
ライターという仕事をやっていると、発表会や取材の最中に「これは後でちゃんと聞き返したい」と思う瞬間が多々あります。スマートフォンを取り出して録音を始めることもできますが、そうすると視線はどうしても画面へ。話を聞くことと、記録を残すこと。その2つをもう少し自然に両立できないか、と思うことも少なくありません。
ウェアラブルAI製品の開発を手掛ける、シンガポールのGyges Labs(ギュゲス・ラボ)が開発したAIリング「Vocci(ヴォッチ)」は、会話やアイデアをリング本体で録音し、スマートフォンとクラウドを使って文字起こしと要約が行える製品です。日本ではMac用周辺機器などの輸入商社として知られるフォーカルポイントが取り扱います。
実際にしばらく使ってみると、これは会議中に画面で議事録を追うための道具ではなく、現場では話を聞き、終わった後に“記録を自分の仕事へ戻す”ための道具だと感じました。
●ダブルクリックは、メモではなく「録音するぞ」という合図
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Vocciは、リングのボタンをダブルクリックして録音を始め、もう一度ダブルクリックして止めます。最初は「指輪を2回押すだけで録音できるのか」と思ったのですが、使っているうちに、この操作は単なるメモのショートカットとは少し違うと感じるようになりました。
自分の中では「ここから先の会話は、しばらく残しておこう」と決めてから押す操作です。ちょっとした思いつきを1秒で残すというより、ここから先しばらく録音するぞ、という小さな儀式に近いのです。その意味では、ダブルクリックという操作はちょうどいい。
公式サイトでは人差し指への装着を推奨していますが、個人的には親指が最もしっくりきました。左親指に着け、両手を合わせるようにして右親指でダブルクリック。録音を始めるという意思を持って、確実に押せる感じがありました。
録音開始時に指へ振動が返るのもいいところです。画面を見ずに操作が受け付けられたことが分かるので、気持ちよく使えます。
一方で、ここはもう一歩進むとUI的にもっとよくなるのではないかと感じました。録音開始と終了で返ってくる振動が同じため、どちらの操作が受け付けられたのかを手元だけでは判別しにくいのです。結局、録音が始まっているかを確実に知るにはアプリを見る必要がありました。
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せっかく振動という、画面を見ずに状態を把握できるという優れた機能なのですから、開始と終了で違う振動パターンになれば、Vocciはもっと会話に集中しやすい道具になるはずです。
録音した音声ファイルを後で聞き返してみました。そこで驚いたのは、自分がその場で聞いていた感覚に近い音量とバランスで再生できたことです。
もちろん、音質は話者との距離、会場の騒音、人数、再生環境によって変わります。今回の感想は、あくまで筆者が試した環境での印象です。それでも、リング型デバイスでここまで自然に会話を聞き返せるなら、単に「録音が残った」という以上の安心感があります。
本体はIP67の防塵・防水性能をうたっていますから、雨の日でも外したりする必要をあまり感じずに済みました。雨天で性能を試験したわけではありませんが、毎日身につける道具として、この気楽さは意外に大きいものです。
●発表会や取材を経て、使いどころが見えてきた
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しばらく使ってみて、Vocciが特に向いていそうだと思ったのは、イベント参加、講演、発表会、カンファレンス、取材のような場面です。こうした場では、話を聞いている最中にスマートフォンに目を落とすより、登壇者の声や会場の空気に集中したい。必要な場面で録音を始め、終わった後で内容を振り返ればいい。Vocciはこの流れに自然に入ります。
約1時間の録音を行ったところ、リングからアプリ、アプリからクラウドへの送信、クラウド側での文字起こし・要約処理まで、合計で約10分かかりました。このため、リアルタイムで議事録を見ながら会議を進めるといった使い方には向きません。
ただ、イベントや発表会なら話は変わります。セッションが終わった後に会場を移動する、次の登壇まで少し休憩する、といった時間は必ずあります。そう考えると、1時間近い会話を録音してから約10分で扱える状態になるのは、十分に現実的な時間でした。
Vocciの面白さは、ここにあります。会話の最中に画面で議事録を追い続けるのではなく、リングで記録しておき、終わった後にAIへ渡す。録音、文字起こし、要約、次のアクションという流れを、後から自分のペースで辿るための製品です。
記録から作られた要約をMarkdownファイルとして扱えるのもいいところです。Markdownなら、記事の下書きに貼る、取材メモとして保存する、テキストエディタで見直す、別のAIへ渡す、といった次の作業へ移りやすくなります。例えばChatGPTやClaudeなどのAIへ渡し、会話内容をToDoやGoogleカレンダーに追加するといったこともできます。録音したままアプリの中に閉じ込められない点は、書き手にとって大事です。
アプリからは、作成したテキストファイルをGoogle Driveへアップロードする導線も確認できました。ファイルをいったんDriveに置き、普段の執筆環境やほかのツールで続きを扱う。この流れが最初から用意されているなら、イベント後の仕事にもつなげやすいはずです。
●会話の記録を、後から仕事へ戻したい人へ
こういう使い方を続けるなら、充電と料金は先に見ておきたいところです。リング本体は小さいぶん、充電の手間は気になります。
今回の試用では、1時間を超える録音でバッテリーが約3割減りました。録音以外の操作、同期、通信環境、開始時の状態を切り分けた測定ではないため、これを一般的なバッテリー駆動時間として扱うことはできません。公式によると、リング本体は最大8時間の連続録音に対応し、充電ケースはリングを3回フル充電できます。
長時間のイベントを連続して記録するなら、残量はこまめに見ておきたいところです。その点、アプリで残量がすぐ分かるのは助かります。充電の必要がなくなるわけではありませんが、残量を把握できずに不安になることは減ります。
クラウドサービスの料金プランには、無料の「Starter」もあります。この場合、文字起こしは月300分、Vocci AIチャットは月30回、クラウドストレージは2GBまでという上限がある一方で、多言語対応、話者ラベル、元音声のファイル書き出し、自動文字起こし・AI要約、要約テンプレート、Vocci MCPサーバなどの利用もプランに含まれています。
月300分という上限は、毎日ガンガン録音する使い方には足りないでしょうが、月に数回の打ち合わせやイベント参加くらいなら無料プランでも十分に試せそうです。
つまり、無料プランは機能をほとんど触れないお試し版というより、利用量に上限のある基本プランと考えた方が近いでしょう。使い込んで、より長い文字起こし時間やAI利用回数、クラウド容量が必要になったところで、有料プランを考える構造です。
有料の「Plus/Pro」プランは、文字起こしが1200分(Plus)や無制限(Pro)になるなど、使い込みたい人向けの内容です。注意したいのは、Apple App Store、Google Play、Vocci.aiのどこで契約するかで価格が異なること。iPhoneのApp Storeでは、Plusが月額3000円または年額2万2000円、Proが月額6000円または年額4万5000円。Google Playでは、Plusが月額3380円または年額2万5800円、Proが月額6400円または年額5万700円です。
Vocci.aiで直接契約する場合は、Plusが月額15.99米ドル、年額119.99米ドル(表記上の月額換算は9.99米ドル)、Proが月額29.99米ドル、年額239.99米ドル(同19.99米ドル)となっています。本体の購入価格とは別です。価格は改定、キャンペーン、地域設定、税、為替で変わる可能性があるため、実際に契約する直前の表示を確認してください。
Vocci本体は、日本ではGREEN FUNDINGでクラウドファンディングを実施しています。支援プランは46%オフの2万9990円からとなっています。
●自分の仕事の流れに合わせるAIリング
現在、指輪という形で録音し、AIと連携するリングデバイスというのは、いくつかの製品が出ています。同じ「会話を記録する」製品でも、目指すところは同じではありません。必要な機能を絞り、価格や気軽さを優先する製品もあります。
一方で、会話を残し、文字起こし・要約し、AIや外部ツールまで接続して、自分の仕事の流れに合わせることを優先する選択肢もあります。Vocciは明らかに後者です。
そのぶん、リングの大きさ、バッテリー残量、処理を待つ時間、サブスクリプションの上限といった負担はあります。けれど、イベントや取材で得た会話を自分の文脈として残し、後から記事、メモ、タスク、AIとの対話につなげたい人には、単なる録音機以上の意味を持つでしょう。
会話を記録するかどうかではなく、残した会話を、その後何に使いたいのか。そこから考えると、Vocciの立ち位置は見えてきます。そこが、Vocciを選ぶ理由になるのだと思います。
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