もいた一方で、シーズン開幕前に、メルセデスがライバル勢に対して圧倒的な優位を確固たるものにしようとして支出を多く取りすぎたことを認める発言として受け止める者もいた。
F1のルールでは、各チームがマシンに費やせる年間予算は2億1500万ドル(約343億円)に制限されている。この中には、マシンの修理費も含まれる。予算をいつ使うかについての制限はない。そしてメルセデスは今季、非常に強力な状態でシーズンを迎えたため、オーストラリアGP用のマシンに多額の資金をつぎ込んだのではないかという見方が、次第に強まっていた。
■新パーツ投入数で最下位のメルセデス
今年投入された新しいマシンパーツのリストを見ると、メルセデスはライバル勢と比べて少ない。FIAが発表した、メルボルンでレースが始まって以降に投入された新パーツの数では、フェラーリが40点、レッドブルとマクラーレンが38点なのに対し、メルセデスはわずか24点にとどまっている。もちろん、パーツによってサイズも重要度も規模も異なる。しかし、ランキング首位のチームがこのリストにおいてトップチームのなかの最下位にいることは、注目に値する。
それでも、メルセデスはまだかなり余裕のある立場にいる。アンドレア・キミ・アントネッリはジョージ・ラッセルとルイス・ハミルトンに59ポイント差をつけ、ランド・ノリスには83ポイント差を築いている。コンストラクターズ選手権でも、メルセデスは87ポイントのリードを保持している。夏休み前に相次いだ信頼性の問題がなければ、両選手権でのリードについて、チームはもっと大きな安心感を持っていたことだろう。
ウォルフはさらに、メルセデスの計画では、シーズン終盤に大規模なマシンアップグレードを投入することに重点を置いているとほのめかした。
「これは開発競争なのだ。アップグレードを投入すれば、トップチームはそれぞれ少なくともコンマ数秒を稼ぐことになる。我々が失っているのはまさにそこだ」
「そういう意味で、シーズン序盤よりも厳しい戦いになるだろう。シーズン終盤になっても、彼らが今と同じようなペースでマシンに多くのものを投入できるかどうかが、そのうち分かる。シーズン序盤や中盤に、終盤よりも多くの資金を使うという、異なる戦略を取っているチームがあるかもしれない」
■マクラーレン代表「ウォルフの発言は信じていない」
マクラーレン代表のアンドレア・ステラは、ウォルフの主張に疑問を呈した一人だった。
ウォルフの発言について尋ねられたステラは、「あなたの言うことを信じたいが、実際には信じていない」と答えた。
ステラが指摘したのは、2027年から導入されるエンジン規則の変更に対応するため、コストキャップの下で各チームに認められている追加の予算である。これは、エンジンの構造やレイアウトに変更が生じた場合に、それに対応するためのマシン変更に充てられる余地を各チームに与えるものだ。
つまり、もし本当にマクラーレンが現在、倒すべきチームになったとメルセデスが懸念しているのであれば、追加で認められた予算をアップグレードに使えるはずだ、というのがステラの指摘である。
「すべてのチームには、コストキャップの報告上、追加の予算枠が認められている」とステラは説明した。「私の記憶が間違っていなければ、2026年のコストキャップ計算に使える金額は約300万ドル(約4億8000万円)だ」
「そして、メルセデスはライバルたちがゲームのレベルを一段引き上げているのを見て、今こそ、当然ながら開発が進められているはずのものを活用するだろう」
「風洞の中にあるマシンは、彼らが現在サーキットで走らせているマシンよりもかなり速いはずだ。そして今、その潜在能力の一部を、実際のマシンに投入するアップグレードへと変換したいと考えるだろう。だから、私はメルセデスがアップグレードを投入すると確信している。もちろん、そうでなければ我々にとってはありがたいことだが、そんなことは考えはしない……」
■メルセデスの次の一手はいつか
F1ではいつものことだが、チャンピオンシップ争いはサーキットの外でも繰り広げられている。時には、メディアを通じた短い発言の応酬という形で戦いが展開されることもある。
イタリアGPでは、フェラーリがエンジンのアップグレードを投入すると予想されている。一方、メルセデスが次の大規模アップグレードをいつ投入するのかは、大きな注目点となるだろう。
本当にメルセデスは、すでに支出の限界に達しているのだろうか。もしそうなら、チャンピオンシップ争いにとっては朗報である。あるいは、ウォルフが単にライバルたちを油断させようとしているだけなのかもしれない。答えは時が明らかにするだろう。
[オートスポーツweb 2026年09月01日]