サザン桑田佳祐の名曲はなぜ切ない? 現役ミュージシャンが"歌う和音"と"シンコペーション"から「桑田節」を分析

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2013年11月05日 16:21  リアルサウンド

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サザン・オールスターズ「希望の轍」収録『海のYeah!!』(ビクターエンタテインメント)

 今年でデビュー35周年を迎え、夏には35万人を動員する大規模なスタジアムツアー『灼熱のマンピー!! G☆スポット解禁!!』を成功させるなど、“国民的バンド”としてますます精力的に活動するサザン・オールスターズ。年末には、リーダーの桑田佳祐が『昭和八十八年度! 第二回ひとり紅白歌合戦』の開催を決定するなど、その勢いはとどまらない。


 「いとしのエリー」「涙のキッス」「愛の言霊 〜Spiritual Message‎」「TSUNAMI」など、歌い継がれる名曲を数多く残し、いまや日本のポップスのスタンダードとなったサザンだが、桑田佳祐が生み出す楽曲はなぜ、これほどまでに多くの人の心を掴むのだろうか。


 5年ぶりに活動を再開し、再び注目を集めているサザンの名曲、とりわけ「桑田節」の特徴を、トレモロイドのキーボード・小林郁太氏に語ってもらった。


●流れるようなコード展開


 小林氏によると、桑田節の音楽的な特色はなんと言っても「流れの良さ」にあるという。桑田の楽曲にはブルースや60年代のロックのフォーマットを使った泥臭いものもあるが、いわゆるポップソングでは、スタンダードなコードを流麗に組み上げて、桑田流の“切なさ”を醸し出しているのだ。


 今なおサザンの代表曲で、小林氏が「J-POP史に残る美しいコード展開」だと言う「いとしのエリー」の歌のAメロは下のようなコード展開だ。


| D | F#m | D7 | G | Em7 A7 | D E9 | G A7 | D |
*キーは「D(レ)」


最初の3つのコードは「D F#m D7」とあるが、小林氏によるとこれは要するに「ファ#とラは固定のまま4つ目のGの構成音である『シ』に向かって『レ ド# ド』と半音ずつ下がっていく」ことを意図しているという。「泣かしたこともある」「冷たくしてもなお」「寄り添う気持ちがあれば」と歌詞のストーリーと呼応するように半音ずつ下がっていくラインが「いかにもどこかに向かう途中の不安定で感傷的な響き」を奏で、4つ目のG「いいのさ」の調和的な開放感につながる。


 しかし小林氏は「そのGもいくらか調和感があるものの決して安定的なコードではなく、先の展開への緊張感をはらんでいる」という。そして、次小節ではG(ソ シ レ)に「ミ」を足しただけのよく似たEm7(ミ ソ シ レ)が続くことで、前半の4つのコードが作ったストーリー性を引き継いでゆき、Em7からは、コードの変化が早くなり、より安定的なコードになっていくことで「ミニマムな世界に収縮していくような感覚」を与え、最もベーシックな1度のメジャーコード「D」に落ち着いた直後、E9という2度のメジャー系コード(通常2度はマイナー「Em」歌詞では「Lady」のところ)で「ふわりと宙に投げ出されるような響き」を作る。そして最後は、ポップスの王道展開である4度、5度、1度の流れで締めている。


 こうしてコード展開を見てみると、ひとつひとつのコードが単なる和音ではなく、常に前後の音階的に絡み合うストーリーを奏で「歌っている」ことがわかる。ほかにも「涙の海で抱かれたい 〜SEA OF LOVE〜」のサビでは「いとしのエリー」とは逆に、コードの構成音を使って半音ずつ上げていくことで高揚感を煽ったり、「TSUNAMI」の歌い出しでは、目立たないところでコードの低音を2拍ごとに1音ずつ下げていくことで柔らかな心の動きを表現したりと、桑田の曲には歌詞と連動した、ストーリー性のあるコード展開が散見される。小林氏は「そのようにコードが歌うことによって不安定な和音もストーリーの一要素になり、心地よい『流れ』ができる」と分析している。


●シンコペーションを多用した歌唱法


 小林氏によると、桑田の歌はメロディの美しさも特筆するものがあるが、特徴として際立っているのはなんと言っても“リズム”だと言う。


「桑田の歌詞と歌唱方法は、日本語が持つ音の特性――抑揚の小ささ、子音のバラエティの少なさ、子音単独で発音する語の少なさによるリズムの均一性などに縛られず、独自のグルーブを生み出している。そこには数々の技巧が凝らされているが、とりわけ特徴的なのは、シンコペーション」


 シンコペーションとは、ひとつの音を本来のアクセントの位置より前に出す手法で、多くの場合、8分音符ひとつ分早くなる。桑田はこの手法をボーカルに多用していて、歌い出しのポイントを他のパートより少し先に設定している。そうすることによって「アンサンブルの中でボーカルが沈まず、常に一歩抜けて聴こえる」と小林氏。


 また、シンコペーションを多用することによって、桑田のボーカルには得も言われぬ躍動感が生まれている。特に「希望の轍」におけるシンコペーションは絶妙とのこと。


「『夢を 乗せて 走る 車道』という各文節の最後の音は、全て小節の1拍目より半拍前にズレている。それだけでなく、この曲のボーカルは、ほぼ全ての小節でシンコペーションしている。この曲のトラックが比較的、淡々としているにも拘わらず、胸が苦しくなるような焦燥感や何かに対する憧れを喚起させられるのは、淡々としたトラックに対して桑田の声だけがほぼ全てシンコペーションしているから」と、小林氏は指摘している。


 コードの中に半音階のラインを作り、“切なさ”を際立たせたり、シンコペーションで“憧憬”を喚起したりと、音楽的な技法によって様々なイメージをもたらす「桑田節」。サザンが“国民的バンド”と呼ばれる背景には、実は精緻に計算された「桑田節」の巧みさがある、と言えるのではないだろうか。(リアルサウンド編集部)



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  • 小林克也や萩原健太の方がより分かりやすく分析してくれると思うょd(^_^o)
    • イイネ!2
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