"Gレコ"の原点!? シャアのクローンが活躍する富野ガンダムの黒歴史『ガイア・ギア』が復刻されないワケ

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2014年06月27日 20:10  おたぽる

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おたぽる

『ガイア・ギア』第1巻(角川書店/現・KADOKAWA)。

 7月からは『ガンダムさん』、秋からは『ガンダム ビルドファイターズ』第二期に『ガンダム Gのレコンギスタ』が放送開始、そして来春には『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のイベント上映を控え、35周年を迎えて破竹の勢いで展開する「ガンダム」シリーズ。



 だが、ここまでの道のりは決して平穏なものではなかった。関係者としては、今となってはできるだけ触れたくない黒歴史(思えばこれも元はガンダム用語だ)的作品も存在するのだ。今回は、そんな中で「ガンダム」シリーズの生みの親、富野由悠季氏自身が手がけた問題作『ガイア・ギア』を紹介しよう。



 宇宙世紀203年、南洋の島を模したスペースコロニーで育った青年アフランシ・シャア。一年戦争の英雄シャアの記憶を受け継ぐメモリークローンであり、反地球連邦組織"メタトロン"のリーダーに祭り上げられた彼は、人型兵器"マンマシーン"に乗り込み、連邦の秘密警察"マハ"と戦いを繰り広げていく......。



 本作は、1987年から1991年にかけて角川書店のアニメ誌「ニュータイプ」誌上で連載し、スニーカー文庫から全5巻の文庫本としても発売された長編小説で、著者はもちろん富野由悠季氏。人型兵器マンマシーンによる戦闘描写の激しさや、過剰なドラマ展開、80年代末にすでに遺伝子や環境にまつわる問題をテーマに組み込んだ先見性、なにより当時の富野氏の半ば暴走ともいえるエネルギッシュな創造力が存分に味わえる作品で、富野ファンの間では今なおカルト的な人気を誇っている。



 キャラクターデザインは同時期『機動戦士ガンダムZZ』『同 逆襲のシャア』を手がけている北爪宏幸氏、メカニカルデザインに『機動戦士Ζガンダム』『同 逆襲のシャア』の佐山善則氏と、当時イラストレーターとして活躍していた伊藤守氏が担当。



 また挿絵として大貫健一氏や、後に劇場版『Ζガンダム』では総作画監督も務める仲盛文氏、『逆襲のシャア』に艦艇デザインで参加したGAINAXから、当時同社に所属していた庵野秀明氏と貞本義行氏など、今から見ればアニメファンなら驚くようなクリエイターたちが多数参加している作品なのだが、現在『ガイア・ギア』は全5冊の小説版をはじめ、後に全5巻のCDにもまとめられたラジオドラマ版も、すべて品切れ重版未定という名の絶版状態にある(ちなみにラジオドラマ版の構成は『機動戦士Ζガンダム』の脚本家でもある遠藤明範氏)。



 それはなぜか? 実は、この『ガイア・ギア』は『機動戦士ガンダム』の設定と世界観を用いて、富野氏が創作したオリジナル小説なのだ。



 今ではガンダムシリーズのクレジットに原作者として記載される富野氏だが、最初の『機動戦士ガンダム』制作時に、原作権を30万円ほどでサンライズに売り渡している(そもそも当時は、アニメの原作権の概念が希薄な時代だった)。だから、「ガンダム」シリーズに属する新作を立ち上げる権利はないはずなのだが、80年代後半は、「ガンダムシリーズ」自体がまだ方向性を模索していた時期であり、現在のようなビッグビジネスにまで成長していなかったこともあるのだろう、サンライズも当初は"富野監督がやることだから"とある程度、黙認を決め込んでいたが、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』や『同0083』といったOVAシリーズの成功、また劇場版『逆襲のシャア』が本格的に始動してからは、徐々に締め付けを厳しくしていったようだ。



 実際、本作の「ニュータイプ」誌上での連載開始前の予告では『機動戦士ガイア・ギア 逆襲のシャア』として告知されていたが、連載中にタイトルが『機動戦士ガイア・ギア』『ニュータイプサーガ ガイア・ギア』に変更。最終的にはシンプルに『ガイア・ギア』として文庫で発売された。



 また上記のラジオドラマ版のCDのパッケージに"ガイア・ギア(c)富野由悠季・角川書店・ニュータイプ""機動戦士ガンダム(c)創通エージェンシー・サンライズ"と二つのクレジットが併記されていることからも、この80年代末から90年代初頭にかけて、サンライズ側が「ガンダム」シリーズの管理体制を強化し、それに対して富野氏が抵抗を示していたことがうかがえる(その後のサンライズとの決裂から和解に至るまでの経緯は、富野氏の著作『ターンエーの癒し』に詳しい)。



 こうした争いの過去もあってか、近年この『ガイア・ギア』という作品が、ガンダム関連の話題で取り上げられることはほとんどない。



 かつて某復刊サイトが、原作小説およびドラマCDの復刻を企画したが、著作者の富野氏自身が"クオリティの問題"から、許諾しなかったという。しかし、富野氏自身にもいまだ本作への愛着はあるようで、新作ガンダム『Gのレコンギスタ』の原型となった企画『Gレコ』において、人型兵器の名称を『ガイア・ギア』に登場する"マンマシーン"としているのを目にした時、筆者は少し心を躍らせた。サンライズや「ガンダム」シリーズへの表裏一体の愛憎を創作のエネルギーとしてぶつけていた、あのギラギラしていた頃の富野氏が帰ってきたのか、と感じたからだ(結果、『Gレコ』は『ガンダム Gのレコンギスタ』として「ガンダム」シリーズに組み込まれ、マンマシーンはモビルスーツと改称されたが)。



 とまれ、本作『ガイア・ギア』は、当時の富野由悠季氏であったからこそ書け、当時の状況があったからこそ成立した作品だ。たとえサンライズが認める正史に組み込まれなくとも、ありえたかもしれないガンダムワールドのひとつの可能性として、35周年を機に、ぜひとも復刻してほしい一作である。
(文/蜂須賀のぼる)



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  • なつかしい。ちょうど広島に出たてで,ニュータイプを語れる友人もおらず,まさに私の黒歴史。そうか,そういう事情があったんですね。
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