
フィーチャーフォンの名機にその名を由来するモトローラのrazrシリーズは、縦開きのフリップ型フォルダブルスマホとして知名度を高めてきた。折り曲げられるディスプレイを備え、折りたたみケータイを再現した格好だ。そんなモトローラが、ついに横開きのフォルダブルスマホを開発、日本市場に投入した。その1台が、「motorola razr fold」だ。
横開きでも、ヒンジやディスプレイにはフリップ型で培ってきたノウハウが注ぎ込まれており、初物ながら薄いボディーを採用。他社のフォルダブルスマホの“弱点”ともいわれていたカメラやバッテリーなどを強化しており、活性化しつつある市場に打って出る。日本版は、おサイフケータイにも対応。キャリアでの取り扱いはないが、IIJとタッグを組むことでMNPでの10万円割引も実現した。
とはいえ、razrはやはりフリップ型のイメージが強い。なぜ、モトローラはこのタイミングで横開きのフォルダブルスマホを開発したのか。しかも、FeliCaを搭載するなど、日本向けのカスタマイズもしっかり施している。そんなrazr foldの開発経緯や日本に投入を決めた理由を、モトローラ・モビリティ・ジャパンの開発事業部長の伊藤正史氏に聞いた。
●フォールド型だと新しいユースケースを訴求できる
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―― 意外なことに、razr foldはこれだけフォルダブルスマホを作ってきたモトローラとして初めての横開きです。なぜ、いま、横開きなのでしょうか。
伊藤氏 フィーチャーフォンのrazrからの系譜もあり、モトローラはこれまでスマホのrazrもフリップ型で展開してきました。閉じるとコンパクトで、開くと大画面ということをアピールしています。日本では、お求めやすいフリップ型としてプレゼンスを築いてきました。一方で、最近では横開きのフォールド型へのニーズも含め、折りたたみへの要望が多様化しています。
フォールド型は閉じた状態だと普通のスマホで、開くとさらに大画面になります。もちろん、ガラケーを経験していない若い人にはフリップ型が小さくてかわいいという意見もありますが、フォールド型だと新しいユースケースを訴求でき、受け入れられやすい。持ち歩くものを減らしたいというニーズにも応えられます。
ノートPCやタブレットとスマホを2台持ちする必要なく、1台でタブレットのようなプロダクティブな作業にも、エンタメコンテンツを楽しむのにも使えますからね。こうした総合的なメリットを考え、モトローラとしてフォールド型も選択肢に入れる必要があるという判断に至りました。
―― iPhoneのフォルダブルがフォールド型で登場するといわれていますが、日本市場投入にあたっては、そういったこともきっかけになったのでしょうか。
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伊藤氏 もちろんそうです。今年(2026年)は大きくフォールド型の市場が動くとみています。モトローラはフリップ型を中心にプレゼンスを築いてきましたが、フォールドという選択肢があることもお示ししておかなければ、今後はなかなかキツくなってくるだろうと思っています。
●ストレート型スマホの「最高峰」をフォルダブルにも搭載
―― 機能面やサイズ感のバランスなどを見ると、他社のフォールド型を研究し尽くしている印象があります。弱点を埋めにきたというような。
伊藤氏 初めてフォールド型を出すにあたり、キャッチコピーは「最高峰」にしています。最高峰を目指したのが、出発点だったからです。他社のものを見ていると、値段と大画面のバランスを取るためか、少しカメラのスペックが抑え気味です。バッテリー容量もそこまで大きくない。それに対し、われわれは今持っている最高のカメラを入れています。
このカメラは、評価機関「DXOMARK」でゴールドカメラのラベルをもらった性能のもので、海外で販売している「signature」にもまったく同じものが入っています。つまり、バータイプのスマホの最高峰を、フォルダブルにも入れたということです。バッテリーは、シリコンアノードのテクノロジーを適用して、大容量化を図っています。
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フォルダブルスマホの場合、バッテリーを2つに分割しなければならず、その中で厚みを抑えているのでどうしても容量が少なくなりがちですが、この技術で大容量化を達成できました。
また、フォルダブルには興味はあるが、耐久性が問題であるというお声はよく聞きます。こうした声は、特に持っていない方から聞くことが多い。そこにもこだわりました。具体的には、ヒンジの部分に、今までフリップでも採用してきたしずく型ヒンジを採用しています。折りたたんだときに、ティアドロップのようにたわむ構造で、それを突き詰めて折り目を目立たなくしています。
素材には、剛性が高く、車にも使う2000MPa級の金属を使い、メインディスプレイの後ろにはチタンのプレートも入れています。それで折りたたんだときの応力のかかり具合を分散し、耐久性や剛性を高めています。もう1つはアウトディスプレイで、こちらにはコーニングの「Gorilla Glass Ceramic 3」を採用しています。こちらは、コンクリートに2mの高さから落としても割れません。1mの高さから20回連続で落としても割れないという試験も実施しています。
●フリップ型で培ったノウハウで薄いボディーを実現
―― 開いたときの厚みが4.55mmです。最薄ではありませんが、最初のフォールド型でここまで薄くできたのには驚きました。
伊藤氏 端末が太る要素にはバッテリーやディスプレイ、後はヒンジの構造がありますが、ディスプレイのチタンプレートは薄いもので、その上には極薄のガラスを載せています。全体的に、薄さを損なわない設定になっています。
―― ヒンジを小型化できたのは、これまでのrazrのノウハウが生きているからなのでしょうか。
伊藤氏 はい。フリップで培ってきたノウハウを入れています。折り目が目立たないしずく型ヒンジを搭載しながら、厚みは抑えています。本来、しずく型は空間が必要になるのである程度厚くなりがちですが、そこはバランスを取って薄さをキープしました。
―― しかも、今回、ペン入力にも対応しています。
伊藤氏 対応するにあたり、ディスプレイの剛性を高めています。また、ペン入力はアウトディスプレイ、メインディスプレイの両方に対応しています。アクティブスタイラスで4096段階の筆圧検知も可能なものです。
―― さすがに、本体内蔵は難しいですよね。
伊藤氏 そうすると、どうしても厚くなってしまいます。それも検討はしていましたが、最終的にこの形に落ち着きました。
●メイン端末として使ってほしいのでFeliCaを搭載
―― もう少し仕様について伺いたいのですが、チップセットが「Snapdragon 8 Gen 5」で「Elite」なしのSnapdragonなのはなぜなのでしょうか。
伊藤氏 Eliteだと高くなってしまいますから(苦笑)。Qualcommさんの中ではEliteが本当のフラグシップ、Eliteなしはやや落ちる形になっていますが、横開きのフォルダブルで「Snapdragon 8 Elite Gen 5」まで載せると、価格はさらに上がってしまいます。日本のキャリアさんとのIOT(インターオペラビリティテスト)の関係もあり、このタイミングではSnapdragon 8 Gen 5になりました。
―― とはいえ、パフォーマンスがそこまで違うわけではないですよね。
伊藤氏 クロックスピードやGPUはやや落ちますが、ヘビーなゲーマーの方がガンガン使うのでなければ、違いは分からないと思います。
―― 日本版は、FeliCaが搭載されおサイフケータイに対応しています。オープンマーケットモデルだけで、この価格だと台数も少ないと思いますが、なぜここまでカスタマイズしたのでしょうか。
伊藤氏 SIMフリーのみという形で「razr 40 ultra」を出したときにはおサイフケータイを搭載していませんでした。ただ、「これにおサイフケータイがあれば買ったのに」という声がものすごく多かった。日本でメインのスマートフォンとして使うには、もはや必須の機能だからです。razr foldは、1台でPC、タブレットと普段使いのスマホを兼ねる端末で、メインになるべきものだと考えています。そう判断して、入れることにしました。
―― グローバル版は3月のMWCで正式に発表されましたが、その際には日本導入が決まっていたのでしょうか。
伊藤氏 実は完全に決まっていたわけではなく、パートナーとコミュニケーションをしていた時期になります。その後ぐらいに、出すことが決まりました。キャリアモデルはさすがに無理ですが、まずはオープンマーケットでなら出せます。ただ、あまりに遅くなると他社が来てしまうということもあるので、このタイミングになりました。
―― そのタイミングでの決定で、FeliCa搭載できたのが驚きです。対応に時間はかかりませんでしたか。
伊藤氏 世に出すまでには、FeliCaのハードウェア試験とソフトウェア試験があり、どうしても最後の試験のところに時間がかかってしまいます。ただ、今回はどうしてもこのタイミングで出したかった。「そこを何とか」と頼みこんで、かなり早くやっていただけることになりました。
●インパクトを出すためにIIJで10万円割引を実施
―― しかし、IIJではまさかの10万円引きでインパクトが大きかったです。あれは、モトローラの割引も含めているのでしょうか。
伊藤氏 IIJさんとは、以前からパートナーシップを組んでお互いの強みを生かし、ニーズを補完し合える製品戦略を展開してきました。おかげさまで、IIJさんの中でのシェアも年々増加しています。今回は、横開きのrazr foldをできるだけお求めやすい価格で展開したいという両社の思いがあり、ブレークスルーポイントを議論してきました。20万円を切ったら売れるということで、お互いに投資をして10万円引きを何とか実現できました。やはりインパクトを出すには、10万円引きという数字を入れた方がいいですからね。
―― キャリアからも時間があれば導入したかったという声はありませんでしたか。
伊藤氏 キャリアさんも横折りのフォルダブルに市場があるとは分かりつつも、様子を見て少し慎重になっているところはあります。まずはうちが出し、他社も出して市場が立ち上がってくれば、もっとバリエーションを出す方向になっていくのではないかと期待しています。バリエーションを広げることは模索していきたいですね。
―― ユーザーからの反響はいかがですか。
伊藤氏 海外ではすごく評判がよく、日本で今回発表した際には、過去にない反響の大きさでした。フリップ型も引き続きやっていきますが、正直、話題性という意味だとこちらの方が大きかったと思います。
―― 目黒蓮さんよりrazr fold、と。
伊藤氏 ある意味では(笑)。響いている層はまったく違いますが、X(旧Twitter)での反響は今までより大きいですね。
●「moto g37/g37j」で面を取る 価格とスペックのバランスに苦心
―― サポートや保証はどうなっていますか。フォルダブルだと特に重要だと思います。
伊藤氏 キャリアモデルではないので、モトローラとして直接、群馬の修理拠点で修理を受け付ける体制にしています。また、ディスプレイについては、傷がついたり割れてしまったりしたお客さまには、1回無料で交換するサービスもやっています。横開きだと値段が高いので、どうしようかとなりましたが、やりましょうということで1回は無料にしました。
―― 他のモデルはiCrackedで即日修理を受け付けていますが、razr foldも対象でしょうか。
伊藤氏 はい。対象です。ただ、iCrackedの修理にはmoto careが適用されません。現在、有償修理だけでなく、メーカー保証修理も受けられるようにすることを検討しています。
―― 一方で、フォルダブルは価格的に、何十万台も売るような端末ではないと思います。会社としての成長や売り上げを担保するのは、同時期に発表した「moto g37/g37j」ということでしょうか。
伊藤氏 はい。売り上げを達成するためのメインドライバーで、出荷台数も含めて面を取っていきます。モトローラは、徐々に日本市場での認知度が上がってきましたが、若い人を中心に、まだまだ「何のメーカー?」という人が多い。手に取りやすく、ぱっと見で目を引く色で2万円をちょっと超えているという価格でありながら“高見え”するものなので、ぜひ手に取っていただきたいですね。
―― ドコモ版が、本体価格2万2000円でインパクトがありました。
伊藤氏 総額2万2000円を達成できる値付けにはこだわりました。今回はg37ですが、前の世代はY!mobileにも出した「moto g66j/g66y」という型番の製品です。そこからメモリがグワーッと上がってしまい、どうしてもバランスを取る必要がありました。
そのため、例えばg66でやっていたIP68の防水はやめてIP64にした他、カメラもg66はソニーさんのLYTIAでしたが、こちらはより部品価格を抑えたものになっています。
―― とはいえ、メモリがここまで上がってしまうと、それだけのスペックダウンで何とかなるものなのでしょうか。
伊藤氏 メモリ自体も、レノボグループの調達力を駆使して、さらに工夫をすることであの値段になっています。社内では、各国でメモリの争奪戦みたいになっていますね……。
―― 争奪戦ですか。g37は売り先が多く、確保に成功したということでしょうか。
伊藤氏 日本としてこれだけの台数をやる、どこのキャリアとこれだけやるのをコミットするので、とにかくよこせと言いました(笑)。おかげ様で、相当な数量を調達していただけました。
―― メモリやストレージのバリエーションが豊富ですね。
伊藤氏 キャリア側との会話で、ああいうスペックになっています。ただ、メモリはすしネタのように時価になっていて、会話している間にもどんどん値段が上がってしまいます。2万円台だとこの容量じゃなければ難しいというようなお話があり、それでもということであのような形になりました。
●取材を終えて:サポート体制と販路の強化が課題に
スペイン・バルセロナのMWCでrazr foldが発表されたのは、3月の初め。その時点では、まだ日本での正式展開は確定していなかったことが分かった。一般的なスマホの開発スケジュールとしてはかなり急ピッチだが、それだけ同社がフォルダブルスマホの市場の変化に敏感だったことがうかがえる。反響の大きさからも、おサイフケータイの試験を巻き上げてまで投入したのは正解だったといえそうだ。
もっとも、現状ではサポート体制がまだ手薄だ。特に、iCrackedでの修理にメーカー保証が適用できるようにする点は、早急に検討を終えて対応を進めてほしい。メインスマホとして使ってもらいたいのであれば、この点は特に重要だ。この反響を生かし、次機種以降で販路を拡大できるかも、モトローラにとっての宿題になりそうだ。
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