【中野信治のF1分析/第13戦】不利な状況で上出来の入賞を果たした角田裕毅。最後に明暗分かれたメルセデスのタイヤ戦略

0

2026年09月10日 15:40  AUTOSPORT web

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AUTOSPORT web

2026年F1第13戦イタリアGP 角田裕毅(レーシングブルズ)
 モンツァ・サーキットで開催された2026年F1第13戦イタリアGPは、19番グリッドスタートのアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が今季7勝目/通算7勝目、そして母国グランプリ初優勝を飾りました。

 今回は代役2戦目で今季初入賞を果たした角田裕毅(レーシングブルズ)の仕事ぶり、バーチャル・セーフティカー(VSC)導入により明暗分かれたメルセデス勢のタイヤ戦略、予選日の主役となったアルピーヌの速さの要因などについて、元F1ドライバーでホンダ/HRCの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 まず、今回のイタリアGPでも裕毅がレーシングブルズから代役参戦することになり、決勝を10位で終えてチームに貴重な1ポイントを持ち帰りました。オランダGPを経ての代役2戦目だったため、今年のレーシングブルズのクルマに対する理解もかなり深まった状態での参戦となり、レースウイークを通じて終始落ち着いて仕事を進めることができていたように見えました。

 予選はクルマのトラブル(編注:チームは原因を発表していない)もあり、17番手でQ1敗退となりました。どのようなトラブルだったのかはわかりませんが、トラブルがなければアービッド・リンドブラッド(レーシングブルズ)と同等のタイム(予選Q3進出/10番手)を出すことはできていたと思います。タイムだけを見れば、裕毅はセクター1(主にストレート区間)で0.5秒以上失っていましたが、そこ以外では近いセクタータイムでした。トラブルを抱えながらも、クルマのポテンシャルを引き出そうと試みていたように思います。

 決勝は非常に巧みなタイヤマネジメントを見せ、強いレース運びでした。とはいえ、流れが裕毅に向いていたというわけでもありませんでした。スタートでハードタイヤを履きましたが、シャルル・ルクレール(フェラーリ)のクラッシュに伴う序盤の赤旗導入時にミディアムタイヤに交換。残り約50周をミディアムタイヤで走り切ることになりました。

 チームメイトのリンドブラッドはミディアムタイヤでスタートし、赤旗中にハードタイヤに履き替えています。そのリンドブラッドが8位となりましたが、タイヤの差を考えればミディアムタイヤを最後まで持たせて10位となった裕毅は上出来の結果が出せたのではないでしょうか。

 その裕毅は次戦スペインGPでも代役参戦することが発表されました。新設コース『マドリンク』での初開催となるため、コースを習熟するスピードが速いドライバーが有利になるでしょう。また、半市街地コースながら、ターン3からターン4までの長いストレートに加え、セクター2〜3は中高速コーナーもあり、チームによってはクルマの特性が合わずに苦労するところもありそうですが、レーシングブルズのクルマは合っている方だと感じます。

 裕毅はコースを習熟するスピードが非常に速いドライバーでもあるので、誰もが実戦が初めてというコースでの戦いは裕毅にとってポジティブな流れを作りやすいのではないかと思い、大きなチャンスになる可能性もあると期待しています。

 おそらく、ウォールに囲まれた半市街地コースかつ中高速レイアウトの『マドリンク』での戦いは大いに荒れます。速さに加えて、レースを生き残ることができれば、ベスト・オブ・ザ・レスト(トップ4チーム以外の最上位)でのポイント獲得というシンプルな目標に留まらず、さらに上位でのポイント獲得も不可能ではないでしょう。裕毅の代役3戦目は、そんな期待を抱かせる一戦です。


■新品タイヤがなかったラッセル。VSC中にタイヤを替えたアントネッリ

 イタリアGPのレースを振り返ると、今回はやはりアントネッリの19番グリッドからの母国グランプリ初優勝が、本当に素晴らしかったですね。ただ、決して予想外の勝利だったということもなく、トップ争いには絡んでくるだろうとは予想していました。レース後半に、ジョージ・ラッセル(メルセデス)とのポジション争いのなかで、ターン2のターマックが剥がれた部分の砂利に乗ってコースを飛び出した場面はヒヤッとしましたが、そこ以外は危なげなく、大きなリスクを冒すこともなく、確実に順位を上げました。

 メルセデスのクルマ、そしてパワーユニット(PU)はポテンシャルが非常に高いというアドバンテージはありましたが、それでも落ち着いてレースを進め、バーチャル・セーフティカー(VSC)導入で新品のミディアムタイヤに履き替えると、首位を走るラッセルとの間合いを縮め、母国のファンの前で勝利を掴みました。

 VSC中のアントネッリのタイヤ交換がどれだけ優勝に寄与したか、VSC中のタイヤ交換がなくとも勝てたかは定かではありません。ただ、ラッセルはスタート前の時点で新品タイヤはハードが1セット、ミディアムが1セットしかなく、決勝をミディアムタイヤでスタートすると、赤旗中にハードタイヤに履き替えました。なので、ラッセルはVSC中にタイヤを替えようにも、新品タイヤがありませんでした。

 メルセデスも、ラッセルにタイヤが残されていれば、VSC中にラッセルのタイヤも交換したと思います。2位に終わったラッセルが決勝後にあまり不満を口にしなかったのも、アントネッリと同じ新品ミディアムが残されていなかったことをわかっていたからでしょう。結果的にはVSC中に新品ミディアムタイヤに替えるという選択が正解でしたが、VSC導入の段階でそれが正解だという確信を持つことは難しいです。そのため、ラッセルをステイさせ、アントネッリと戦略をわけたメルセデスの判断は理にかなっていた感じます。


■土曜日の主役。アルピーヌ&ガスリー最速の要因とは

 土曜日の主役は、F1参戦10年目でキャリア初ポールポジションを獲得したピエール・ガスリー(アルピーヌ)でした。チームメイトのフランコ・コラピント(アルピーヌ)はランド・ノリス(マクラーレン)を上回る8番手で、アルピーヌが2台揃ってスピードを見せました。なぜアルピーヌがここまで速かったのか。さまざまな理由が考えられますが、まずはクルマのセットアップがスイートスポットにピタリとハマったからではないかと私は考えています。

 アルピーヌはストレートスピードがとにかく速く、ダウンフォース量を減らした際、減らした分得られるメリットをしっかりと享受できるクルマです。クルマのプラットフォームやサスペンション・ジオメトリーを含め、ダウンフォースが少なくても戦えるクルマだったことで、ストレートで速さを見せつつ、ブレーキングも良く、低速コーナーでもタイムを落とさなかった。これは非常に大きかったと思います。

 高速コーナーも速く、メルセデス勢に大きく差をつけられたのはレズモ(ターン6〜7)くらい。それ以外の区間はブレーキングも、ストレートスピードも合格点で、Rの小さいコーナーでもしっかりとトラクションがかかっていました。それに、Q3のアタックではガスリーが最終ターン11(クルバ・アルボレート/旧称パラボリカ)で神がかり的な走りを見せたことが、ポールポジション獲得に繋がったと見ています。クルマの元々のプラットフォームが高速サーキットに合い、セットアップを持っているとなると、アルピーヌはアゼルバイジャンGPなどでも速さを見せつけるかもしれませんね。

 ガスリーは決勝を7位で終え、コラピントは9位となりました。これが、アルピーヌの精一杯の結果だったと思います。予選一発は出せても、タイヤのデグラデーション(性能劣化)もある決勝を、速いペースで走り続けることは、予選とはまた違う難しさがあります。それに、燃料を積んだ状態のクルマのバランスは、トップチームと比べると少し劣っていたように見えました。とはいえ、イタリアGPのベスト・オブ・ザ・レスト争いのなかでは最も強力なクルマでしたね。


■ホンダ育成加藤大翔がFIA F3初優勝。最終戦で期待すること

 イタリアGPはサポートレースも見応えがあり、FIA F3では『ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)』の加藤大翔(ARTグランプリ)がスプリントレースでFIA F3初優勝、フィーチャーレースでは3位に入り、2レースともに表彰台登壇となりました。

 この週末、ARTグランプリのクルマがすごく良く、チームメイトも好位置にいました。大翔はレース中のタイヤマネジメントをしつつ冷静に、時にアグレッシブさを見せてポジション争いを見せました。冷静に自分自身を俯瞰しながらレースを戦えていることは、本当に素晴らしかったと感じます。今季のFIA F3はマドリンクで最終戦となりますが、しっかりとしたラーニングカーブ(学習曲線)を描きながら、ドライバーとして成長できているとを感じさせるレースでしたね。

 大翔はドライバーズランキング6位で最終戦を迎えますが、ランキング3位とは5ポイント差です。最終戦は予選2回、スプリントレース1回(リバースグリッド)、フィーチャーレース2回、獲得できるポイント通常大会より多い特殊な開催フォーマットになります。大翔はもう1回優勝すること、そしてドライバーズランキング3位で最終戦を終えられたら最高だと思います。

 また、山越陽悠選手(VAR)と大翔は同ポイントで、山越選手もランキング3位の可能性はあります。FIA F3には今季、中村仁選手(ハイテック/TGR-DC)、りー海夏澄選手(ARTグランプリ)も含め日本人4名が参戦しており、彼らは日本人同士でも切磋琢磨しながら、それぞれ良いレースを見せてくれていますから、個人的には若い日本人ドライバー全員の活躍を応援しています。


【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。

・公式HP:https://www.c-shinji.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

[オートスポーツweb 2026年09月10日]

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定