各音楽誌選出の洋楽ベスト・アルバムを徹底比較! 見えてきた「2013年のベスト3枚」とは

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2013年12月31日 17:10  リアルサウンド

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ヴァンパイア・ウィークエンド『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』(ソニーミュージック)

 洋楽ロックを扱う各音楽誌が、2013年12月発売の号で、恒例のベスト・アルバムを選定している。各誌の選定内容を比較してみると、”プロ“リスナーが共通して選ぶ作品の傾向が見えてきた。
洋楽ロックが売れないといわれる昨今だが、良質なアルバムは今でもリリースされている。まずは各誌のランキングを見てみよう。

 洋楽ロックの年間ランキングといえば、音楽雑誌が華やかだった時代を経験した向きには2大勢力とも言える『ロッキング・オン』と『クロスビート』だろう(『クロスビート』は既に休刊し、ムックとしての刊行)。

 『ロッキング・オン』が選んだ2013年ベスト・アルバム。

1位「シャングリ・ラ」ジェイク・バグ
2位「エー・エム」アークティック・モンキーズ
3位「アモック」アトムス・フォー・ピース
4位「リフレクター」アーケイド・ファイア
5位「ランダム・アクセス・メモリー」ダフト・パンク
6位「ザ・ネクスト・デイ」デヴィッド・ボウイ
7位「スナップショット」ザ・ストライプス
8位「モダン・ヴァンパイア・オブ・ザ・シティ」ヴァンパイア・ウィークエンド
9位「カムダウン・マシン」ストロークス
10位「オーヴァーグロウン」ジェイムス・ブレイク

 ダフト・パンクは、ナイル・ロジャースやジョルジオ・モロダーも参加したこのアルバムで生音系ディスコにシフト。EDMの波には背を向けて、もはやポップスの域に達した音楽性で、幅広いリスナーを獲得し5位にランクイン。ダフト・パンクと同じダンス・ミュージック出身でも、ジェイムス・ブレイクのランクインは少々意外。現代のアシッド・フォークとも言える前作より、少々変則的で実験的なビート・ミュージックに向かっているので、10位とは大健闘(……とも言えるが、2013年に発売されたアルバムの中でも期待値が高かっただけに、他誌を含め、意外に評価されていないのが謎と言えば謎)。そして、トム・ヨークの趣味が多分に反映されたマニアックなプロジェクト、アトムス・フォー・ピースを選んでいるところも、少々洋楽ロック雑誌としては攻めの傾向だ。後述の『クロスビート』が、王道ロックスタイルのサヴェージズやフランツ・フェルディナンドを推して、いわゆる洋楽ロックというスタイルのバンドで固めているのと対照的。今勢いのあるジェイク・バグを、その勢いのまま1位に推しているのも、良い意味で『ロッキング・オン』がまだまだ感性の若い雑誌であるということを印象づけている。癖のあるヴォーカル、いわゆるロックのスタイルを少々斜めから切るようなひと捻りが効いての結果だろう。



 お次は『クロスビート』のランキング。

1位「モダン・ヴァンパイア・オブ・ザ・シティ」ヴァンパイア・ウィークエンド
2位「リフレクター」アーケイド・ファイア
3位「ザ・ネクスト・デイ」デヴィッド・ボウイ
4位「ランダム・アクセス・メモリー」ダフト・パンク
5位「サイレンス・ユアセルフ」サヴェージズ
6位「エー・エム」アークティック・モンキーズ
7位「20/20」ジャスティン・ティンバーレイク
8位「mbv」マイ・ブラッディ・バレンタイン
9位「ライト・ソーツ、ライト・ワーズ、ライト・アクション」フランツ・フェルディナンド
10位「スナップショット」ザ・ストライプス



 2013年はヴァンパイア・ウィークエンドの年でもあった。揺るがない透き通ったお洒落な音楽性。これが洋楽ロックリスナーの2013年における共通項の一つだったということだろう。他誌ではほぼ無視されているのがマイ・ブラッディ・バレンタイン。猛烈な信者が待ちに待った、久方ぶりのサード・アルバム。クオリティが高くはあるが、22年前から音楽的に全くと言っていいほど進歩が見られないことで、他誌は推すのを控えたのだろうか。実は好事家の耳にはしっかり届いているジャスティン・ティンバーレイクをベスト10に入れているところにはニヤリとさせられる。



 お次は『ミュージック・マガジン』が選んだ2013年ベスト・アルバム。



 上記の2誌とは違い、邦楽やダンス・ミュージック、歌謡曲、ヒップホップなど、細かくジャンル分けされているので、「ロック/アメリカ・カナダ」「ロック/イギリス・オーストラリア」の各ベスト10から上位5位をピックアップした。

●アメリカ・カナダ
1位「モダン・ヴァンパイア・オブ・ザ・シティ」ヴァンパイア・ウィークエンド
2位「ゴースト・オン・ゴースト」アイアン&ワイン
3位「ワールド・ブギ・イズ・カミング」ノース・ミシシッピ・オールスターズ
4位「リフレクター」アーケイド・ファイア
5位「エドワード・シャープ・アンド・ザ・マグネティック・ゼロズ」エドワード・シャープ・アンド・ザ・マグネティック・ゼロズ



●イギリス・オーストラリア
1位「ザ・ネクスト・デイ」デヴィッド・ボウイ
2位「スナップショット」ザ・ストライプス
3位「エー・エム」アークティック・モンキーズ
4位「シャングリ・ラ」ジェイク・バグ
5位「new」ポール・マッカートニー

 この号の表紙からも明らかなように、『ミュージック・マガジン』はデヴィッド・ボウイとポール・マッカートニー推し。2013年は何と言ってもデヴィッド・ボウイの復活が衝撃的だったのだろう。アーケイド・ファイアのアルバムにもゲスト参加し、古くからの音楽ファンには待ちに待ったアルバムであり、若い層にはデヴィッド・ボウイを発見する年であったと実感させられる。ちょっと変なのが、表紙にも描かれているのに、ダフト・パンクが「ハウス/テクノ/ブレークビーツ」の他、どの項にもランクインしていないところ。彼らの音を敢えて外すところもマガジンらしい、といえば、らしい、か。逆に言えば、それほど知名度のない、回顧的な音楽性を持ったアーティスト(例えばエドワード・シャープ・アンド・ザ・マグネティック・ゼロズ)がランクインしているところもマガジンらしい。

 言い忘れていたが、各誌が軒並みザ・ストライプスを注目株として推している。2103年にデビューした目玉的存在だが、ある程度の年齢に達しているリスナーにとって、さして目新しくないと思われる彼らの音楽性。若い人に影響を受けたアーティストとして活躍してもらいたい!という、プロリスナーの願いも込められているのだろうか。



 というわけで、音楽雑誌からいつの間にか距離を置いてしまったという方々も、2013年の総括として、各誌が選んだベスト・アルバムと各誌の2013年の音楽シーン分析をチェックしてみてはいかがだろうか……としめたいところだが、少数のライター/編集者の好みが反映され、やや同人誌的な感覚で作られている雑誌『エレ・キング』のチャートを見てみると面白いことが分かった。



 編集方針と同じく、選定されたベスト10も偏っていて、ワン・オートリックス・ポイント・ネヴァー、ヤング・エコー、DJラシャド、インク.、メルト・ユアセルフ・ダウン、ローレル・ハロ、ジャズ・ドミュニスターズ、コリーン、ジュリア・ホルター、ルーク・ワイアットと、音楽を聴くことに対してかなり能動的なリスナーのためのランキング。



 非常に興味深いのは、11〜20位までのランキングに、サヴェージズ、ヴァンパイア・ウィークエンド、ジェイク・バグが選定されていること。つまり、マニアックな層、音楽という泥沼に入り込んでしまったリスナーの耳にも届いたということは、この3組(人)が今年の本当のベスト3とも言えるのかもしれない。



 そして結論。すべてのランンキングに顔を出したヴァンパイア・ウィークエンドが本当の2013年ベスト・アルバムということか。洋楽に疎い読者も、これを聴いて良い年を迎えてみては?(真利夫)



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