この世にはかつて、多くの妖精がいた。彼らの痕跡は、「ワンド」と呼ばれる妖精の結晶体(化石)と、ワンドの力を引き出す「妖精使い」に残されている。
特殊な能力を持つ妖精使いは、現代社会では迫害を受けやすい。そのため、多くは正体を隠して世間に溶け込むか、その力を使って犯罪に手を染めるか、いずれにしろ、己を偽らずに生きるには多くの困難が伴った。
街のならず者・ギュンターの手下として働く少年・アラタもその一人だ。孤児だった彼は、施設から買われて以来、悪事の一端を担わされている。同じ妖精使いでも、歴然とした力を誇るギュンターに逆らうことはできない。鬱々とした日々を送るアラタを支えるのは、本屋で買った一冊の冒険譚だった。
幕開けと同時に、見知らぬ世界が確かな熱を持って立ち上ってきた。骨太な始まりに心が躍る。舞台の大枠が作られていく中では、セリフやモノローグ以上に、雄弁な絵とメリハリの利いたコマ割り、巧みなカメラワークが物語をクールに導く。時間の経過の描き方を含め、それらは著者が読者を信頼している証にも思われる。
アラタが手にした『フランツ=ロンベルクの冒険』は、妖精使いと仲間たちが、多くのワンドが眠るという伝説の島「妖精の墓場」へと旅をした記録の書だ。古代人の末裔たる妖精使いのみが足を踏み入れることができるという幻の場所に、アラタは思いを馳せる。いつか自分も、辿り着くことができたら──そう夢想する彼の元へやってきたのは、一人の少女。犯罪と対峙する組織の妖精使い・ミサだった。
たとえ非力で無謀な選択だとしても、その一歩を踏み出さなければ、新たな道は現れない。アラタにとって、ミサとの出会いは未来への入り口だった。勇気を振り絞り、ギュンターと初めて対峙したアラタに、ミサは思いがけない力を示す。夢を見ること、諦めずに抗うこと、自分の心に正直であること──前へ進もうとするアラタのまっすぐな瞳は、長く止まったままだったミサの心を揺り動かすに足るものだった。
本作は青年漫画誌『ウルトラジャンプ』(集英社)で連載されている。連載デビュー作だった『-ヒトガタナ-』(マッグガーデン)は11巻、前作の『もののがたり』(集英社)は16巻と、いずれも長尺だ。それゆえ、本作も長く続くのではと、勝手に予想している。妖精の墓場に至るまでの道のりにくわえ、ミサの身に降りかかった呪いといった謎の数々は、これから少しずつ解き明かされていくのだろう。アラタとミサの旅路とともに、その解明を見守りたい。
(田中香織)
『ワンダラスト 1 (ヤングジャンプコミックス)』
著者:オニグンソウ
出版社:集英社
>>元の記事を見る