阿部記之監督×西尾鉄也氏 「NINKU-忍空-」対談―20年の時を超えて―後編

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2015年06月26日 19:22  アニメ!アニメ!

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左)阿部記之監督、右)西尾鉄也氏
1995年から96年にかけて放送されたテレビアニメ『NINKU-忍空-』、桐山光侍氏の原作マンガは、「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載され高い人気を誇っていた。忍術と空手も合わせた武術・忍空をテーマに、個性的なキャラクターが強さを求め、協力し、成長していく姿が描かれている。6月26日にこのBlu-ray BOX第1巻が発売、8月26日に第2巻が予定されている。
本作の阿部記之監督とキャラクターデザイン・作画監督を務めた西尾鉄也氏、そして当時を知る『NINKU-忍空-』プロデューサー・スタジオぴえろの萩野賢氏の対談後編を届ける。
[取材・構成=細川洋平]

「NINKU-忍空-」 Blu-rayBOX 公式サイト
http://www.ninku-box.com/

■ デジタルアニメとセルアニメ、今と昔

―特に苦労したという思い出の話数をうかがえますか。

西尾鉄也(以下、西尾) 
50話(「力を越えろ風助!最大空力!!」)です。とにかくコンテがてんこ盛りでした。

萩野賢プロデューサー(以下、萩野P)  
いろいろやりすぎて怒られましたね。おおもとは阿部監督です。作画や撮影班のことをあまり考えずにコンテを切っていく(笑)。

―物語としてもクライマックスを迎える50話ですが、カットはどのくらいあったのですか?

西尾 
一時期10000枚を超えて、処理しきれないからと言って9000枚か10000枚ジャストぐらいに収めたと思います。

萩野P 
今のデジタルでは珍しい枚数ではないんですよ。素材ごとに絵をバラせば枚数は増えますから。でも当時はセルだから重ねずに、一枚当たりに相当描き込んでいるんです。さらにキャラクターたちはすごく動いてる。
何より天空龍ですね。今だったらCGに変換すればいいですが、その頃はリスマスク透過光という手間のかかる手法でエフェクトを表現していました。天空龍が暴れると枚数も手間もとんでもなくかかるんです。


一監督もかなり大変だったのではないでしょうか。

阿部記之監督(以下、阿部) 
その辺は深く考えてなかったんでしょうね(笑)。ただ、今よりずっとシンプルだったんですよ。今はひとつのカットに作監、アクション監督、総作監、その上にキャラデが修正を入れたりと細かく直していきます。もちろん質を上げるために必要な工程ですけど、遊びを入れる箇所はなかなかない。昔は制約のある中でも、作監が自分流に描いていたんじゃないかと思うんです。

西尾 
そうですね。

阿部 
撮影も一カット撮るのに一日かかったりするので一発勝負で。今は全部リテイク(撮り直し)が出せる分、かえって大変というか。

西尾 
作画に関してもそうですよ。デジタルだと実際の絵を見て「直そう」ができちゃう。アナログ時代の作監チェック、演出チェックは職人技だったと思います。できあがりを想定してやっている。もちろん善し悪しはありますが、あの頃からずいぶん変わりました。

■ 作品から生まれてくる才能たち

―『忍空』では印象的なアクションシーンが随所に出てきます。ああした殺陣は作画ではどのように組み立てるんですか?

西尾 
絵コンテ上に「アクションよろしく」って描いてあるんです。それを描きたい人、得意な人が担当してあの画面になっています。その辺は今もあんまり変わらないと思います。描きたい人、描ける人、うまい人にやってもらえたから今も印象に残って語られるんです。

阿部 
いきなり『忍空』のアクションに行き着いたわけじゃないんですよね。『幽白』の初期はみんな手探り状態でした。やっていくうちに西尾くんみたいな人が育ったり、集まってきた。『忍空』はその流れから一番いい感じにスタッフが揃っていた頃なのかも知れないですね。今見たらすごい人が原画マンで名を連ねていますから。

萩野P 
『幽白』の途中から「好きなことができそう」と考えた人たちが集まってくる流れはありましたね。

西尾 
ぴえろの伝統ですよね。見ている側でしたけど『うる星やつら』も、シリーズの途中からアクション系のアニメーターが大挙して参加して作品の方向性まで変えちゃいましたから。

阿部 
西尾さんに聞きたいなと思っていたんだけど、『忍空』の時に「忍空走り」ってやってたじゃない。今も「忍者走り」とか「NARUTO走り」って言われているやつ。元は何かあるの?

西尾 
吉原正行さんが『ナイフの墓標』で描いたやつですね。一般的なイメージで言うと『カムイの剣』で忍者が手を振らずに下半身だけで走っているというのがあると思うんですよ。冒頭の回想シーンで死んだお兄さんがそうやって走っている。あそこからスタートして今に至っているんだと思います。



■ 幻の干支忍たち

―20年の時を経てBlu-ray BOXが発売となります。BOXやインナージャケットは西尾さん描き下ろし。中でも注目なのはアニメ本編では見られなかった「アニメ版干支忍」が12人勢揃いしているイラストです。

西尾 
温めていたものを引っ張り出して、覆面姿なので差し障りないだろうということで載せさせていただきました。当時監督に見せただけで終わっちゃいましたから(笑)。

阿部 
顔が出てるものも彼はちゃんと描いてくれてて。でも当時はどうしても出せなかったんですよ。当初の構想では干支忍が揃っていって最後に大決戦、というつもりだったんです。一応「出したい」という話はしたんですけど、結果的に出せなかった。


―お二人のお気に入りのキャラクターは誰でしょうか。

西尾 
風助ですね。描いていくうちに愛着が湧いていきました。

阿部 
風助言われちゃったなあ。そうそう、里穂子が毎回のように洋服が替わるのは別に発注してないんですよ。もちろんいくつか服があればいいなと思ってはいましたけど、ファッショナブルにそれを含めて作ってくれてたのがうれしかったですね。これはやりたくてもなかなかできないことなんです。

西尾 
いや、描いたら描いただけ使ってもらえてたんでうれしかったですね。それに里穂子が毎回変わる分、風助たちが全員着た切り雀っていうのも対比としておもしろい。それ自体がギャグになるなって思っていましたからね。

■ 『NINKU-忍空-』で得たもの

―監督は『忍空』を手がけたことでどのような手応えを感じられたのでしょうか。

阿部 
キャラクターはあるけど話自体は少ない中から、ほぼオリジナルの物語を構築するということを1年間通して勉強できたのが『忍空』でした。このくらいやるとこうなるんだという目安が、自分の中にできあがった気がします。

―それは物語の緩急の付け方ということでしょうか。

阿部 
さじ加減ですかね。各話のシナリオに物語全体の設定をどう乗せるのかという部分です。脚本をいろんなライターの方に発注するので、当然ある程度矛盾も出てくるんです。前の話数で作っていた設定がうしろの話で繋がらなかったり。そういうところをコンテで調整していきました。

―西尾さんは『忍空』をふり返られていかがでしたか。

西尾 
「西尾と言えば『忍空』」と言われてしまうくらい名刺代わりの作品になりました。駆け出しの、在籍していた作画スタジオしか知らなかった人間が、『忍空』に関わることで、監督はじめいろんなセクションの人間が集まって戦いながらフィルムを作っている現場を知りました。そこで知り合った原画マンとは今でも関係が続いています。第二の出発点、かけがえのないネットワークができた作品です。

―いろいろと当時のお話をありがとうございました。最後に改めてBlu-ray BOXを楽しみにしているファンへ、メッセージをお願いします。

西尾 
熱気というか若いがゆえのバカさというかをちょっとでも感じていただければと思います。一年のシリーズというボリュームのある作品なので、大河ドラマ的に見てもらえるのもいいですし。
バカ売れして『忍空2』が作れるといいなあ。こないだ『NARUTO-ナルト-』の岸本先生に会って「NINKU-忍空-vs NARUTO-ナルト-を実現させてくれ」って伝えました(笑)。

阿部 
いまでも「『忍空』好きでした」と言われることがあって、やっぱりすごくうれしいです。最後はどこに向かって行くのかを探ながら、一生懸命作った作品でした。今のアニメとはまた違ったおもしろさを感じていただければ、やった甲斐もあったなと思えます。昔懐かしく見ていただいたり、何かの形で見てもらえるなら本当にうれしいです。

「NINKU-忍空-」 Blu-rayBOX 公式サイト
http://www.ninku-box.com/


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