“最小”給油リスの鈴鹿9位で得た収穫と、スーパーGTの魅力をさらに広げる案の考察【トムス吉武エンジニア/レースの分岐点】

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2026年09月10日 07:00  AUTOSPORT web

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連載コラム【トムス吉武エンジニア/レースの分岐点】
 スーパーGTのGT500クラスで2023年、2024年、2025年の3連覇を達成し、2026年は4連覇目に挑むTGR TEAM au TOM’S。2026年も引き続き、36号車 au TOM’S GR Supra(坪井翔/山下健太)の吉武聡チーフエンジニアに特別コラムを寄稿していただき、毎戦レースのターニングポイントとなった部分を中心に振り返ります。

 8月22〜23日の第5戦鈴鹿で36号車は予選11番手からスタートし、最重量ハンデを背負いながらも9位入賞を果たしました。今回は36号車のレース展開の解説に加え、スーパーGTのレースがさらに面白くなるかもしれない案について私見を語っていただきました。


■給油リス2段階のリカバリーの難しさ

 第5戦の鈴鹿は、週末を通して暑さが厳しいなかでのレースとなりました。気温が高く、路面温度もタイヤに厳しい状態。さらに36号車はサクセスウエイト50kgに燃料リストリクター、さらに給油リストリクター(2段階)を背負った状態で、GT500唯一の最大ハンデ状態でした。

 給油リスを装着するのはまだ2回目で、2段階目(約15秒ロス)は今回が初。どこまでレースで戦えるのかはまだ手探りの段階でしたが、クルマの仕上がり自体は悪くありませんでしたので、レースに向けたベースは整えられていたと思います。

 それでも予選は、Q1突破まで0.025秒という非常に僅差でQ1敗退。通過してさらに上位のグリッドからレースを戦えたら、決勝の展開も変わっていたはずですし、クルマの良さも感じていただけにわずかな差での敗退は悔しかったですね。

 決勝は11番手からスタートし、序盤に37号車Deloitte TOM’S GR Supraのペナルティストップや19号車WedsSport BANDOH GR Supraのスローダウンがあって9番手に浮上。ピットタイミングでは14号車ENEOS X PRIME GR Supraに結果的にアンダーカットされましたが、のちに目の前の64号車Modulo HRC PRELUDE-GTがGT300との接触でコースオフしたため1ポジション上がり、9位フィニッシュとなりました。

 クルマのポテンシャル自体は充分にありましたし、展開次第ではライバルの前に出られる可能性もあったのですが、ピットでポジションを落としたことが大きく響きました。終盤は14号車ENEOSに追いつく展開も見えたものの、セーフティカーが入ったのでチャンスを活かすことはできず。鈴鹿はコーナーが続くレイアウトかつタイトで抜きづらいサーキットですので、燃料リストリクターも背負っている状況でのリカバリーは容易ではありませんでした。改めて、給油リス適用時のQ1突破の重要性を痛感しました。

 ここまでの2戦、サクセスウエイトがありながらもできすぎだった(編注:第2戦=優勝、第4戦=4位)ことを考えれば、今回の9位はハンデが機能したうえでの妥当な位置だと受け止めています。厳しい条件でも2ポイントを確保できたことは、評価したいところです。ただ戦略面では考え方を変える必要性も感じました。給油リスがなかった時代であれば、今回のピット戦略でいくつかポジションを上げられていたはず。それでも給油リストリクターを背負った状態では、ピットタイミングを含めて違うアプローチを取らなければ前には行けません。今回のレースは、その課題を明確にしてくれた週末でしたね。

 一方で触れておきたいのは、第4戦富士以上の強さを見せたホンダHRCプレリュードGT勢。これまでのレースでも、ダウンフォースがありそうな雰囲気を感じていたので、鈴鹿での好走もある程度予想はしていましたが、エンジンやタイヤ選択の良さも相まって全体的に底上げされていると感じます。しかも速いのが1台だけではなく複数台そろっている。GRスープラ勢としてはより一層危機感を覚えています。

 また、37号車Deloitteと100号車STANLEY HRC PRELUDE-GTはエンジントラブルに見舞われてしまいました。今年は年間エンジン1基での運用となっているため、両車にはエンジン交換による5秒ストップのペナルティが科されています。エンジンの年間使用制限は昨年の2基から今年は1基となりましたが、年間1基の初年度ですので各メーカーが対応に苦労していますし、その結果として故障リスクが高まってしまい、そのペナルティがチーム側に反映されてしまうのは懸念すべき点だと思います。シーズン終盤のタイトル争いの最中にエンジンが壊れる事態は避けたいところですし、例えばメーカーごとにスペアエンジンを1〜2基、ペナルティなしで保有できる制度があっても良いのではないかと感じています。

 鈴鹿は暑さもハンデも厳しい週末でしたが、予選Q1突破の重要性やピットタイミングについてなど、確かな学びと課題が見えたレースでした。次の第6戦SUGOでは、燃リス適用のマシンが6台に増えるので、予選Q1の厳しさも必然的に変わるはずですし、今回の反省も踏まえて予選から勝負をかけていきたいと思います。あと、今年はウエットのレースがまだないので、ハンデを救う雨も期待したいところですね(笑)。


■スーパーGTの面白さをさらに引き出すアプローチ

 今回の鈴鹿は展開が限られたレースでしたが、こうした週末だからこそ今回は、エンジニアとして普段感じている『スーパーGTがもっと面白くなるための工夫』についても触れてみたいと思います。レースのフォーマットやタイヤ、無線の扱いなど、観戦体験の改善の余地はまだ多く残されているのでは? と思います。

 まずはタイヤのセット数について。現在の300kmレースではドライタイヤは4セットで戦っていて、一昔前からは減少傾向にあるのですが、エンジニア目線で言えば、セット数が少ないほど選択の緊張感があり、外せない状況で判断する面白さがあります。ただ一方で、ウエットタイヤは1セット足りない印象があります。もし公式練習からフルウエット状態が続いた場合、予選用のニュータイヤを温存するために、公式練習で走れない場面があります。もう1セット余裕があれば、雨の週末でも走れる時間が増えますし、ファンの方にも走行を見せられるはずです。来年のワンメイクタイヤでも同じ構成になるのであれば、追加は検討してほしいところです。

 次は、来季からのワンメイクタイヤの方向性について。ファンにとってのレースが面白くなるポイントは、『ちゃんとタレるのかどうか』ではないでしょうか。ソフトは比較的早くグリップが落ちるが、ハードは最後まで保つけど1発のタイムは出ない──そのバランスが重要かと思います。ただ、スーパーフォーミュラのようなスプリントとは違い、スーパーGTはセミ耐久のレースですので、タレるとはいえ壊れるタイヤは絶対に避けなければなりません。具体的には、ソフトでもレース距離の3分の1をギリギリ走れるくらいが理想。半分を超えて走れてしまうと、後半もソフトで足りてしまいますし、戦略が単調化します。タイヤメーカーにとっても、タイヤをどう作り込むかは難しい課題だと理解していますが、来年以降は重要なポイントとなりそうです。

 また、レース距離については現在300kmと3時間の2パターンがありますが、個人的には450kmレースがもっとも面白いと感じています。ピットタイミングの違いによって戦略の幅が広がり、さまざまな展開が生まれやすいからです。一方で、観戦する側からすると300kmが時間的にちょうど良いという点も理解しています。現状の300kmレースは、ミニマム付近で多くの車両が一斉にピットへ向かうため、展開がワンパターンになりがちです。もし300kmのままでレースの面白さを高めるのであれば、ピットイン前の義務周回をレースの半分程度(第5戦で言えば25〜26周)に設定し、戦略の幅を広げる方法も考えられます。距離そのものよりも、ピット義務の設定次第でレースの魅力が大きく変わるのではないでしょうか。

 また無線交信の開示についても、レースを面白くする要素のひとつですよね。スーパーGTは無線の開示が限定的ですが、スーパーフォーミュラではアプリ『SFgo』でほぼすべての無線が聞けます。ファンの方が望むのであれば、スーパーGTは参戦台数も多くて観客も多いので電波の問題などがあると思いますが、無線の開示を進めるのは良いことだと思います。

ドライバーも言葉を選ぶようになりますし、人間性が見えるのはレースの魅力のひとつです。坪井選手はSFでよく文句を言っているようですが、実際はあれが本性かもしれません(笑)。また山下選手は文句を言うときは無線ボタンを押さずに喋るタイプだと思うので、それぞれのキャラクターが出て面白いのではないでしょうか。

 ただし、無線が完全に開示されると、ライバルに戦略が伝わってしまうリスクがあります。SFでは、各チームが前後のドライバーの無線を監視するようになり、レースが情報戦に寄ってしまっている部分も感じます。スーパーGTで導入するのであれば、チーム側が聞けない仕組みを作るなど、レースの本質を損なわない形が望ましいと感じています。

 あとはテレメトリー・システム(走行中のマシンデータ表示)の導入についても、情報開示という点では観戦体験の幅を広げる良い試みだと思います。ただ、現在のサーキット環境では、インターネット環境が万全とは言えない実感があり、通信量が膨大になってパンクしてしまうようにも思われるので、レースを面白くするアイデアだけでなく環境整備も課題となりそうですね。

 今回の鈴鹿は展開が少ないレースでしたが、こうしたレースを面白くするための工夫は、技術者としてつねに考えているテーマでもあります。フォーマットやタイヤ、無線の扱いなど、改善の余地はまだ多く残されています。今後のスーパーGTがより魅力的なシリーズになることを願っています。


●Profile:吉武聡(よしたけ さとし)

福岡県出身、1979年3月23日生まれ。自動車メーカー勤務を経てTRD(現TGR-D)へ入社し、2013年にトムスへ加入。F3のエンジニアを務めながら、2014年からはスーパーGT GT500クラスで36号車のデータエンジニアを、2020年からはトラックエンジニアを担当。2021年、2023年、2024年、2025年の王者に輝いた。2026年も36号車のチーフエンジニアを務め、スーパーフォーミュラ・ライツでも35、36、37、38号車の4台のチーフエンジニアを担当する。

[オートスポーツweb 2026年09月10日]

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