
【写真】水瀬いのり撮り下ろしカット&映画を彩るキュートなネコ科動物たち(全23枚)
■ネコ科動物は“理想の上司”? かわいさの奥に見えた家族愛と野生の強さ
――今回は世界各地のネコ科動物が登場します。作品を通して、これまで抱いていた“ネコの仲間”への印象が変わった部分はありましたか?
水瀬:私にとって最も身近なネコ科の生きものといえば、やっぱり猫ちゃんです。子猫の頃はとてもかわいらしく、少しか弱くも見えますが、大人になると静かでどっしりとした佇まいになる。どこか達観していて、一匹でも生きていけるような強さを持つ生きものというイメージがありました。
だからこそ今回、ナレーションとツノミン役で作品に関わる中で、猫よりもずっと体の大きなライオンやチーターたちが、深い家族愛を持って生きていることが、とても印象に残りました。
これまで『ダーウィンが来た!』のテレビシリーズでも、ライオンやチーターの生態に触れる機会はありましたが、こうして長尺の映像でじっくり見つめると、「こんな行動をするんだ」「こんなふうに仲間を思いやるんだ」と、改めて驚かされることばかりで。その姿には、人間にも通じるような優しさや思いやりを感じました。私にとっても、大きな発見でした。
――家族や仲間との関わりが描かれる中で、特に心に残った場面を教えてください。
水瀬:久しぶりに再会したライオンの姉妹が、特に心に残っています。再び出会えたことに姉妹の絆を感じる一方で、離れていた時間の中で、それぞれを取り巻く環境は変わってしまっていて。再会の喜びに浸る間もなく、また別々の道を選ぶことになるんです。
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人間であれば、もっと話し合おうとしたり、時間をかけて分かり合おうとしたりするのかもしれません。でも、厳しい自然の中では、それ以上関わり続けることが、かえって生きるうえでの障壁になる場合もある。彼女たちはそれを本能で察し、離れることを選んだのだと思います。
仲間を大切に思っているからこそ、共にいるのではなく、別れなければならない。その現実を一瞬で突きつけられたようで、「この世界は決して甘くないんだ」と、強い衝撃を受けました。
――そんな厳しい世界を生きる一方で、思わず頬が緩むような姿も見せてくれます。ネコ科動物の、かわいらしさとたくましさの振り幅をどう感じましたか?
水瀬:気を許してゴロゴロしたり、のんびり過ごしたりするかわいらしい姿があるからこそ、狩りの瞬間にスッと入る“野生のスイッチ”とのギャップが、いっそう鮮やかに映るのだと思います。
「怖い」「強そう」と感じるほどたくましい表情を見せたかと思えば、次の瞬間には無防備にゴロゴロしていて、「やっぱりかわいい!」と思わされる。その二つの顔を持っているところが、いい意味でずるいですよね(笑)。
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■「生きものたちが主役」水瀬いのりがナレーションで大切にした“静かに見守る声”
――ツノミンを演じるときと、ナレーターとして語るときでは、声を届ける際の心境やアプローチにどのような違いがありましたか?
水瀬:ツノミンとして話すシーンは、まったく緊張せず、純粋に演じることが楽しかったです。ツノミンとして言葉を届けられること自体に、喜びを感じていました。
一方で、ナレーションにはすごく緊張しました。自分の声がナレーションに向いているのか、今の私にはまだ自信を持って「向いています」と言い切れない部分もあって。私の声が、皆さんが生きものたちの生態を見つめるうえで、邪魔になってしまわないだろうかという不安もありました。
だからこそ、なるべく映像のノイズにならず、皆さんが生きものたちの世界へ入っていくお手伝いを、自分の声と語りでできたらと意識しました。自分らしさは残しながらも、“ナレーションをする人”という一つの人格を作り、その声を通して語りかけるような感覚で臨んだ収録でした。
――ナレーターとして前に出るのではなく、“裏方”に徹することを大切にされているのですね。
水瀬:そうですね。『ダーウィンが来た!』は、今回の劇場版に限らず、あくまで生きものたちが主役の映像作品です。ナレーションは、生きものたちが何を伝えようとしているのか、その瞬間に何が起きているのかを、必要なところで補うためにあるのだと思います。
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――生きものたちに寄り添ううえで、どのような距離感を意識しましたか?
水瀬:常に、彼らが見ている景色を一緒に見ているような気持ちでいました。ただ、その一方で、“天の声”として少し俯瞰した立場から見守ることも意識していました。
映像には、ドローンで撮影したような広大な景色もあれば、「一体どこから、どうやって撮ったんだろう」と驚くほど、生きもののすぐそばまで迫った場面もあります。まるで彼らと同じ目線に立っているような画角や、足元からその姿を見上げているような画角もあって、映像によって観客の視点は大きく変わっていくんです。
だからこそ、ナレーションまで生きものたちに近づきすぎるのではなく、同じ景色を見ながらも、少し離れた場所から静かに見守る。その距離感を大切にしていました。
――思わず声を上げたくなるような場面もありますが、ドキュメンタリーとして語るうえで、感情の表し方はどのように考えましたか?
水瀬:初めてご覧になる皆さんにとっては、動物たちの意外な一面や、衝撃を受けるような光景もたくさんあると思います。私自身も、映像を見ながら驚く場面が何度もありました。
ただ、ナレーションでは、そのたびに「わあ!」と反応するのではなく、静かに寄り添うことを意識しました。長い時間をかけて生きものたちを見守り、追い続けてきたカメラクルーの皆さんは、そうした出来事も含めて、彼らの営みとして受け止めてきたのだと思うんです。
動物を扱うバラエティー番組であれば、視聴者の皆さんと同じ目線に立ち、一緒に驚いたり、共感したりする語り方もあると思います。でも今回は、厳しい自然の中で生きる動物たちを捉えたドキュメンタリーです。だからこそ、感情を必要以上に大きく表現するのではなく、目の前で起きていることを静かに見守るように、しっとりと語ることを心がけました。
――経験を重ねた今回、理想とするナレーションに変化はありましたか?
水瀬:私自身、ナレーションの経験はまだ十分とは言えないので、今回の収録でもたくさんの学びがありました。中でも改めて難しいと感じたのは、長い文章の中で何を伝えたいのかを捉え、その言葉をいかに自然に際立たせるかということです。
伝えたい部分だからといって、強く節をつければいいわけではないんですよね。あまりに強調すると、「今、強調したな」と伝わってしまって、かえって言葉が悪目立ちしてしまう。意識せずとも自然に耳へ入ってきて、心地よく聞けるのに、本当に伝えたいことはきちんと胸に残る。そんな語りを目指したいと思いましたし、ナレーションは本当に奥深くて難しいものだと、改めて実感しました。
今回は長尺のナレーションを担当させていただいたこともあり、収録が進むにつれて、少しずつ自分の中で語りがなじんでいく感覚もありました。終盤になって「この感覚で最初から臨めたらよかったのに」と思う部分もあって、そこには少し悔しさも残っています。
それでも、今の自分にできる限りのことを込めて、一言一言大切に語らせていただきました。今回得たものを、また次の機会につなげていけたらと思いますし、まずは皆さんに作品を楽しんでいただけたらうれしいです。
■「今、チーターに励まされた気がする」生きものを知ることで変わった日常
――2018年からツノミンを演じ、『ダーウィンが来た!』に関わってきたことで、生きものや自然に対する水瀬さん自身のまなざしは、どのように変わりましたか?
水瀬:『ダーウィンが来た!』に関わらせていただいてから、動物園へ足を運ぶ機会がものすごく増えました。身近に、生きものの生態を知ることができる場所があるにもかかわらず、大人になるにつれて、子どもの頃よりも自然と足が遠のいていたんです。
でも、番組でさまざまな生きものを知るようになってからは、「今回特集されていた生きものを、実際に見てみたい」と思うようになりました。動物園でその姿を見つけると、まるで芸能人に会えたような感覚になるんです。「いる、いる、いる!」「テレビで見た子だ!」って(笑)。
もちろん、動物園という環境で暮らしている姿だけで、彼らの野生での生態をすべて知ることはできません。それでも、画面越しに見ていた生きものが目の前にいて、人間とは異なるリズムや習慣の中で暮らしている。その姿を眺めているだけで、とても興味深いです。
こちらがカメラを構えて「こっちを向いて」と思っても、当然、その通りには動いてくれない。でも、ふとした瞬間にこちらを向いてくれることもあって。そんな思い通りにならないところも含めて、すごくいとおしく感じます。
『ダーウィンが来た!』との出会いをきっかけに、動物園や水族館はもちろん、博物館や植物園、図鑑にも改めて興味を持つようになりました。大人になった今、生きものや自然についてもっと知りたいと思えるようになったこと自体が、私にとって大きな刺激になっています。
――動物園では、役者として思わず動物たちにアテレコしてしまうこともありますか?
水瀬:ありますね(笑)。気づいたら動物たちに話しかけていたり、「ああ、そうだよね、そうだよね」と気持ちを代弁するような言葉が出ていたりします。赤ちゃん言葉とは少し違うのですが、自然と心を寄せたくなるんですよね。
ただ「かわいい」と眺めるだけではなくて、「今のは絶対に嫌だったんだろうな」とか、飼育員さんたちが来たら「みんな、ごはんの時間だと思ってワクワクしているのかな」とか。そのときの行動や表情から、動物たちの気持ちを想像するようになりました。
『ダーウィンが来た!』を通して、それぞれの動物の生態や個性を知ったことで、「みんな、ちゃんと感情を持って生きているんだ」ということを、以前よりも深く感じられるようになったのだと思います。
動物園ではガラス越しに見ることが多いですが、それでも一つ一つのしぐさをじっくり観察したくなる。生きものをずっと追いかけ、見つめていたくなる気持ちが、今では本当によく分かります。
――ちなみに、今、水瀬さんの中で“熱い”動物は?
水瀬:私はサルの仲間が結構好きなんです。中でも最近は、マーモセットやタマリンのような、とても小さなサルが気になっています。
体も顔も本当に小さいのですが、顔立ちをよく見ると驚くほど精巧で、人間に近い造形をしているんです。ちゃんと鼻や目頭があって、まばたきもする。当たり前のことなのですが、小さな体で「チーチー」と鳴きながら動く姿を見ていると、「ああ、生きているんだな」と実感して、ものすごくいとおしくなります。
一方で、マーキングをする習性があるので、なかなか刺激的な香りがすることもあって(笑)。でも、それも彼らが生き抜くために必要な行動なんですよね。かわいらしさだけではなく、そうした生態も含めて知ることで、「こうやって暮らしているんだ」と新しい発見があります。今、私の中ではタマリンがかなり“熱い”です(笑)。
――同じサルの仲間でも、種類によって見た目や個性が大きく違うところも面白いですよね。
水瀬:本当に、みんな違いますよね。例えばニホンザルには、どこか柴犬のような親しみやすさがあるというか。「ニホンザルって、すごくプレーンなんだな」と改めて思いました(笑)。もちろん、温泉に入る姿もかわいらしいですし、日本の風景になじむような魅力があります。
一方で、アフリカなどに生息するサルに目を向けると、体や顔に「なんて鮮やかな色をしているんだろう」と驚かされる種類もいて。同じサルの仲間でも、暮らす場所によって、こんなにも姿が違うんですよね。
そうやって見比べていくと、「なぜこの地域のサルはこれほど鮮やかな色になったんだろう」「反対に、なぜニホンザルはこの色になったんだろう」と、それぞれの進化のルーツまで気になってきます。見た目の違いから、その背景にある環境や生態へと興味がどんどん広がっていく。そこに、生きものを知る楽しみの奥深さを感じます。
――最後に、この作品を通して動物たちの生き方に触れ、水瀬さん自身が受け取ったものを教えてください。
水瀬:私たちは人間なので、ネコ科動物とまったく同じ環境で生きることはできません。たとえ四足歩行になってみたとしても、時間になればごはんが出てきますし、眠くなればお布団もある。彼らの暮らしに完全に入り込み、同じ感覚を味わうことは、きっとできないと思います。
それでも、この映像を通して彼らの生き方を知ることで、たくさんの学びや発見がありますし、それまで遠い存在だった動物たちを身近に感じられるようになるんです。見ているうちに、「あれ、今、私、チーターに励まされた気がする」と思う瞬間もありました。
ライオンの強くたくましい生き方の裏には、過酷で孤独な戦いがあります。群れで生きる動物たちの世界にも厳しい現実があって、どれだけ個性や魅力があったとしても、最後には強さがものを言う。その残酷さを目の当たりにすると、「では、人間として生きる私は、これからどう生きていこう」と、自分自身を見つめ直すきっかけにもなりました。
私は今、自分がとても恵まれた環境にいると感じています。だから、そんな場所で立ち止まってばかりいないで、もう少し頑張ってみようとも思えました。動物たちはあれほど厳しい世界を生きながら、それでも家族や仲間との間に愛を育み、命をつないでいる。その姿には、厳しさだけではない温かさも感じます。
生きる環境や姿は違っても、みんな同じように今を懸命に生きていて、一つ一つに等しく命がある。この作品を通して、その当たり前だけれど大切なことを、より身近に感じられるようになりました。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
『劇場版ダーウィンが来た!世界のネコのなかまたち』は、10月2日より全国公開。
