『オデュッセイア』(C) 2026 UNIVERSAL STUDIOS『ダークナイト』シリーズや『インターステラー』『インセプション』などで知られるクリストファー・ノーラン監督史上最大のヒット作となり、全世界興収が15億ドル(約2,515億円/1ドル=162円換算)を突破するなど記録尽くし、9月4日(金)から始まったIMAX先行上映では満席回が続出した『オデュッセイア』がいよいよ日本に上陸する。
古代ギリシャの詩人ホメロスが紡いだ人類最古の物語の映画化に、“何だか、また難解そう…”と、ちょっと身構えている人もいるかもしれない。
しかし、誤解を恐れずに本作をひと言でまとめるとしたら、長引く戦争を終わらせた“英雄”が自分の故郷に「生きて、帰る」、ただそれだけの物語である。しかも、日本を席巻中の「ちいかわ」とも無関係ではなく、いま見過ごすわけにはいかないのだ。
原作やギリシア神話を“ミリ知ら”でも、今年最高に贅沢な映画体験を約束する『オデュッセイア』。その3つの見どころポイントを、ネタバレを交えながら紹介する。
アンハサ、トムホにゼンデイヤ、パティンソン…今年大活躍の主演級キャストをいまこそ観たい!
前作『オッペンハイマー』でアカデミー賞を受賞したクリストファー・ノーラン監督の最新作に集まったハリウッド主演級の超豪華キャストたちの競演は、いまこそ観ておきたいもの。
物語の主人公、イタケという島国の王オデュッセウスを演じたのはマット・デイモン。10年にもわたる戦争を終わらせるため、あの“トロイの木馬”を発案し、自らも木馬の中に入り込んで耐えながら戦ったオデュッセウスのリーダーシップや知略家の一面、故郷に帰れなくなってしまった夫であり父親を熱演しており、大弓や剣術のアクションもさすがといったところだ。
大ヒットした『オデッセイ』(原題は『The Martian』:火星の人)でもなかなか故郷の地球に帰れなかったマット・デイモン。若干ややこしいが、そもそも「長期の放浪」や「困難の長旅」を意味する「オデッセイ」の語源が「オデュッセイア」で、その物語の主人公オデュッセウスを彼が演じるというのは、“日本限定”の運命的な巡り合わせだ。
また、トム・ホランドが演じたオディッセウスの息子テレマコスは、もう1人の主人公といえる存在。父の行方の手がかりを求めてスパルタへ向かうのだが、スパルタの王メネラオスを演じるのは、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・ディ』で“パニッシャー”フランク・キャッスルとしてトム・ホランドと共演したばかりのジョン・バーンサル。
オディッセウスと共にトロイの木馬に入り込み、好機が訪れる時まで耐えながら戦ったメネラオスが、テレマコスに顔も知らぬ父の武勇伝を語って聞かせ、成長を促すような狩りのシーンは、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・ディ』での共闘の後だからこそ胸に迫るものがある。
一方、約20年もの間、アン・ハサウェイが演じる王妃のペネロペは、オディッセウスの帰りをひたすら待ちながらも、どんな客でも歓待しなければならない「おもてなし」の原則= “ゼウスの掟”を盾に我がもの顔で城に居座り、盲目の忠臣エウマイオス(ジョン・レグイザモ)をも愚弄する求婚者たちに悩まされていた。
アン・ハサウェイといえば、大ヒット作『プラダを着た悪魔2』をはじめ、『隣人たち』『オークストリートの異変』『ヴェリティ/真実』と今年だけで4本も主演作が公開されるが、本作での孤独を抑え込んだ威厳あふれる王妃には誰もが驚かされるはずだ。
そして求婚者たちの代表格アンティノオスを演じるのはロバート・パティンソン。主不在の城で繰り広げられる空虚な饗宴には、バットマンとノーラン版キャットウーマン、そしてスパイダーマンが共演している。しかもオデュッセウスにしか見えない設定ではあるが、アテナ役として『スパイダーマン』シリーズのMJ役でお馴染み、トム・ホランドの妻であるゼンデイヤもいる。
この錚々たるキャストの中で、個人的にMVPを贈りたいのはロバート・パティンソンだ。
ウソをついて徴兵のくじ引きを弟シノンに託したアンティノオス。やがてトロイの木馬作戦で何も知らず犠牲となったシノン(エリオット・ペイジ)は、死者となっても恨みタラタラ。終盤、その思いまで故郷に持ち帰ってきたオデュッセウスと対峙したアンティノオスが、どこまでもずる賢く臆病な小心者であるからこそ、オデュッセウスのヒロイックな活躍やテレマコスの勇気がより引き立つ。本当に素晴らしい。
巨大木馬を砂浜に埋めちゃう!? いまこそ観たい!圧巻のIMAX映像
オデュッセウスたちが向かった戦争は、城塞都市トロイアの堅い守りに阻まれ、約10年間も膠着状態となった。それを打破するためにオデュッセウスが閃いたのが、兵士が内部に入り込めるほどの巨大な木馬を建造し、神への供物としてトロイアの街へ入り込むという、いわゆる“トロイの木馬”作戦だ。
実はノーラン監督は、同じトロイア戦争を題材にしたブラッド・ピット主演の映画『トロイ』(2004)を手がける予定があったという。結局、監督は降板したが、当時から木馬の明確なヴィジョンがあったそうで、今回は実際に約10m、地上3階建てくらいの木馬の模型を複数体作り上げ、“海から届けられた”ことに説得力を持たせるため「砂に沈みかけていて、波に洗われている」状態を実現。それを多くの民衆がロープで引き上げ、砂浜から街まで運び入れる様子を活写した。
本作で、長編映画史上初となる「全編IMAXフィルムカメラ撮影」を実現させたノーラン監督。すべてのシーンでその没入感たっぷりの映像と音響の迫力を体感できるが、砂浜に後ろ足だけで立つ木馬の姿は特に壮観だ。
また、トロイアの巨大な城門やアテナの神殿など、約1万200平方kmものセットに60以上の建物を造り、2,000人ものエキストラを動員して、街が陥落するシーンも実写で撮影した。巨大な木馬がアテナ神殿にぶつかりながら燃え落ちる姿を、オデュッセウスと同じ面持ちで私たちは見守るのだ。
もちろん、『TENET テネット』『ダンケルク』でも挑んだ海上シーンはこれぞIMAXで観るべし、といえる臨場感。古代仕様の船に乗り込んだキャスト陣が実際に櫂を漕ぎ、帆を上げ、広大な荒々しい海を渡るシーンはほぼ海上で撮影されている。観ているだけで船酔いしそうになるほど(!?)古代の航海の厳しさを体感できるだろう。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』にも登場するセイレーンの誘惑の歌のシーンも、マストに縛りつけられたオデュッセウスの苦悶の叫びだけで、すべてが伝わってきそうである。
これまでもIMAXにこだわり続けてきたノーラン監督が、今回初めて全編IMAXフィルムカメラ撮影を実現できたのは、本作完成後に亡くなり、エンドロールで献辞が捧げられているデヴィッド・キーリーの存在が大きい。IMAX社の最高品質責任者だったデヴィッド・キーリーはノーラン監督や撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマとともにIMAXの技術革新を推し進め、IMAXカメラ撮影の最大の難点だったキャストのセリフが聞き取れないほどの駆動音を抑えることに成功。消音化、かつ軽量化された“新型”は「ザ・キーリー」と名付けられている。
この「ザ・キーリー」があったからこそ、超豪華俳優たちによる愛憎や葛藤、焦燥、絶望といった高密度の人間ドラマもIMAXフィルムで初めて目にできるようになった。ふだんは2Dでしか映画を観ないという方にも、俳優たちの熱演を味わうことも含めて、文字通りに圧倒されるIMAX鑑賞をぜひおすすめしたい。
いまこそ観たい!反戦の思いが詰まったノーラン監督の集大成
圧巻のIMAX映像で紡がれる、2800年前の古代ギリシャのオデュッセウスが故郷に帰る物語は、現代の日本に暮らす私たちとはまるでかけ離れているようでいて、実はとても身近なメッセージが詰まっている。
前作『オッペンハイマー』では焦土になった日本を直接描くことはなかったノーラン監督だが、本作では戦争によって1つの街が、そこに暮らす市井の人々がどんな犠牲を被るのか、暮らしそのものが燃えて崩れ落ちていく様や何の罪もない少女が無残に殺されていく様、そして、その後に兵士の心には何が生まれたのかをきっちりと描き出した。アテナの姿となってオデュッセウスの傍らにいたのは、ゼンデイヤが演じたその少女だ。
単眼の巨人や魔女のキルケ(サマンサ・モートンが演じる)、トロイア兵士を思わせる鎧の巨人たち、さらにセイレーンの歌声など、過酷な試練が彼を襲い続け、帰郷を阻んできたことを、オデュッセウスはカリュプソ(シャーリーズ・セロン)に語り出すことで物語は始まる。それはオデュッセウス自身が、再び立ち上がるために必要な回顧だった。戦争の英雄や知略家として歌に語り継がれるほどの彼は、PTSDによって帰る場所さえ見失ってしまった1人の人間でしかない。
『インターステラー』や『インセプション』も家に帰ることを目指す物語だった。『TENET テネット』も第3次世界大戦を阻止するために、元いた場所へと向かう物語といえる。トロイアの砂浜で疲弊していくギリシャ軍の兵士たちには、『ダンケルク』で海岸に取り残された“家に帰りたい”若き兵士たちの姿が重なった。
オデュッセウスの「生きて、帰る」物語は、心に深い傷を追った兵士が帰るべき場所へ辿り着くための長い、長い再生の旅路なのだ。
『オデュッセイア』は全国にて公開中。
2D(字幕/吹替)、IMAX(R)(字幕)、DolbyCinema(R)(字幕)、4DX(字幕/吹替)、MX4D(R)(字幕/吹替)、35mm(字幕)の全6種9バージョンにて公開中。
(上原礼子)