「集団的自衛権」と「憲法」の関係は? 27歳の弁護士がわかりやす〜く解説

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2014年07月11日 16:41  弁護士ドットコム

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集団的自衛権を行使することは、現在の日本国憲法のもとでも認められている――。安倍内閣はそのような憲法解釈を閣議決定し、国民に向けて説明した。集団的自衛権の行使を認めるべきかどうかについては、国民の間でも賛否が分かれているが、「集団的自衛権」と「憲法」の関係を正しく理解している人は意外と多くないようだ。


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そもそも「集団的自衛権」という言葉が難しい。さらに、「憲法」とどういう関係にあるのかとなると、うまく説明できない人が多いのではないだろうか。そこで、憲法にくわしい弁護士に、「集団的自衛権と憲法の関係」について解説してもらうことにした。



法律資格予備校「伊藤塾」で憲法の講義をしていた経験をもち、現在もフリーの講師として活躍している伊藤建(たける)弁護士にインタビューして、「わかりやす〜く」説明してもらった。



●そもそも「集団的自衛権」ってなに?


――いま話題になっている「集団的自衛権」とは、そもそも、どんな権利なのでしょうか? 「集団」で「自衛」するというのは、具体的に、どんなことをさすのでしょうか?



「集団的自衛権とは、『自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が攻撃されていない場合にも、実力をもって阻止する権利』のことです。要するに、親友がケンカを売られたら、自分も一緒になってケンカをする権利。この定義は、1981年5月以降、日本政府が一貫して採用しているものです」



――そのような集団的自衛権の行使について、安倍政権が「容認」する閣議決定をしたことが、大きなニュースになっています。ポイントはどこにあるのでしょうか?



「政府の説明によると、今回容認した集団的自衛権の行使は、日本が侵害される『明白な危険がある場合』に限定されています。つまり、親友がケンカを売られても、自分にとって『明白な危険』がなければ、一緒にケンカができないというわけです。



しかし、ベトナム戦争など、これまで実際に集団的自衛権の名のもとに武力が行使された世界の事例を見ると、政府が勝手に『明白な危険がある』と判断するおそれは否定できません。そのため、結局は限定がないのと同じだという批判もあります」



――今回の閣議決定は安全保障政策の大転換と伝えられています。これまでの政府は「集団的自衛権の行使は認められていない」と解釈していたということですが、それはなぜでしょうか?



「1972年以降の日本政府は、集団的自衛権の行使について、“必要最小限度”ではないと解釈していました。そのロジックは、次の通りです。



憲法9条1項は戦争を放棄しているが、自衛のための抗争は放棄していない。一方、憲法9条2項は戦争・戦力を放棄しているが、自衛のための“必要最小限度”の実力行使は禁止していない。そして、次の3つの条件を満たす場合にかぎり、“必要最小限度“の実力行使として許される。



(1)我が国に対して急迫不正な侵害があったこと


(2)これを排除するために他に適当な手段がないこと


(3)その急迫不正な侵害を排除するために必要最小限度の実力の行使にとどまること



このように政府は、自衛権の行使を理解してきました。要するに、(1)日本に対する攻撃が開始され、(2)他の手段がないならば、(3)やりすぎない限度で武器を使えるということです。



集団的自衛権は、国連憲章51条により、国際法上認められている権利。そのため、日本も集団的自衛権は持っている。ところが、集団的自衛権を行使することは、(1)の日本に対する急迫不正の侵害がないため、“必要最小限度”とはいえない。だから、日本は、国際法上は集団的自衛権を持っているけれども、その行使は憲法9条により禁止されている、とされてきたわけです」



●「集団的自衛権の行使容認」は憲法9条と矛盾しないのか?


――安倍内閣は、そのような従来の政府見解を変更したわけですね。そのロジックは、どのようなものでしょうか? 憲法9条が定める「戦争放棄」と矛盾しないのでしょうか?



「今回の閣議決定の要点は、『時代が変わったんだから、限定された集団的自衛権の行使ならば、“必要最小限度”として憲法9条に矛盾しないでしょ?』というものです。そのロジックは、次の通りです。



そもそも、“必要最小限度”の意味は『これだ』と決まっているわけではなく、時代とともに変化する。そのため、大量破壊兵器や弾道ミサイル、国際テロなどによる新たなリスクを考えると、(1)のように日本が攻撃されるのを待っているわけにはいかない。



だから、(1)の条件を、『我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合』に変更しても、“必要最小限度”といえる。



安倍内閣は、このような解釈ならば、憲法9条とは矛盾しない、というわけです」



集団的自衛権の解釈変更をまとめた図



――しかし、安倍内閣の解釈に対して、反対を表明している憲法学者が多数います。その反対のポイントはどこにあるのでしょうか?



「反対のポイントは、3つあります。



1つ目は、そもそも『集団的自衛権の行使を認める必要はない』という主張です。日本が他国の戦争に巻き込まれることになる、政府が集団的自衛権の行使が必要だと主張する場面は非現実的だ、これまでの個別的自衛権の行使でも十分対応できる、と指摘されています。



2つ目は、『集団的自衛権の行使は憲法9条の解釈の限界を超えている』という主張です。憲法9条が許しているのは、日本の自衛のために実力行使をすることだけだ。日本が攻撃されていないのに、他国のために実力行使ができるという集団的自衛権の行使は、解釈上認められないと指摘しています。



3つ目は、『閣議決定による解釈改憲ではなく、憲法改正によるべきである』という主張です。憲法は、政府を縛るために国民に与えられたもの。そのため、縛られる側の政府が勝手に憲法解釈を変更することはできない。変更するならば、憲法改正手続により、各議院の総議員の3分の2以上の賛成と国民投票による承認という難しい“入学テスト”をクリアするべきである、というわけです。



ところが、第2次安倍内閣は、この難しい入学テストを避け続けました。まず、憲法改正に必要な総議員の賛成を3分の2以上から過半数に引き下げることで、入学テストを簡単にしようとしましたが、公明党の賛成を得られずに断念しました。



次いで、閣議決定による解釈改憲により入学テストから逃げようとしたのですが、今度は『集団的自衛権の行使は違憲』との立場を変えなかった憲法解釈の“先生”である内閣法制局に反対されました。そこで、当時の内閣法制局長官である山本庸幸氏を退任させ、集団的自衛権の行使に積極的な小松一郎氏を抜擢したのです。この人事は、『内閣法制局長官は内閣法制局の職員から任命する』という暗黙の了解を破ったため、“禁じ手”と評価されています。その結果、ようやく閣議決定による解釈改憲を実現させたのです。



このような正面突破ではない手法は、“裏口入学”に等しく、憲法の破壊・無視であると指摘されています」



●「解釈改憲」で重大なことを決めるのは許される?


――集団的自衛権の行使を認めるかどどうかは、国民にとって重大な問題だと思いますが、憲法を改正することなく、内閣の判断による『解釈改憲』によって、その方針を変更することは許されるのでしょうか?



「許すか許さないかは、主権者であるみなさん自身が選挙において判断するべきことです。



とはいえ、『集団的自衛権の行使は不要である』という憲法学者のみならず、かつて自民党の勉強会に招かれ、『憲法9条を改正して集団的自衛権の行使を認めるべきだ』と主張していた小林節・慶應大名誉教授や、元内閣法制局長官である大森政輔氏、阪田雅裕氏、山本庸幸氏の3人までもが『解釈改憲は許されない』という意見を表明している点は注目すべきでしょう。



今回認められた集団的自衛権の行使は、個別的自衛権の行使に毛が生えただけだとの見方もあります。しかし、その毛を生やすか否かについて、国民的な議論を尽くしたうえで、憲法改正手続により国民自身が決断するべきである。それが憲法の流儀だということです。



解釈改憲を許すならば、次回の選挙で自民党・公明党に投票すればよいでしょう。他方、許さないならば、自民党・公明党ではない議員に投票しなければなりません。自民党・公明党が嫌だから選挙に行かない、というのはダメです。残念ながら、誰にも投票しなければ、みなさんの意見は無視されるだけです」



――伊藤弁護士は現在、27歳ですね。同世代の若い人々に、この問題についてどのように考えてほしいと思いますか?



「憲法解釈は他人事ではありません。みなさん自身に関わる事柄です。そして、『自分のことは自分で決める』というのも、憲法の流儀です。



私と同世代ですと、生の戦争体験談に触れる機会が乏しいのではないでしょうか。戦争とはどういうものかは、私の大好きな『機動戦士ガンダム』からも学ぶことができますが、生の戦争体験談に勝るものはありません。私は、祖父母から、東京大空襲やシベリア抑留の体験談を聞いて育ちました。夏休みに帰省したときなどに、年配の方々の生の戦争体験談に耳を傾けてほしいですね。



そのうえで、解釈改憲を許すのか、集団的自衛権の行使を認めるべきなのか、みなさん自身のご意見をしっかりと持ってほしいと思います」


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
伊藤 建(いとう・たける)弁護士
弁護士。1986年10月2日生まれ(27歳)。慶大院修了・法務博士(専門職)。NHK教育テレビ「真剣10代しゃべり場」への出演をきっかけに憲法と出会う。司法試験合格後はインターネットを中心に法学教育を行っている。
ブログ「憲法の流儀」(http://ameblo.jp/lawschool-life/)
Twitter:@itotakeru
事務所名:琵琶湖大橋法律事務所
事務所URL:http://biwako-ohashi.com/



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