
9月9日(米国太平洋夏時間)に行われたAppleのスペシャルイベントから数日が経過した。米カリフォルニア州クパチーノにあるApple本社(Apple Park)に入った各国メディアによるハンズオン記事も一通り出そろったが、並んだ記事は「iPhone Duo」一色だ。Appleが初めて出した“折りたたみ”iPhoneなので、無理もない。ご多分に漏れず、筆者もiPhone Duoのヒンジにフォーカスした記事を執筆した。
無論、折りたたみiPhoneは面白い。だが、MM総研の調べでは、2025年度に日本国内へ出荷された携帯電話端末3132万8000台のうち、折りたたみは33万4000台、率にして全体の1.1%にすぎない状況だ。Appleの参入で数字は動くだろうが、それでも5%を超える市場は当面想像しにくい。
読者の大半にとって、2026年秋の「Apple新製品」とはiPhone Duo“以外”の製品のことだ。
●実は大きく進化した新しい「Apple Watch」
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進化の幅と注目度が最も釣り合っていないと感じたのは、「Apple Watch Series 12」だ。
見た目は、先代の「Apple Watch Series 11」からほとんど変わらない。42mmと46mmのケース(本体)サイズも、ディスプレイの見え方も、先代とほぼ同じだ。一方で、ケース素材にセラミック(パールホワイト/ナイトブルー)が加わり、アルミニウムモデルの前面が「Ceramic Shield 2」になったが、いずれも店頭でその違いに気付く人は少ないだろう。
しかし、“中身”は違う。搭載チップ(SoC)は「Apple S11」で、Series 10/11と2世代に渡って使われてきた「Apple S10」から“ようやく”更新された。
Appleが公表しているS11のスペックは「64bitの2コアCPU、1コアGPU、4コアNeural Engine(NPU)を持つ」という程度だが、実はiPhone Duoに搭載された「A20 Proチップ」と同世代の、最新のCPU/GPU/NPUコアを採用している。
実はApple Watch向けのSoC「Apple S」シリーズは、これまで一貫してiPhone向けプロセッサと比べて“型落ち”のコアを使ってきた。例えばApple Watch Series 9で使われていた「Apple S9」は、同時期の「iPhone 15 Pro」に載った「A17 Proチップ」ではなく、さらに1世代前の「A16 Bionicチップ」と同じコアを使っていた。
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腕時計というジャンルでは、最新世代を追いかける必然性は薄かったのだ。
しかし、今回のApple S11は、同じ日に発表されたA20 Proチップと“同じ”世代のコアを採用する。iPhoneと同じタイミングで、同じコアがスマートウォッチ向けプロセッサに採用されたのだ。恐らく、これはApple Watchの歴史で初めてのことではないだろうか。
このことは、単に「動作が速くなった」で終わる話ではない。ウォッチ側でオンデバイスAIを本格的に動かすための基礎が、ようやく作られたことを意味する。
iPhoneが毎年プラットフォームを入れ替えるのに対し、Apple Watchのプラットフォームは数年ごとの更新だ。今後、このApple S11の上に、watchOSのAI機能が積み上げられていくことになる。
watchOS 27が搭載する「Siri AI」は、Apple S11の上ではApple Watch上でも動くようになり、「Siriモジュラー文字盤」と、5つのSiri提案アプリを「並べる動的アプリグリッド」が用意された。
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より象徴的なのは、2026年内にβ提供が始まる「Audio Intelligence(オーディオインテリジェンス)」の方だろう。サイレンや警報、ドアベル、赤ちゃんの泣き声を聞き分ける「Sound Recognition(サウンド認識)」に始まり、デジタルクラウンを2回押すと直前15秒の会話がテキストで出てくる「Live Rewind(ライブ早戻し)」、会話を要約してSiriアプリに残す「Siri Recap」まで、いずれもマイクを常時働かせることを前提にしている機能群だ。
音声データは、S11に搭載されている「Secure Exclave」と呼ばれるハードウェア的な隔離領域(セキュアバッファー)にいったん保持されるが、処理が完了すると即座に破棄される。録音は作られず、保存もされない。設計上、話者の識別/帰属も行わない。
Live Rewindが動くときは、消音中でもチャイムが鳴る。生成されたテキストと要約だけが、エンドツーエンド暗号化で「iCloud」とのみ同期することで、プライバシーを保っている。
いつも身につけていて、マイクとセンサーを持ち、本人以外には渡らない場所で処理するデバイス――ジョン・ターナスCEOは、イベントの基調講演でiPhoneを「インテリジェントなパーソナルハブ」と定義したが、24時間の“文脈”を拾い続けられるデバイスは、実のところこっちではないかとも思える。
なお、Live RewindとSiri Recapは2026年内に英語からβ提供される予定で、日本語環境で利用できるまでには、しばらく時間がかかる見込みだ。また、Live Rewindの時間制限は15分となることには注意したい。
●Apple Watch Series 12の強みは「バイタルセンサー」
Apple Watchが他のスマートウォッチと最も違うのは、健康と、時に命を守る領域に踏み込んできたことだ。Apple Watch Series 12では、その基礎を底上げする改良が加えられている。
新しい「Health Sensing System」では、光学式と電気式の心拍センサーが共に新設計になり、より大型で省電力な緑色LEDが使われる。光学センサーは32枚の花びらを並べたような配置になっており、心拍は継続的に5秒ごとに計測される。これはSeries 11のおよそ60倍の頻度だ。心拍変動(HRV)の取得頻度も、最大24倍になっている。
ハンズオン会場で実際に腕に巻いてみると、文字盤に「Overnight: Favorable」「Daytime: Typical」という表示が出ていて、その下で2分間の心拍履歴グラフが63BPMを刻んでいた。オンタイムのバイタルをグラフとして文字盤に表示する様子は、これまでのApple Watchになかった景色である。
このバイタルセンサーの大幅な進化を背景にした新機能が「Readiness(準備度)」だ。直近の活動/トレーニング負荷/バイタル/睡眠スコアから0〜10のスコアを出し、「回復」「ペース配分」「準備OK」「全力で」の4段階で助言する。
この機能のアルゴリズムは、「Apple Heart & Movement Study」のデータを使って開発されたという。今回プロセッサと心拍センサーを“同時に”更新したのは、5秒ごとの心拍計測と、従来比で24倍の頻度で行われるHRV(心拍変動)計測を処理しなければならないことを考えると納得だ。
●Apple Watch Series 12には気になるポイントもある
ここでApple Watch Series 12について、気になる点を2つ挙げておきたい。
1つはバッテリーだ。終日5秒ごとの心拍測定を新たに背負いつつも、公称のバッテリー駆動時間は24時間で据え置かれた。屋外ワークアウト時の駆動時間は25%延びて最長10時間に、そして急速充電が強化され15分の充電で12時間駆動できるようになったが、日常使いを考えると率直にいって少し物足りない。
最新世代に刷新されたApple S11の省電力性能と新しいLEDを、省電力面で活用したいユーザーもいるだろう。どの程度の使い勝手かは、実際に1週間ほど着けてみないと分からない。Appleは計測頻度を高めることで、より健康と命を守ることを優先したのだろうか。
もう1つ、気を付けるべきポイントとしてReadinessが7日分の睡眠データがたまるまで起動しない点がある。買ってきた日に腕に着けて、すぐスコアが出る機能ではないのだ。店頭で試すことも、レビューの初日に評価することもできない類のもので、まだどのように評価すべきかは結論がない。
心拍計測精度については、Appleにしては珍しく、9月10日(米国太平洋夏時間)に公開された「Apple Watch Heart Rate Accuracy Study」という調査レポートを通して説明している。
この調査では、1460人の登録者のうち1254人を対象に、胸に巻くタイプのPolar製心拍センサー「Polar H10」で計測したECG(心電図)を基準として、片方の腕に「Apple Watch Series 12」を、もう片方の腕に「Garmin Forerunner 970」「Google Pixel Watch 4」「Huawei Watch 5」「Galaxy Watch8」「WHOOP 5」「Oura Ring 5」のいずれかを装着した上で、ワークアウトや日常生活における心拍数の正確性を比較している。
その結果だが、159件の比較のうち、Apple Watch Series 12の方が信頼性が高いとされたのが139件で、点推定値での評価ではApple Watch Series 12の方が優位だったのが155件だったという。
この試験はApple自身が企画/設計して実施したもので、査読された論文でもない。示されているのは「他社のスマートウォッチとの差分」だけで、Apple Watch自体の絶対誤差は出ていない。そして試験を行った5施設のうち、3施設はApple自身が運営したものだ。ゆえに数字をそのまま受け取ることはできない。
それでも、今までAppleが公式文書に競合製品の実名を並べて数値を示した例は、記憶にない。それだけ、Apple Watch Series 12に搭載した新センサーに自信があるのだろう。
価格は据え置き
日本の読者にとってうれしいのは、新しいApple Watchの価格が先代比で上がっていないことだろう。Apple Watch Series 12は7万1800円から、Apple Watch Ultra 4は14万2800円と据え置きだ。
Appleは7月、日本でのみ広範な製品の価格改定を行い、先代の「Apple Watch Series 11」は最小構成価格が6万4800円から7万1800円へ値上げを行ったのだが、iPhoneの旧モデルとは異なりさらなる値上げは行われていない。
●「AirPods 5」は半日使うと“化ける”
もう1つ、ニュースとしての露出の少なさに対して、“中身”が伴っているのが「AirPods 5」である。イヤチップで耳をふさがない「オープンイヤー型」は保ちつつも、アクティブノイズキャンセリング(ANC)機能を標準搭載とした上で、先代「AirPods 4」のANC搭載モデル比で最大50%多く外音を除去できるようになったという。
Appleによると、ANCの性能改善は音響アーキテクチャの刷新に加えて、ANCコンプレッサーを完全に書き直した結果だという。会場では「HomePod」で航空機のエンジン音を流しつつ、AirPods 5のANCを体感できるデモが行われていた。
今回Apple本社でスペシャルイベントに参加した報道関係者には、初日に本製品が配布された。筆者もすぐに試してみたのだが、装着した直後の印象はそこまで印象深くもなかった。
それが変わったのは、半日ほど鳴らしっぱなしにしてからだ。装着当初から低域の量感と輪郭の明らかな改善は感じられたが、時間が経過するとボーカルの明瞭さと楽器の分離も一段と改善された。
低音が出るようになったことは、ANCにも効いている。低域の遮音は、アルゴリズムだけの仕事でなく音響構造の仕事でもある。両者は同じ設計の“裏表”なのだ。
AirPods 5は、価格も魅力だ。通常モデルは2万3800円、ワイヤレス充電ケース付きモデルは2万7800円と、価格差は4000円しかない。ここで思い出してほしいのは、AirPods 4のANC対応モデルが、7月18日の価格改定で2万9800円から3万2800円となったことだ。この際、ANC非対応モデルも2万3800円と2000円の値上げとなっている。
つまりAppleは、先代のANC非対応モデルから価格を据え置きつつ、ANC対応を果たしたことで実質9000円の値下げを達成している。改訂前の価格と比べても、6000円の値下げだ。ワイヤレスケース付きモデルでも、5000円の値下げである。この傾向は米国でも同様だ。
通常モデルとワイヤレス充電ケース付きモデルの価格差は、4000円となる。両者は付属するケースだけでなく、ステムのスワイプによる音量調整の対応の有無の違いもある。この音量調整を実現するには、フォースセンサーの下に静電容量センサーを追加する必要がある。
ワイヤレス充電ケース付きモデルには静電容量センサーのコストが上乗せされているわけだが、Appleによると「(AirPods 5は)≪高品質なANCを出せる“最低価格“の実現が目的。価格帯的に(通常モデルでは)この追加コストを許容できなかった」のだという。
なお、イヤフォンの音質は2モデルで完全に同一だ。ケースの見た目の違いは、「Find My」用スピーカーの穴の有無だけである。一方、バッテリーの最長駆動時間は通常モデルが「単体で4時間/ケース込みで20時間」、ワイヤレス充電ケース付きモデルが「単体で5時間/ケース込みで22時間」という違いがある。
音を基準にして考えるなら、安い通常モデルを選んでも変わらないが、細かい違いを踏まえると、筆者としてはワイヤレス充電モデルの方をお薦めしたい。
そしてもう1つ、ケースごとAirPodsをなくした際に効いてくるのが「UWB(超広帯域無線)」だ。本製品はUWBを搭載していないため、Find Myにおける「正確な場所を見つける(Precision Finding)」を利用できない。
それでも、AirPods 5はオープンイヤー型でありながら、価格の割に良好な音質と遮音性能を確保している。iOS 27で追加された「3バンドEQ」「頭のジェスチャーで応答できるSiri」「ライブ翻訳」「動画撮影時のスタジオ品質マイク」にも対応している。
「iPhoneと組み合わせたときの総合力」という一点で、現時点でこれに並ぶオープンイヤー型ワイヤレスイヤフォンは思い当たらない。
●「iPhone 18 Pro」は絞り付きカメラに注目
「iPhone 18 Pro」は、話題性でいえば「iPhone Duo」に完全に食われてしまった感がある。しかし、アウトカメラには大きく注目すべき変化がある。
その「注目すべき変化」は、広角の「48MP Fusionメインカメラ」に搭載された可変絞りだ。カメラ内に6枚の羽根型の絞りが内蔵されており、F値を1.48/1.8/2.8/4.0の4段階で変更可能だ。通常、F値の切り替えは自動で行われるが、手動で選択することもできる。「暗い場所だとF1.48、ポートレートはF1.8、集合写真で奥までピントを合わせたいならF4.0」といった使い分けができる。
長い間、スマートフォンのカメラは「絞りを固定してソフトウェアでボケを作る」という方向で進んできた。そんな中、機械式の絞りが戻ってきた。しかも4段階である。
センサーの前で物理的に光量と被写界深度をコントロールするというのは、画作りの根幹に関わる話で、ポートレートモードの延長線上にある機能ではない。
もっとも、絞り羽根が動くことで点光源のフレアの形が変わることは確かだ。しかし、センサーが小さいこともあって、被写界深度の差までは分かりにくい。絞りの操作をスマートフォンで行う煩雑さもある。
会場の照明と限られた時間では、この機能の本当の価値は測りきれないため、評価は先送りにしたい。
日本での価格は、残念ながら高くなる。Apple Storeの価格は「iPhone 18 Pro」が21万9800円から、「iPhone 18 Pro Max」が23万9800円からとなる。7月に行われた改定前の価格で比較すると、iPhone 17 Proからは4万円(率でいうと約22%)、iPhone 17 Pro Maxからは4万5000円(率でいうと約23%)の値上げだ。メモリの価格高騰と円安のダブルパンチが効いてくる。
●「iPhone Duo」の評価は後日
最後に「iPhone Duo」についても触れておこう。会場で触った限りにおいて、製品の作り込みのレベルは本当に高い。
先の記事でも触れた通り、開閉のトルクは思ったより軽く、サクッと開け閉めできる。閉じる最後の数mmは磁石が引き寄せて「パチン」と小さな音がして位置が決まる。この磁石の強さのあんばいが絶妙で、開けるときの抵抗はほとんどないのに、閉じた状態のホールドはしっかりしている。
そしてインナー画面の「ナノテクスチャー仕上げ」は、反射を散らして画面をとてもキレイに見せるし、アンダーディスプレイ配置の「FaceTimeカメラ」もよい。半開きで立てた状態がきちんと保持され、その姿勢に合わせてUIが上下に分かれる作りも「初代」とは思えない完成度だった。
もっとも、Androidのフォルダブルスマートフォンのほぼ全機種と比べると、iPhone Duoは厚く重い。しかし、数字ほどに厚さや重さが不利とも感じない。
iPhone Duoの価格について、1つだけ書き添えておきたい。最小構成(256GBモデル)で36万4800円からというと“数字”は確かに重いが、iPhone Duoは「これしか選べない」という製品ではない。iPhone 18 Pro/Pro Maxという選択肢もあるし、「iPhone 17」も併売されている。折りたたみを選ばない自由は残されていて、その上で開く方を選ぶかどうか、という話だ。
なお、米国ではiPhone Duoが1999ドル、同じようなサイズ感のフォルダブルAndroidスマホ「Galaxy Z Fold 8」が1899ドルで、差が100ドルしかない。価格的に見ると、Appleは「折りたたみスマホの相場の『すぐ上』に置いた」ともいえ、突出した価格を付けたわけでもない。日本では価格差が9万5000円とより開いてしまうが、そこには為替と、サムスン電子が国内ではキャリア中心に売ってきた事情が重なっている。
折りたたみという形をどう位置づけたかという話と、日本で付いた価格の話は、分けて考えた方がいい。
こうしたこともあってiPhone Duoについては、ここでは深く言及しない。実機が届いて、しばらく持ち歩いてから全部書くことにしよう。発売は10月23日、予約は10月16日からだ。ヒンジと製造の話は別稿に書いたので、そちらを読んでいただければと思う。
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