
沖田修一監督が、年齢も育った環境も異なる3人の「さとこ」という女性の人生が交差していく様子をオリジナルストーリーで描いた『さとこはいつも』が、9月18日から全国公開。本作で、35歳の沙都子を演じた有村架純、55歳の里子を演じた石田ひかり、15歳の聡子を演じた姫野花春に話を聞いた。
−まず、最初に脚本を読んだ印象から伺います。
石田 何て優しい物語なんだろうと思いました。私はもともと沖田(修一)監督の大ファンですから、監督が書いた脚本を読めるだけでも幸せでした。後は、この3人が絶妙に絡み合っていくのもとても面白いと思いましたし、読み終わった時にすごく幸せな気持ちになりました。
有村 沖田さんが描くキャラクターは、どの作品を見ても、出てくる皆がいとおしいキャラクターになっている印象があります。もちろんエッジの効いた感じの人もいますが、憎らしい人や悪い人が誰も出てこない。憎めない愛らしさみたいなものがあります。今回も脚本を読むと、どのキャラクターもちゃんと愛されるような作りになっていて、女性3人のこういうエピソードを沖田さんが描くことがすごいと思いました。15歳の聡子ちゃんの初恋をああいうふうに描けるところも、面白く感じながら読みました。
姫野 脚本に「聡子撃沈」とか書いてあったので、監督の言葉がとても面白くて、言葉の中で自由に遊んでいるのが本当にすごいと思いました。すごく些細(ささい)なことや、個人的なところから始まって、それがとても大きな物語に広がっていく。世界中の人たちにつながることがたくさんあると思いながら、とても楽しく読みました。
−ご自身が演じた「さとこ」のキャラクターをどのように理解して演じましたか。
石田 里子は学生結婚なんです。しかも3人男の子が生まれて。私は娘2人なので、うちは女子の比率が多いんですけど里子は逆。4対1ですから完全に劣勢なんです。そんな中で、必死にご飯を作りながら、あっという間に時が過ぎたのではないかと。私もお弁当人生を送ってきて、ちょうど終わったところだったので、今の私の人生に割と重なるところが多かったので、監督が当て書きをしてくださったんじゃないかと思うぐらいでした。子育てが終わって、これからどうしようという、誰もが感じるような気持ちを大事にしようと思いながら演じました。
|
|
|
|
有村 沙都子は、ある程度キャリアを積んできて、仕事ができて当たり前というような立ち位置になっていますが、本当はまだ誰かに頼りたいし、甘えたい部分や教わりたいこともあるのに、「お任せします」って言われてしまう。中間の位置にいる戸惑いや、自分はこのままここにいていいのかという迷いがある。自分の今後を改めて考える時なのかなと思いました。周りは、ライフステージが変わったり、いろいろな環境の変化があるのに、自分は大きな変化もなく過ごしている。多分、そのマンネリ感みたいな思いが、沙都子にはあるんじゃないかと感じたので、そこを深堀りしていきました。
姫野 聡子は、心の動きがくるくる変わる子だと思いました。中学3年生なので、高校はどうするのかとか、自分は何をしたいのかも考えてはいるけれど、まだよく分からない。でも、そんな中で、書くことで、改めて、新しい自分と出会えたことが、聡子にとってはすごく大きかったんじゃないかなと思います。
−自分以外のお二人が演じた「さとこ」については、どのように感じましたか。
石田 花春ちゃんは本当に素晴らしかったです。よくぞ見つけてくださったという感じ。こんなに伸び伸びと初々しくお芝居ができるのは本当にすてきだと思いました。現場でもそう思いましたが、出来上がった作品を見て、改めて素晴らしいと感じました。でも、そのどこかにおじさんがいるの。塩辛が好きだったり、そのことを書く内容も面白いし、「水虫とのトリプルコンボでこの世を去ります」とか。本当に小さなおじさんが住んでいる感じ。花春ちゃんに関してはかわいいの一言です。連れて帰りたかったし、現場でお弁当を食べている姿を見ているだけでも、こっちもお弁当が食べられる。もうかばんに付けて持ち歩きたいぐらい(笑)。本当にかわいかったってみんなが言っていました。
それから35歳の沙都子のパートも大好きです。やっぱり不倫って、普通はドロドロしているじゃないですか。でも、どこか滑稽で何かおかしいんです。オダギリ(ジョー)さんの無責任な村本も憎めない。沙都子を刺した彼の奥さんが「ごめんなさい、大丈夫ですか」って言うのも大好きだし、何と言っても、沙都子の「痛い」が名言だと思います。刺された人が言うのかって(笑)。
|
|
|
|
有村 花春ちゃんは、その青さといい輝きといい、本当に今しかないものがしっかりと画面に映っていました。15歳の聡子ちゃんには、まだ名の知れぬ感情がいっぱいある。これからこの子はいろいろな感情を知って大人になっていく。今はそのスタートラインにいる。その姿がとてもまぶしかったです。本当に素晴らしかったです。
私は、ひかりさんの声がとても好きです。ひかりさんの声色からにじみ出てくるせりふに、いい意味で、裏があるんじゃないかと思わせてくれるような、ほのかな香りがしてとても面白かったです。強いせりふも、ひかりさんが言うと、100パーセントにはならない。いろいろな感情を想像させてくれるような表現をなさいます。55歳の里子さんは、もちろん悪い女性ではありませんが、このせりふには一体どんな感情が込められているのだろうと想像をかき立てられるところがすごく面白かったです。
姫野 35歳の沙都子さんのパートは、不倫や仕事の微妙な立ち位置にいることとか、そういうのも全部、沖田監督の描き方で、すごく生き生きとしてくるというか、いろいろなことがあるけれど、どれも全部頑張ってやってきたということをすごく感じました。後は、沙都子さんが刺された瞬間に韓流ドラマがエンディングになるところもたまらなかったです。「沖田監督最高です」って思いながら見ていました。
55歳の里子さんは、石田さんが演じられることで、男の子を3人育ててきたたくましさみたいなものと、小鳥みたいに伸び伸びとしていてかわいらしいところ。そういうものがたくさん詰まっていて、私も里子さんの夢の続きにいろいろと力をもらえたので大好きでした。家族で原稿を読んで「芥川賞って誰でも応募できるのかな」って言うところも、とても沖田監督らしいと思いながら、すごく優しい気持ちになって見ていました。
−沖田監督の演出や、撮影中のエピソードで印象に残ったことはありますか。
石田 本番中も、時々監督の姿が視界に入りましたが、本当に楽しそうな顔をしてニコニコしているのがすごくうれしかったです。みんな沖田さんが大好きなので、何とかこの監督に喜んでもらえる作品にしたいという思いがどんどん強くなっていきました。(夫役の)筒井(道隆)くんとはずっと雑談をしていたんですが、ある時、監督が「音は録らないのでそのまま話をしていてください。そういうところを撮りたい」とおっしゃって。そこはカットされていたかもしれませんけど、そんなふうに撮ってくださいました。
|
|
|
|
有村 ひかりさんもおっしゃるように、監督は皆さんに愛されていて、ずっとニコニコ楽しそうに撮っていました。何かこの人のためなら何時間でも撮りますみたいな気持ちにさせてくれるような、存在そのものに人を巻き込む力があるというか。撮影の時も日々癒やされて、疲れも自然と取れていきました。
姫野 私にとって初めての作品だということですごく気にかけてくださいました。クランクインをする前に監督からお手紙を頂きました。その中に、「自分がどう映っているのかは気にしないでいいから、モニターを見ないで」と書いてありました。だから現場でも、ちょっとでも私の視界にモニターがあると、監督が全力でそれを隠して、「見ないで」と(笑)。「せりふを間違えても自分からは絶対に止めないから」と言って、役者が伸び伸びと自由にやれる環境を作ってくださる方なので、それに毎日助けられたと思います。
石田 そんな癒やし系の監督ですけど、ある時、明らかに私のミスでNGがあったんです。それが、リテークするのに結構勇気がいるカットだったの。そこで監督は「僕の未練です。僕がやりたいんです」って言って…。格好いいでしょ。そんな男気があふれるとこもある。ほんわかしているんですけど、すごい目をしているときがたまにありました。
(取材・文/田中雄二)

