俳優・村田雄浩さんと 橋田壽賀子脚本の人気長寿ドラマシリーズ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)で10歳から12年間、“加津ちゃん”こと野々下加津役を演じていた宇野なおみさん(37歳)。かつて“天才子役”と呼ばれた宇野さんは現在、フリーライター、エッセイストとして活動中です。
そんな宇野さんが30代女性として等身大の思い、ちょっとズッコケな日常をお届けするエッセイ連載。今回はテレビプロデューサー・石井ふく子さんの百寿を祝う会に参加した体験をつづります(以下、宇野さんによる寄稿)。
◆『渡鬼』プロデューサー・石井ふく子先生が100歳に
「私たちって、まだまだこれからすぎる!」
“異世界”に行って、そんな感想を抱く、特別な夜でした。
皆様、ご機嫌よう。台風で大雨、皆さん大丈夫だったでしょうか。わたくしは低気圧でへろへろになっておりました。さて、先日、石井ふく子先生の百寿を祝う会のパーティーへお邪魔してきました!
石井先生と言えば、『渡る世間は鬼ばかり』のプロデューサーであり、テレビ創成期のころからご活躍されてきた方。「現役の最長寿プロデューサー」としてギネス記録を持ち、今も更新中です。私を『おしん』の舞台でおしん役に選んでくださり、渡鬼の世界に連れてきてくださった、大変な恩人です。
そんなまさに「生ける伝説」の先生の百歳のお祝い! どんな異次元の世界が広がっていることやら……。今回はめったにすることのできない、「異世界体験」のお話です。
◆人生初の体験!「百寿」をお祝い
さすがに「百寿」をお祝いするのは、人生初の体験です。会場は、紀尾井町にあるホテルのバンケットルーム。華やかに飾り付けられ、ずらりと並ぶテーブル、堂々と掛けられた会の名前、左右に大きなスクリーン。
そして、もう見渡す限りの人、人、いえ、ひしめく、大御所の芸能人の皆様と、芸能界のお偉い方々。豪華絢爛とはこのことです。ワンルーム暮らしには刺激が強い!
私は“チーム若造”とでも申しましょうか、渡鬼出演メンバーでは若いほう、日向子役の大谷玲凪ちゃんや、貴子役の清水由紀さん、杏子役として出演していた渋谷飛鳥ちゃんたちとご一緒のテーブルで、大変嬉しかったです。ただし、全員、ぷるぷると震えておりました。
もうみんな「テレビの中みたい……」とぼうぜんとしていましたからね。現実だよ。ていうか君らもテレビの中の人だよ。
◆「私たちは今、歴史を見ている」と思いながら
テレビの中の人と言えば、TBSの龍宝正峰社長が代表でお話されていたのですが、それはもう、はたから見ても大変緊張なさっていました。帰り際に少しお話する機会がありまして、緊張しすぎて「熱が出ないかなあ……」と思われていたそうです。
民放テレビ局トップも固まる会、どういうことなのか。ちなみにこのエピソードは「名前を出してもいいよ!」と言質……もとい、許諾をTBSの某大変偉い方からいただきました。許諾を丁寧に取るエッセイ、『話そ、お茶しよ、元気出そっ』でございます。
クローズドな会なので詳細はお話控えさせていただきますが、本当にすごい会でした……。
いったい今どんなテレビ局が、劇場が、こんなメンバーを集められるというのか。それぐらいに圧巻でした。演目が終わるたびに震えておりましたよ。
◆久しぶりにお会いできた方がたくさん!
そんな緊張の場所ではございましたが、幼きころより参加させていただいたおかげで慣れている私。屋久島杉とまではいかなくても、熱海・來宮神社のクスノキ(※樹齢2100年)くらいはぶっとい神経なので、へろ〜〜んと過ごしておりました。
共演した皆様にお目にかかれて大はしゃぎ。覚えていてくださったことに感動しておりました。村田雄浩さんも久しぶりにお目にかかれました。今『リア王』の公演が始まったので、舞台のお稽古中だったのではないかしら。舞台のレポートなども書く人間なので詳しい。
大和田獏さんに会えてうれしかったなあ……。撮っていただいた写真はインスタに載せたのですが。実は舞台『おしん』からご一緒しています。その時の獏さんは、おしんに字を教えてくれる脱走兵の俊作役を演じておいでで、ちょうど『ワイド!スクランブル』が始まる前だったと思います。
翌年渡鬼で再会した獏さんは、お父さん役となりました。『おしん』のころから、ずっと、私を見守ってくれる役柄であり、裏でもいつも温かく接してくださいました。あの……わたくしって……わんぱくだったので。
◆小柄な背中が背負ってきたもの
石井先生は会の間、ずっと中央のお席で楽しそうにしてらして、最後の挨拶では「世界一の幸せ者です」と叫ぶようにおっしゃっていました。
プロデューサーとして常に冷静で、穏やかな先生。あんなに感情を露にして声を震わせている先生を見たのは、橋田壽賀子先生が亡くなったあとの橋田賞で、「さみしいよ!」と壇上で橋田先生に呼びかけたときしか、私は知りません。
母校・早稲田大学には「テレビ論」の授業がありまして。授業の中でテレビの歴史を紐解くと、参考の本を読むと、母校の施設である演劇博物館に行くと、いつも、おふたりの名前・存在がありました。あと鴨下信一さんとか……。
百年生きて、その人生のほとんどを、芸能の世界にささげてきた、その、厚み、重み、歴史。
小柄なお姿に、どれだけのエネルギーを秘めてきて、いったいどれほどの経験が積み重なってきているのでしょうか。壇上の先生に、神々しさすら感じました。でも、最後のお見送りの時間(なんと、参加者全員とお話してくださったのです)でお目にかかると、やっぱりちょっとおちゃめな、いつもの優しい先生だったのでした。
生きるとは、ひとつひとつ積み重ねて歩んでいくことであり、その集大成を今見せてもらえるのだ、と、ひたすら圧倒されていました。まあ、こんな風になれる方なんて、本当にひと握りでしょうけれども……。
だって先生、次の作品を作る気満々でしたからね。大学の合格掲示板みたいな長くて大きな作品パネルがロビーに飾られていて、誰もが驚嘆する長いキャリアと、とんでもない量の作品を作ってきて、いまもなお、まだ!
目の当たりにできたことが、心の底から光栄だと思いました。なお、おいしいお食事が出ましたので、ひとつも残さずぺろっといただきました。
◆年月を重ねて大人に……いやまだ全然じゃない!?
本当にたくさんの方がいらしていたので、お話できたのは一部の方のみでしたが。角野卓造さんや、舞台で共演した音無美紀子さん、ピーターさんなど、久しぶりにお目にかかれてしみじみ嬉しかったです。己の年齢や今やっていることなどをからりとお話しつつ、最後の最後まで会を楽しんで帰りました。
「ママ元気?」と子役時代、現場に連れていってくれていた母のことも気にかけてくださる方がたくさんいて、ありがたかったです。
藤田朋子さんが「親戚の集まりのよう」と表現なさっていましたが、本当にその通りで。
例えば、大谷玲凪ちゃんのことは、彼女が渡鬼に出るちょっと前の、4、5さい……? くらいから知っています。今は結婚して、小さいお子さんがいらっしゃるので、写真を見せてもらいました。
彼女との年齢差的には「おばちゃん」ぐらいのポジションなはずなのに、娘に孫が生まれた「おばあちゃん」のような気分でした。通り越しすぎ。
◆人生って、これからなんだ!と目を見開く思い
渡鬼の最終シリーズが2012年なので、もう干支も一周。若者チームの我々もすっかり大人になりました。
しかし、みんなで「私たちの人生ってこれからじゃない!? あと60年あるよ!?」と話しながら解散しました。
うっかりすると、未来に絶望するトラップに引っ掛かりがちなこの世の中で、なんという希望なのか!嬉しくてたまらないですね。
異世界体験は本当に楽しくて素敵で面白かったです。ただ、自分なりに、「現実」のことも頑張っていこうと、再確認した日でもありました。最近、「もっと書くか〜!」と思って己のブログで100日間1000文字のエッセイを書くというチャレンジをしておりまして、なかなかハードですが頑張っております。
心もおなかも幸せいっぱい、満ち足りた一夜でした。
あ、でも、お肉はもうちょっと食べたかったなあ……。
<文/宇野なおみ>
【宇野なおみ】
ライター・エッセイスト。TOEIC930点を活かして通訳・翻訳も手掛ける。元子役で、『渡る世間は鬼ばかり』『ホーホケキョ となりの山田くん』などに出演。趣味は漫画含む読書、茶道と歌舞伎鑑賞。よく書き、よく喋る。YouTube「なおみのーと」/Instagram(naomi_1826)/X(@Naomi_Uno)をゆるゆる運営中