日々の生活を送る中で、皆さんは「なぜ、こんなにも仕事や時間に追われているのだろう?」と感じることはないでしょうか。そのしんどさの原因は一体どこから来ているのでしょうか。それを「資本主義」という切り口から紐解いたのが、品川皓亮氏による『資本主義と、生きていく。 歴史と思想で解き明かす「構造的しんどさ」の正体』です。
本書の第1部「追手」では、心が休まらないという感覚を私たちに与える「追手」の正体について迫ります。ひとつは、生活のあらゆる場面で私たちを支配している「時間」。ひとつは、生き残るために進歩せよと社会的圧力をかける「成長」。そして、あらゆることを数値化して評価する「数字」。さらには「労働」に「お金」に「消費」。こうした価値観のもと、「もっと認められたい」「もっと稼がなきゃ」「時間を無駄にしてはいけない」といった重圧が追手となって私たちを追い詰めているのではないかと品川氏は投げかけます。現代人が抱えるしんどさの要因は、資本主義という社会の仕組み、構造に集約されるというわけです。
そこで、第2部のテーマとなるのが「構造」です。実は、第1部で挙げられた6つの「追手」は、資本主義の6つの構成要素とそれぞれ深く関係しており、「時間」は「分業」、「消費」は「市場」、「お金」は「商品」、「労働」は「資本」、「成長」は「イノベーション」、「数字」は「金融」とつながっていると本書では整理されています。
第2部では、これらの要素を「資本主義の基本装置」と「資本主義の加速装置」に分けて解説しています。そして、その原動力となるものが「もっと貨幣を増やしたい」という欲望。
「人間の欲望が資本主義を拡張し、資本主義が人間の欲望を拡張する。この終わりなき循環が、現代社会を動かしている」(本書より)
しかし、品川氏によると、この欲望拡張の行き着く先にあるものは「虚無」でしかないといいます。こう聞くとなんだか恐ろしくなりますが、虚無とは「私たち一人ひとりが何かを書き加えることができる白紙のスペース」(本書より)とも読み替えられます。第3章では、この虚無という白紙に私たちはどんな絵を描けばよいのか、資本主義との適切な距離感や付き合い方について具体的な提案をおこないます。
本書では「資本主義=悪」と決めつけることはしません。資本主義の競争や成長、イノベーションの促進などにより、私たちが受けてきた恩恵も数えきれないほどあるからです。
「その仕組みの中で、私たちはいかに生きるべきか。それがこの本に通底する問いでした」(本書より)
資本主義を自分なりに探求するための入り口として最適な本書。何かに追われるように生きる毎日から抜け出し、自分の意思で資本主義との適切な距離感を測りたいと願う人に、ぜひ読んでみていただきたい一冊です。
[文・鷺ノ宮やよい]
『資本主義と、生きていく。〜歴史と思想で解き明かす「構造的しんどさ」の正体』
著者:品川皓亮
出版社:大和書房
>>元の記事を見る