2026年はKYOJO CUPに参戦しつつ、9月のF1アカデミールーキーテスト/トレーニングキャンプに参加した佐藤こころ(TEAM OPTIMUS CERUMO・INGING) 9月9〜11日、スペインのナバラ・サーキットで女性レーシングドライバーが争うF1アカデミーの2026年ルーキーテストが行われ、日本からはKYOJO CUPに参戦している佐藤こころ、松井沙麗が参加した。KYOJO CUP第4戦でルーキーテスト参加の経緯や走行の感想を聞いた。
F1世界選手権のサポートレースとして知られるF1アカデミーは、2023年から開催されている女性ドライバー限定シリーズ。そのシリーズに佐藤と松井が日本人女性ドライバーとして初めてルーキーテスト、ルーキートレーニングキャンプに選出され、日本の女性限定フォーミュラレースであるKYOJO CUPに参戦する10代の若手ドライバー2名が、3日間に渡るスペインでのルーキーテストに挑んだ。
2024年からKYOJO CUPに参戦し、今春から大学1年生になった18歳の佐藤は最終日に行われた2本の走行をどちらも4番手で終了。ルーキーテスト参加の経緯について「海外での走行は今年の1月にドバイ24時間レースに参加したので初めてではないのですが、フォーミュラカーでの走行は初めてでした」と振り返る。
「加地(雅哉/TGRグローバルモータースポーツディレクター)さんが今後の進路を相談する機会をくださり、トヨタ/GRの方々に経験を積む場を用意していただけることになりました。私は小山美姫選手のように海外で経験を積んで速いドライバーになりたいと思っていたので、新しい環境に飛び込んでみたいと伝えたことがきっかけになりました」
テストに先立ってイギリスのラフバラ大学で行われたトレーニングキャンプでは、体力測定やトレーニングのみならず、栄養学などに関する座学も実施。F1を目指すにあたり必要となる身体に関する知識を詰め込まれ「ビタミンや野菜の摂取量などはこれまでは気にかけていませんでした。過去7週間分のさまざまな数値が測られて、この数値も恐らく評価基準に入っていたはずです。私は水分量が最下位だったのですが貴重な経験でしたし、いろいろなことに気づかされましたね」とドライビング以外の面でも多くの学びを得た様子だ。
トレーニングキャンプを経て臨んだルーキーテストでは、最終日にルーキードライバー走行セッションが2回設けられ「いろいろな立場のドライバーがいましたけど、意外と落ち着いて臨めました」と佐藤。ただ、現役と新人がともに来季のシートを狙うテストならではの雰囲気に、少なからず影響を受けた場面もあったようだ。
「結果を残さなければならないので、やはり最後は口では言い表せない空気感がありました。セクタータイムを見るともっと上の順位も狙えていたので、今振り返ると『落ち着いてタイムが出せていられれば……』と思う部分もあります。若干雰囲気に飲まれていた部分もあるかもしれません。クールダウンを挟んで何周かアタックするので、難しかったです」
マシンやタイヤについても、今季参戦しているKYOJO CUPとの大きな違いを感じたという佐藤。ステアリングが重いうえ、アクセルコントロールでの攻略を求められるコーナーが多いナバラ・サーキットのレイアウトに「かなり神経を使ったので、疲れました」と走行を振り返った。
「特にタイヤのグリップ力が全然違います。KYOJOは安心感がありますけど(F1アカデミーの)ピレリタイヤはクルマの性能を上限よりも少し引き出そうとしただけで、車体がふらつきます。なので失敗が大きなロスになりますし、うまく走ることができると大きくタイムが上がります。この変化が目に見えてわかるのは、すごく勉強になりました」
今回のテストでは、長らく課題としてきたブレーキング、そしてメンタル面にもっとも大きな変化がみられたという佐藤。10月10〜11日に行われたKYOJO CUP第4戦でも冷静なレース運びでキャリア初優勝。第2戦では首位争いに加わったことで見えた自身の課題に大粒の悔し涙を見せていたが、待望の初優勝獲得後の佐藤は意外にも落ち着いた様子だった。
「優勝の嬉しさは確かにあるのですが、今週は自分でもびっくりするほど落ち着いています。テストでは日本で経験できないことをたくさん学ぶことができたので勉強になりました。結果はまだわかりませんが、もしお声がかかったときに万全の状態で挑めるように、オフシーズンは英語を頑張ろうと思います」
■「期間中は楽しくて仕方なかった」松井沙麗。フィジカルに手応えも課題は英語
15歳の現役高校生である松井は、ルーキーテスト最終日午前の走行を11番手、午後の走行を5番手で終えた。参加の経緯については「今年の5月に行われたF1第5戦カナダGPで、ウイリアムズの育成担当の方からお話をいただきました」と説明。かつてはアカデミーのメンバーとして所属し、現在も契約関係が続いているウイリアムズから直々にオファーを受けていたことを明かした。
「F1アカデミーへの出場はひとつの夢でもあるので、テストに参加できると決まったときは本当に嬉しかったです。今年は海外でレースをすることができず、ヨーロッパに戻りたいという気持ちはずっとあったので、期間中は楽しくて仕方がなかったですね」
F1アカデミーで使用されているタトゥース製のF4規格車両については「6月にイギリスで乗っているので、乗るのは2度目です。エンジンはKYOJO CUPと同じ(1.4リッターターボ)ですけど、クルマが違うのでフィーリングも違いますし、ステアリングも重かったですね」と松井。ステアリングの重さについては佐藤も言及していたが「路面のグリップは確かに低いし、バンピーで非常に跳ねますけど、私はナバラの路面が結構好みでした」と、路面コンディションについてはやや異なる印象を抱いたようだった。
また、松井は「F4マシンでもまあまあ疲れます」とコメント。フィジカル面では手応えを感じたというが「もっとトレーニングしなければなりませんし、英語力も必要です。エンジニアさんとのコミュニケーションは前ほど苦戦しなくなりましたけど、世界で戦うなら勉強しなければなりませんね」と語っており、英語についてはふたり共通の課題となっているようだ。
なお、KYOJO CUPで松井のコーチを務める佐々木大樹は「以前は若さゆえの勢いでなんとなく走っていた部分もありましたが、四輪においてどういった要素を抑えれば速く走ることができるか、という部分を最近は掴みつつある印象があります。そういった部分はF1アカデミーのテストでも再確認することができましたし、アドバイスを実践できているところも成長を感じます」と松井の進歩を評価。KYOJO CUP第4戦のファイナルでは四輪キャリア初の接触に涙する場面もあったが、さまざまな経験を経て着実に前進しているようだ。
最後に松井は「フォーミュラにステップアップしてから、初めてヨーロッパの大きな舞台で走りました。テストに参加したことで、世界で戦いたい気持ちが強くなりましたね。私は現在KYOJO CUPしか参戦していないので、もっといろいろなマシンで経験を積みたいとも思いました。結果はどうなるかわかりませんけど、いつかF1アカデミーのシートをゲットできたら良いですね」と前を見据えた。
F1アカデミールーキーテストを経て、大きな学びと手応えを得た佐藤と松井。世界を舞台に戦う女性ドライバーとシートを争った経験は大きな糧となったことだろう。
[オートスポーツweb 2026年10月12日]