余命宣告を受けた教師と生徒たちの物語......って、なんか内容が想像できてしまわない?
正直、読む前にはそんなふうにも思っていた。決して意外なことが起きるわけではない。王道の青春小説でもあるんだけど、なんとなく抱いてしまうイメージにはハマらない。実はすごいものを読んでいるのでは?と途中で気づいた。
舞台となるのは、中高一貫の女子校だ。100年以上の歴史を誇るミッションスクールで、世間ではお嬢様学校といわれているらしい。新学期になり、クラス替えがある。3年E組の担任は、加賀美秀彦先生。中年の国語教師だ。最初のホームルームで本人が語ったところによると、就職氷河期に教師になり、この学校が2校目だそうだ。家族は妻とふたりの娘。上の子は生徒たちと同じ中学3年生だという。口グセは「今日も一日だけがんばってください」ということばだ。
「おじさんだけど不潔感はないし、熱っぽい教育論を振りかざすタイプにも見えない」とある生徒は思う。「僕にはこのクラスの全員を自立させるという野望があるんです」とある生徒にはいう。懐いたり慕う生徒もいれば、クールな視線を向ける生徒もいる。祖母の見舞いに行った病院で深刻そうな雰囲気の先生とその家族を見かけた生徒がいる。その後、先生はガンだという噂が流れる。保護者からのクレームにより学校を辞めることになるかもしれないらしい。
クラスには32人の生徒がいる。ひとりひとり名前があって、見た目の印象も、家庭環境も、考えていることもみんな違う。目立つ生徒や問題を抱えた生徒はいるけれど、誰か一人が主人公なのではない。クラスの中心にいる生徒も、きらめくような才能や魅力のある生徒も、自分のことは脇役と思っている生徒も、空気が読めなくて教室に馴染めない生徒も、32人全員がリレーのように主人公を務め、小説の中に確かに存在している。
私もかつては中学生だったから、こんな雰囲気あったなあとか、こういう子いたなあとか、この気持ちわかるなあとか、懐かしく(そして苦々しく)思い出したりもする。でも、当たり前のことだけれど、同じ子はどこにもいない。誰かが決めた枠の中にきれいに収まる生徒は、1人もいないのだ。
先生の最後のことばは、今の世の中を作っている長いものに巻かれがちな大人たちにも向けられている。「一日だけ」という口グセが、素直に心に響く。
(高頭佐和子)
『春までのセンセイ』
著者:早見和真
出版社:双葉社
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