トヨタ自動車の富川悠太(C)ORICON NewS inc. 2019年、既存のメディアとは異なり、企業の活動を社内外に伝える“オウンドメディア”として設立された『トヨタイムズ』。一般的な“企業広報”とも異なる形で、企業スポーツの応援から、新規事業の最前線の現場、はたまた社長・会長の本音を聞く直撃インタビューまで、タブーなしでさまざまなコンテンツを創出。同メディアサイトのみならず、公式YouTubeのチャンネル登録者数は2チャンネルで約150万人(トヨタイムズ→93.2万人/トヨタイムズスポーツ→46.7万人※9月12日現在)を誇る人気媒体に成長を遂げてきた。立ち上げから8年、このメディアをけん引してきたのが、富川悠太&森田京之介という元キー局アナウンサーの2人。大手テレビ局から“オウンドメディア”へ転身し、それぞれ異なる立場・アプローチで『トヨタイムズ』を引っ張る2人に、それぞれの転職からこれまでの軌跡から、さらに“オウンドメディア”の現在地まで、話を聞いた。【インタビュー全3本/2本目】
【撮り下ろし写真】『トヨタイムズ』を引っ張る元アナウンサーの富川悠太と森田京之介の近影 ■局に残っていく道もある自分の未来、将来を考えていく中で「挑戦するなら今だろう」
テレビ朝日のアナウンサーとして、スポーツ実況や『スーパーJチャンネル』『ぷらちなロンドンブーツ』などあらゆるジャンルの番組を担当。2016年には、同局の看板番組である『報道ステーション』のメインキャスターを務めるなど華々しいキャリアを築いてきた富川。そんな富川とトヨタとの関係は、局アナとして活躍していたときから始まっていた。
「(豊田)章男会長とは、『報道ステーション』をやっていた時からお会いしていました。“ウーブン・シティ”立ち上げの時も独占インタビューさせていただいたり。そんなあるときに、『トヨタイムズ放送部』立ち上げの話(インタビュー1本目参照)があって、『アドバイスちょーだい』って言われていました。その時はトヨタに入るなんて一切思ってなかったんですけれども、ずっとテレビをやってきた人間として、トヨタが“オウンドメディア”で勝負しようと、森田くん中心にものすごく頑張ってる姿を見て、ちょっとしたアドバイスでも参考になればと思って、協力していたんです」
接点はあるものの、トヨタに入社して何かを成しえるということまで考えていなかったという富川だが、世がコロナ禍に入り、運命の歯車が動き出す。
「コロナに感染するなど、いろいろなことが重なって。自分自身の、先を考えていかなきゃいけないタイミングがあったんです。局に残っていく道もある自分の未来、将来を考えていく中で、当時45歳だったので、『挑戦するなら今だろう』っていう思いも僕の中にはあって。全然違う環境に身を置いて挑戦するっていうのもありだなっていうことは思ったんですね。そもそも僕、ずっと報道の現場で取材をしていて、誰かの役に立ちたいっていう思いが強くて。とにかくそれを軸にしてずっと働いてきた。それが章男さんを見ていた時に全く一緒だったんです」
いちジャーナリストとして、自身のぶれない信念を貫いてきた富川。その軸は、まったく違う業界で活躍してきた豊田章男会長と重なったという。
「(章男会長は)自分以外の誰かのために動き回って。『自分は究極のお坊っちゃんだ』って本人も言ってますけども、『究極のお坊っちゃんだから、満たされてるから、自分のためになんかって別にしなくていいんだ、とにかく人のためにやるんだ』って本気で思ってる人なんです。そういうことを僕は接していて感じていたので、この人と一緒にできたら、自分のスタンスを崩さずに、しかも新しいことに挑戦できるんじゃないかっていう思いがあって」
富川がテレビ朝日を離れることを決めた時、それはくしくも『トヨタイムズ』が“新たなフェーズ”を掲げたタイミングと重なった。“応援”を1つの視点に、森田が手掛けてきた『トヨタイムズスポーツ』とともに、1つのキーワードをもとに進化しようとしていた。
「章男さんとしては、“リアルを伝えたいんだ”っていう思いがあった。その中でフェーズを変える。『トヨタイムズ』が、もっと本当にリアルを伝えているというフェーズに入るときに、誰か伝えてくれる人はいないかなっていう時に、多分普段から僕がどういう取材をするのかとか、どういうインタビューをするのかとか知っていただいていたので、たぶん僕のことを気になってくれていたんだと思います。そこに『章男さんとなら同じ想いで人の役に立てるかもしれない』という思いが重なり、トヨタへの移籍を決めたというところなんですよ」
■人気コンテンツ「トヨタイムズニュース」誕生秘話
テレビ朝日からトヨタへと転職した富川がまず始めたのは、社内の人たちへのインタビューだった。
「ずっと世界のトヨタを回って、いろんな人に『トヨタってどういうところ?』『豊田章男ってどんな人だ?』っていうのをずっとインタビューして回ったんですよ。スマホを30分、1時間回して、ちょっとまとめておいたりっていうのをずっと繰り返して。1年間ずっとトヨタを見たり、話を聞いてる中で、こういうことを伝えた方がいいんじゃないかっていうのはいっぱい出てきたんです。それは、テレビ朝日からトヨタを見てた時にも感じていたことで、取材をしたり調べたりすると、トヨタってものすごいいいこといっぱいやってるんですけど、伝え方がものすごく下手なんですよ。こんないいことやってんのに、なんで伝えてないのっていうようなことがいっぱいあって。それが中に入ったら、それがさらに膨らむわけです。その時はまだ『トヨタイムズニュース』いうのをやることは決まっていなかったけど、いずれきっと伝えることがあるだろうと思って、(取材した素材を)撮り溜めていたんです」
“聞き取り”を繰り返していくなかで、富川の元に特番制作のチャンスが巡ってくる。その特番では、“リアルを伝える”べく富川が取材してきたものを素材としながら自らMCとして、章男会長と本音で向きあった。1時間以上というYouTube動画ではかなり長尺の動画にもかかわらず250万回に迫る再生数をたたき出すと、レギュラー化の話が浮上。年頭あいさつで多くの社員が見ている中、章男会長に直接確認して言質をとり、トヨタの今を伝える人気コンテンツ「トヨタイムズニュース」が誕生することになった。
「章男さんが求めているのは、もちろん外に対して『こういうことやってますよ』って伝えるのはもちろんですが、トヨタの従業員、連結子会社含めて38万人いますから、誰が何をやってるかっていうのがあまりにも知らなかったりして。実は取材をしていても、こことここ、同じようなことやってるじゃん、一緒にやったらもっといいのができるじゃんっていうのがいっぱいあって。そういうのをつなぐって役割でもあると、僕は思ってるんですけど、みんな実は分かってない部分があって。章男さんが望む『トヨタが何をやってるかを知るプラットホームにしてほしい』というところをメインに、実は企業内で何をやっているか、みんながのぞけるようにしよう。だから隠すこともないし、言えることは全部取材できる。それを周りの人ものぞいていいよっていう懐の深さっていうのが、豊田章男であり、トヨタであり、ということだと思うんです」
■丁々発止のやり取りが話題に…富川が語る豊田章男会長の“実像”
以降、『トヨタイムズニュース』のメインキャスターとして、現場の最前線でまさに“リアル”を伝えてきた。なかでも、大きな印象を残しているのが、章男会長との丁々発止のやり取り。時に攻めすぎとも思えるほど、追及する質問に、章男会長の本音が漏れたことも1度や2度ではない。
「章男さんって、本当サービスの人なんで、取材しやすいような環境を作ってくれる人なんですよ。『気兼ねなく質問してきていいよ』っていう空気作りをされるんです。僕はテレ朝時代からそれを感じていて。僕は僕で、対談で心がけていたのが『アナウンサーとして何を聞こう』とか、『番組が何を必要としてるか』っていうことよりも、『本人が何を答えたいのかな』とか、『視聴者が何を知りたいのかな』っていうところを意識して、中身を引き出すようなしゃべり、対談っていうやり方をしていたので。そもそも質問っていうのを考えないで臨むタイプだったんですね。その人の中に入っちゃうというか、っていうやり方をしてる僕と、みんなにこう門戸を広げてる章男さんっていうのが、たぶん相性がたまたまあって、こんな関係に感じるのかなって」
そこには、周囲がイメージする“トヨタ自動車会長”という肩書とのギャップが存在するという。
「章男さんって、壁作る人じゃないんです。君臨する人でもないんですよ。町工場のお父さんみたいな人なんです。僕はそのまんま普通に人間同士の付き合いとして、親戚のおじさんぐらいの感覚でいるんですけど(笑)。別に突っ込みたい時は突っ込めばいいし、笑い取りたい時は笑い取るし、間違いを指摘しても全く嫌がらないし。みんなが勝手に怖そうだとか、すごすぎる人だとか勝手に敬遠してしまっているだけで、誰がもし同じような質問しても、普通に笑って答える人なんですよ」
インタビュー1本目(公開済み)では、森田の転職&これまでの軌跡を、3本目では森田と富川が“オウンドメディア”の現在地について語る。