限定公開( 43 )
ーー今から30年前以上前、そう僕らが子どもだったあの頃に読みふけったマンガたちを、みなさんは覚えていますか? ここでは、電子書籍で蘇るあの名作を、振り返っていきましょう!
ジョジョファンに聞いてはいけないのは、「『ジョジョの奇妙な冒険』で一番好きなの、何部?」という質問じゃないだろうか。
第一部がなけりゃ始まらないし、第二部のジョセフも大好きだし、第三部の「スタンド」(持ち主の傍に出現し、さまざまな超常的能力を発揮する守護霊のような存在)という発明はマンガ史を変えたし……。なんて、喧々諤々、結論が出ることは永遠にないだろう。
もちろん、僕も右に同じくなのだが、もしも「一番繰り返し読んだのは何部?」と聞かれたら、これは間違いなく第四部だ。
Kindleでも、この連載が始まる前に、自主的に買っていたのが第四部である。
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承太郎とDIOの壮絶な戦いで第三部が終わり、間髪を入れず、第四部が始まった。舞台は1999年の日本、M県S市杜王町である。99年というと、もう16年も前なので、「第四部ってずいぶん前の作品なんだな〜」と思うかもしれないが、連載が始まったのは92年。当時は、7年後の未来を描いていた。つまり連載していたのは、23年も前なのだ。
当時の僕は、大学2年生という、人生で一番ダランとしたモラトリアムな時期だった。映画研究部に入っていて、部室に行くと誰かが買った「週刊少年ジャンプ」(集英社)が置いてあった。
ちなみに92年当時の「ジャンプ」は、『ドラゴンボール』『幽遊白書』『SLAM DUNK』『ろくでなしBLUES』『新ジャングルの王者ターちゃん』と、人気作品多数の、いわゆる“黄金期”だった。
ただ、この時の『ドラゴンボール』はセル編に突入し、ちょっとダレた雰囲気になっていたのは否めなかった。ほかの人気連載も長期連載になり、世の中の何の役にも立っていない映画研究部員たちは偉そうに、「ジャンプもそろそろ終わりだよな〜」なんて陰口を言っていた頃だ。
そんな時に始まったのが、『ジョジョ』の第四部である。新しいシリーズが始まるのは嬉しいけれど、やはりちょっと不安もあった。今の10代の人たちは感覚として理解できないだろうけど、20世紀末だったあの頃は、なんとなく「1999年に世界が終わるような気がする」という、漠然とした思いが充満していた。それは、流行りに流行った、ノストラダムスの「1999年7月、空から恐怖の大王が来るだろう」という予言に端を発している。同時に、1989年まで続いた米ソの冷戦の影響で、一歩間違えれば大陸間弾道ミサイルが降ってくる……そんな雰囲気だった。数年後に世界が滅んじゃうのは嫌だという不安感と、みんな同時に滅びるならいいやという変な安心感のどちらもあった。
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そんな中、『ジョジョ』の舞台が1999年になったという事で、みんなは口々に「こりゃ第四部のラスボスは、カーズ(第二部のラスボス・究極の生命体になった後、火山の爆発で宇宙にふっとばされた)が、宇宙から降ってくるな!!」と話していた。
この予言は、当たらなくて本当によかったと思う。第四部のラスボスである吉良吉影は、世に数多いる敵キャラクターの中でも、僕が最も好きなキャラのひとりなのだ。
第四部の主人公は東方仗助、高校生である。第二部の主人公であるジョセフ・ジョースターの息子であり、体格や顔は今までジョジョの流れをひいている。その外見の一番の特徴は、リーゼント。リーゼントなんて、当時すでに過去の遺物だったのだが、荒木飛呂彦の描くリーゼントはとてもかっこよかった。とても気持ちいい質感だ。
そして、仗助は普段は馬鹿で気の良い高校生なのだが、ヘアスタイルについて悪口を言われると、猛烈に切れる。
仗助のスタンドは、クレイジー・ダイヤモンド。壊れた物を治すことができるという特徴を持っていた。ただし、自分の肉体の損傷は治せない。ロールプレイングゲームで言うなら、ヒーラーのポジションである。
とはいえ、スタンド能力はそのスタンドを持つ人間の特質が出る。物を治すというとても優しい能力を持つ主人公、というのがなんとも意外で、見ていてとても楽しいキャラクターだった。
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前回、「第三部から主人公以外のキャラクターも活躍するようになった」と書いた。第四部も、第三部以上にさまざまなキャラクターが出てくる。
ただ、第三部と違い、第四部には「DIOを倒す!!」というようなハッキリしたフラグがない。
物語冒頭、第三部の主人公である空条承太郎は、第二部の主人公である、ジョセフ・ジョースターの念写によって判明した「杜王町に凶悪犯罪者がいる」という事実を、仗助に伝えたが、その凶悪犯罪者はすぐに倒してしまう。
その後、音石明というボスっぽいキャラクターが登場するが、物語前半に倒してしまう。そして、杜王町という街で起こる、スタンドにからんだ事件が単発的に語られていく。
■好きなキャラクターが多すぎる! 泣かせどころもある第四部
『ジョジョの奇妙な冒険』というタイトルは、“奇妙”という言葉が入っているのがとても特徴的だ。
“奇妙”という言葉の入った作品には、もう一つ『世にも奇妙な物語』という人気作品があるが、『ジョジョ』第四部は雰囲気が近いなと感じる。
杜王町という舞台のどこかで、人知れず今日も奇妙な出来事が起こっている。そんな今までのジョジョシリーズにはない、独特な味わいがあった。
第三部とは違い、第四部には目的がないので、登場するキャラクターもモチベーションがバラバラである。
第四部で、主人公的エピソードが多かった広瀬康一や、最強のスタンド能力を持ちながら馬鹿なのでそれほど生かしきれない虹村億泰は、学生なので基本的には毎日学校に通って、レストランやカフェでお茶したり、恋愛したりしている。
いまだにスピンオフされる人気キャラクターに成長した、マンガ家・岸辺露伴も基本的にはスタンドアロンなキャラクターで、なにより主人公仗助とは徹底的に仲が悪い。
さらに、戦闘の能力を持たないトニオ・トラサルディーや、辻彩がいるのも第四部ならではだ。
さほど出番は多くなかったが、噴上裕也もとても好きなキャラクターだった。自分の身体を治すという、敵っぽくないモチベーションもよい。
ちなみに、岸辺露伴の名言
「だが断る」
を言わせたキャラクターだ。
噴上裕也が出ていないという理由でバンダイナムコゲームスの『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』を買わなかったのは、僕だけだろうか?(世界に5人くらいはいるんじゃないか?)
ヌ・ミキタカゾ・ンシも好きだし、山岸由花子もミザリー的でよかったね……なんて、ほうっておくといつまでも書き続けられてしまう。
そんな魅力的なキャラクターが目白押しの『ジョジョ』第四部だが、最も好きなキャラクターはラスボスの吉良吉影だ。
彼は、最初からラスボスだったわけではなく、書き進めるうちに結果的にラスボスになったキャラクターだと思う。敵ボスキャラクターというのは、主人公以上に大きな野望を抱きがちである。例えばDIOは不老不死になって、世界を支配しようとしていた。とても大きい野望だ。
吉良吉影の野望は「人を殺さずにはいられない性を持ちながら、それでも平穏無事に生きること」である。
前半部分はともかく、後半は多くの人が願う、とても当たり前の望みだ。それがとてもいい。
あまり語られないが、幼少期から自分の性癖でとてもつらい思いをしたであろう事が汲み取れる。それでも前向きに生きて、普通に寿命をまっとうすることを夢見ている。
「変態の人殺し」というどうしようもない人格の持ち主だが、とても感情移入ができた。
ラストバトルは、主人公の仗助との一騎打ちになる。この死闘は、本当に面白い。バトルに入るまでの展開もサスペンス調でよかったし、バトルも緊張感があってよかった。読んでいない人のために多くは書かないが、バトルの後半戦の“ガオン”のくだりは本当に泣けた。当時も泣いていたし、今も泣いている。
そんな第四部だが、読むたびに気になることがある。
『ジョジョ』第四部には、ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助、と3人のジョジョが登場する。そもそもジョセフ・ジョースターが日本に来日したのは、居場所不明のスタンド使い・音石明の場所を探すためだった。
細かいことを言うと、第三部の時、日本でハーミット・パープルを使い、エジプトにいるDIOの居場所を突き止めたのだから、今回もわざわざ来日しなくてよかった気がするが、でもまあ、これは子どもである仗助に会いたいとか、歳をとってスタンド能力も衰えたとかあるかもしれないので、大目に見る。
ただ、いただけないのは、後半戦の一番大きなミッション「吉良吉影の居場所を探す」に関しては、どう考えてもジョセフ・ジョースターのスタンド能力を使うのが最適じゃない? と思ってしまうのだ。
結局ジョセフは、ハーミット・パープルをほとんど使ってない。
な〜んて、理屈っぽいことを考えてしまうのも、本当に何度も何度も読んでいるからなのです。ああ、なんか、すいません。
●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/>
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