
ミルウォーキー・ブルワーズのジェイコブ・ミジオロウスキーがその剛球で、今季のMLBを席巻している。現在24歳、長身から繰り出す最速105.5マイル(約169.8キロ)を誇る怪物は打者・大谷翔平に真っ向勝負を挑み、佐々木朗希には自ら歩み寄り、投球動作についての技術談義を行なう一面もある。ポケモンカードにハマる怪物投手の素顔、そして哲学に迫る。
【豪速球だけではない配球の妙】
剛速球を最大の武器にする投手が、圧倒的な力を長く保ち続けるのは容易ではない。100マイル(約160.9キロ)を超える速球は打者を圧倒する一方、投手自身の身体にも大きな負荷をかける。登板を重ねれば疲労が蓄積し、わずかな球速低下やフォームのズレが成績に直結する。
その難しさは、ポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)の今季を見てもわかる。2024年に新人王、2025年にはナ・リーグのサイ・ヤング賞に輝いた右腕は、今季も高水準の投手であることに変わりはない。それでもフォーシームの平均球速は昨季の98.2マイル(約158.0キロ)から96.9マイル(約155.9キロ)へ低下。防御率は過去2年の1点台から3点台後半へ上昇し、奪三振率も2024年の33.1%から28%台まで下がった。剛腕投手が絶頂期を維持することの難しさを感じさせる数字である。
そんななか、まさに「旬」を迎えているのが、ミルウォーキー・ブルワーズのジェイコブ・ミジオロウスキーだ。身長2メートルを超える長身から、最速105.5マイル(約169.8キロ)。9月8日のシカゴ・カブス戦を終え、今季は27試合に先発して14勝5敗、防御率1.95、161回1/3で236奪三振。ナ・リーグのサイ・ヤング賞の本命にふさわしい成績を残している。
予測防御率(xERA/実際の失点ではなく、投手が許した打球の質や三振、四球などから算出する「内容上の防御率」)も2点台前半で、結果が幸運によって生まれたものではないことがわかる。フォーシームは平均100.6マイル(約161.9キロ)。長い腕を生かして打者に近い位置でリリースするエクステンションもメジャー最高水準で、表示された数字以上の速さを感じさせる。全投球の6割以上を占めるとわかっていても、打者は対応できない。
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さらに95マイル(約152.8キロ)を超えるカットボール、92マイル(約148.0キロ)前後のスライダー、88マイル(約141.6キロ)前後のカーブを操る。100マイル超の速球に備えて早くスイングを始める打者にとって、普通の投手なら十分に速いこれらの球が「遅い球」となり、タイミングを狂わせる。
もっとも、シーズン終盤に入ると、無敵に見えた右腕にも攻略の兆しが表れた。8月以降は6試合のうち5試合で失点を許し、前回登板ではカブスを相手に4回5失点と打ち込まれた。序盤に101、102マイルを連発していた速球も、最近は「わずか」100マイル前後にとどまる場面が増えていた。
しかし、そのカブスと中5日で再戦した9月8日、ミジオロウスキーは6回1/3を4安打1失点、9奪三振と修正力を見せた。全93球のうちフォーシームは63球。使用率は68%に達し、平均100.7マイル(約162.0キロ)、最速104.5マイル(約168.1キロ)を記録した。カブスの打者がフォーシームを28回振って、空振りは14回。実に半分がバットに当たらず、9三振のすべてをこの球で奪った。前回は4回5失点だった相手に、変化球を増やしてかわそうとしたのではない。むしろ最大の武器をさらに多く投げ、力で押し返した。
剛腕投手の「旬」は決して長いとは限らない。だからこそ、圧倒的な球を持つ投手ほど、身体の状態やメカニクスを調整し、打者の対策を上回り続けなければならない。ミジオロウスキーも、105マイルの才能だけで勝っているわけではなかった。
【「"さあ、打ってみろ"ということです」とポケモンカード】
その圧倒的な力を筆者が間近で見たのが、8月のロサンゼルス・ドジャース4連戦だった。登板2日前、大谷翔平との対戦について尋ねると、ミジオロウスキーは迷わず言いきった。
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「彼も、僕が何をするかわかっています。僕は速球を投げます。彼が打つか、打てないか。やってみればわかります。"さあ、打ってみろ"ということです」
その言葉どおり、初回から大谷に104マイル(約167.3キロ)級の速球を立て続けに投じた。3回には適時三塁打を許したものの、最大の勝負どころとなった5回1死満塁では、104マイルを意識させたうえで低めのスライダーを振らせ、空振り三振。続くフレディ・フリーマンも退け、ドジャースの反撃を断った。試合前に「さあ、打ってみろ」と宣言し、実際にメジャー最強クラスの打者へ自分の球をぶつけた。その勝負どころで、ミジオロウスキーが上回った。
ただ、筆者が強く惹かれたのは、マウンド上の迫力だけではなかった。ミジオロウスキーは3日間、報道陣の質問に嫌な顔をせず、一つひとつ丁寧に答えてくれた。試合後、三塁打を打たれた一球についても、言い訳はしなかった。
「自分が投げたかった球でした。翔平が少し体を開きながらも、うまくバットを届かせました。(ゴロが高く跳ねて一塁手の頭を超えたことについては)それも野球の一部です。相手だって勝つことがあります。彼らもメジャーリーガーですから」
自分の力には絶対的な自信を持つ。しかし、相手の力も素直に認める。強気ではあっても、決して傲慢ではなかった。
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さらに印象的だったのが、日本生まれのポケモンカードへの愛情である。新シリーズが発売されると、婚約者と一緒に全種類をそろえる「マスターセット」の完成を目指す。1箱に30数パックが入ったブースターボックスを月に2、3箱購入し、時間があるときにふたりで開封するという。ドジャースのキケ・ヘルナンデスがSNSに投稿したカード開封動画も見ていた。ロサンゼルス周辺のカードショップを教えてもらい、「見に行ってみようと思っています」と笑った。
大谷に「さあ、打ってみろ」と言い放つ剛腕が、球場を離れると婚約者と並んでポケモンカードの袋を開けている。その落差に、自然と親しみを覚えた。
【佐々木朗希の元を訪れた理由】
そして登板翌日、彼の関心がポケモンだけではないこともわかった。
試合前のドジャースタジアム。外野のフィールドに姿を現したミジオロウスキーは、自ら佐々木朗希と「チーム山本由伸」のスタッフのもとへ歩いていった。以前に短く言葉を交わしたことはあったが、落ち着いて話すのは初めてだった。
「ようやくきちんと会うことができました。ドジャースとは何度も対戦してきたけれど、なかなか彼と会えなかった。ようやく会えて楽しかったです」
ミジオロウスキーが佐々木に聞きたかったのは、同じように長い腕を生かす投手が、エクステンションや投球動作をどのように考えているのかだった。一方の佐々木も、ミジオロウスキーのフォームが年ごとに変化していることに気づいていた。股関節から上体を折り込むような「ヒンジ」の動きをなぜ使っているのかを尋ね、ミジオロウスキーがその意図を説明した。世界でも屈指の球速を誇るふたりが、互いの動きを観察し、考え方を聞き合う技術談議だった。
山本由伸本人とは話せなかったものの、ミジオロウスキーは山本が行なう独特のスローイング練習にも関心を示し、スタッフに狙いを尋ねていた。やり投げ式のトレーニングについても質問し、「オフシーズンに試すかもしれない」と話している。
前回打ち込まれたカブスに対し、次の登板で投球を修正し、再び100マイル超の速球で押し返す。すでに世界最速級の球を持ちながら、相手チームの投手にも自分から歩み寄り、新しい技術を学ぼうとする。その飾らない好奇心に、筆者はすっかり好感を抱いた。
剛腕投手の「旬」がいつまで続くのかは、誰にもわからない。ただ、今のミジオロウスキーがメジャーで最も見る価値のある投手のひとりであることは、数字にも、その投球にも表れている。そして、この男の「旬」を長くするのは、105マイルを生み出す長い右腕だけではない。新しいカードを引き当てる瞬間を楽しむように、未知の技術や考えに胸を躍らせる少年のような好奇心もまた、「怪物」を進化させる大きな武器なのである。
奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda