塚本晋也監督「ネルソンさん−」ベネチア映画祭上映「戦争を止めようという気持ちで作った」

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2026年09月05日 10:53  日刊スポーツ

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ベネチア映画祭の公式上映後、囲み取材に応じる「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」の塚本晋也監督(C)Kazuko Wakayama

世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭で最高賞・金獅子賞を争うコンペティション部門に出品された、塚本晋也監督(66)の3年ぶりの新作「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」(11日公開)の公式上映が4日(日本時間5日)イタリアで行われた。


上映終了後、エンドロールが始まると観客が一斉に立ち上がり、スタンディングオベーションは約8分に及んだ。塚本監督と96年「シャイン」でアカデミー主演男優賞を受賞したオーストラリアの俳優ジェフリー・ラッシュ(75)は感動の面持ちで観客を見渡し、主演の米俳優ロドニー・ヒックス(52)は、感激のあまり涙を流した。


塚本監督は「企画自体がチャレンジングで、多くの会社の方が簡単に許可を出してくれるような企画ではなかったため、実際に上映してみるまで、どのようなリアクションがあるのかは分かりませんでした」と、映画祭出品が決まった当初の思いを吐露。その上で「今の世界に必要な映画だという確信はありましたが、加害者の視点から描いた本作が、どこまでお客さまに受け入れてもらえるのか未知数でした。だから今日、実際に上映して、お客さまに伝わったという感触を得られたので、本当に良かったなと思います」と手応えを口にした。


「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」は、18歳で海兵隊に志願してベトナム戦争に従軍した帰還兵アレン・ネルソンさんの自伝「『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』ベトナム帰還兵が語る『ほんとうの戦争』」(講談社文庫)が原作。ネルソンさんは、自らの体験を元に日本全国で1200回以上の講演を行い「ほんとうの戦争」を語り続け、09年9月に枯れ葉剤の影響とみられる多発性骨髄腫で亡くなった。同書では加害者の視点から、戦争の恐ろしい現実と拭いきれない精神的な痛みをつづった。


塚本監督は作家大岡昇平氏の戦争文学を映画化した14年の「野火」を、父一雄さんの遺産も注ぎ込んで自主映画として製作し、自ら主演したが、製作過程で「加害者の目線で描くことの大切さ」を痛感。18年1月に「ネルソンさん−」の原作に出会い、プロット(あらすじ)を書き始めた。同年に「斬、」でベネチア映画祭に参加した際、大きな映画を手がける会社から声がかかり、企画提案し1年、話を進めた。


ただ、海外からの出資がつかず、キノフィルムズに話を持ちかけた。20年にGOサインが出たが、全世界がコロナ禍に見舞われ、製作もストップ。その後、22年1月に木下グループ単独での製作となった。企画は23年にスタートしたが、企画承認の条件が「世界中の誰でも知る俳優をキャスティングすること」で、主人公のネルソン役にヒックスを起用し、ネルソンに寄り添うニール・ダニエルズ医師役にはラッシュ(75)、戦争体験者でPTSDを患った父親を持つ黒井役には「野火」で安田を演じたリリー・フランキー(62)を起用した。


記者からは、上映後の観客の反応を受けて「映画には戦争を止める力があると、今回の上映を通してどのように確信を持ったのか」との質問が出た。ラッシュは「本作には、問いかけるシーンが非常に多く入っています。それは映画の中での質問であると同時に、見ている人たちにも疑問を投げかける問いになっていたと思います」と語った。一方で「これで戦争を止められるかというと、非常に難しい。むしろ今の時代は、ひどくなっている気がします」と率直な思いを語った。それでも「今日の観客の反応を見て、なぜ私たちは戦争をするのか、という疑問を、本作は多くの人に投げかけることができたと思います」と語った。ヒックスは「ある種の観客に対して、種まきができたのだと思います。これからどのような形で水をあげていけば、そこから何かが芽を出すかもしれないと思います」と期待を寄せた。


脚本・撮影・編集も兼任した塚本監督は、日本兵による人肉食にも触れた「野火」、戦争で家族をなくし、焼け残った居酒屋で体を売って生きている中、戦争孤児と出会い、希望を見いだす女を趣里(35)が演じた23年「ほかげ」と近年、戦争をテーマに映画を作ってきた。「ネルソンさん−」は、一連の戦争をテーマにした作品の、1つの到達点とも言える作品となる。そうした経緯から「僕は戦争を止めようというくらいの気持ちでこの映画を作っています。見ていただいた方に、頭で考えるだけではなく、体で戦争の恐ろしさを感じてもらい、本能的に戦争を拒否するような体感を持ってもらいたいと信じて作っています」と強調した。


一方で、「実際にジェフリー(ラッシュ)が言ったように、今の世の中の状況を考えると、自分が強く投げたと思っている石つぶが、吸い込まれてしまうのではないかという気持ちが今日までありました」とも吐露。ただ、観客からの大反響を受けて「もしかすると、戦争を止められるかもしれないという気がしました。そのためには少しでも多くの人に観てもらって、戦争を決める上の人たちのことを止められることはできる。なるべく多くの人に見てもらうことができれば、もしかすると戦争をかなり止められるのではと今日のリアクションを見る限り、感じました」と熱く語った。


塚本監督は、ベネチア映画祭の常連として知られ、監督作がコンペ部門に出品されるのは、09年「鉄男 THE BULLET MAN」、14年「野火」、18年「斬、」に続き4回目(全部門通じては8回目)。映画祭常連の、同監督作品の上映ということもあり、客席は満席となった。日本映画が同部門に出品されるのは、23年に審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞した、濱口竜介監督(47)の「悪は存在しない」以来3年ぶり。

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