「無価値な情報」を、いかに後世に残すか? ファミコンの攻略本1000冊が大集合の「ファミコン攻略本ミュージアム1000」編著者・松原圭吾インタビュー

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2015年12月16日 21:11  おたぽる

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おたぽる

「ファミコン攻略本ミュージアム1000」(マイクロマガジン社)

 1983年に任天堂より発売され、瞬く間に日本──いや、世界中の娯楽スタイルを塗り替えてしまった伝説的テレビゲーム機・ファミコン。その対応ゲームソフトの攻略本、およびファンブック1032冊を網羅した驚異の書評本が「ファミコン攻略本ミュージアム1000」(マイクロマガジン社)だ!
 編著者・松原圭吾氏は、本書に収録されている攻略本をほぼすべて所蔵しているというから、これまた驚き。まさにコレクター人生の集大成ともいえる本書を完成させた彼だが、目指すその先はまだまだはるか遠くにあった──!



■失われる「無価値な情報」を集めたかった
──なぜ攻略本を集めようと思ったのでしょうか。
松原 もともとテレビゲームが好きで、関連グッズのひとつとして攻略本を古書店で買い集めていました。当時は今みたいに高額な攻略本がなかったし価値を見出す人もいなかったので、古書店に行くと基本的に100円で売られていたんです。そのうち高校生くらいから「まあ、100円なら」って集めるようになったんです。お金のない当時としては、ゲームを集めるよりも攻略本を集める方が楽だったんですね。
 そのうちにカバーの裏とかに書いてある既刊を見て、「これはどんな攻略本なんだろう」って探し始めたんですが、ゲームの攻略本ってそうそう再版するものじゃなくて、半年後にはもう絶版みたいなノリなんですよ。例えば「ケイブンシャの大百科」(勁文社)シリーズなんてリストそのものから消されてしまったり。そうするといきなり30巻くらい既刊がすっ飛んでいるので、その空白のナンバーを求めて古本屋を巡るようになりました。それが90年代の初頭くらいですね。



──ゲームの攻略本集め自体がゲームみたいな感じですね(笑)。そこから松原さんのコレクター人生が始まったと。
松原 そうですね。ずっと趣味としてやってます。ただ実は00年くらいに一度収集をやめているんですよ。なぜかというとは立命館大学が「ゲームアーカイブプロジェクト」というゲーム、および関連資料のデータベースを作るというプロジェクトを始めたことで、「じゃあ、自分が集めなくてもいいかな」と思ったんです。ただ、プロジェクトは10年くらい活動をして、その成果が任天堂のファミコンソフトのデータベース作成だけ。しかも自分で買い集めたりしたものではなく、任天堂から受け取った資料をもとにデータベース化しただけというのを見て、「ここに任せていたらだめだ」と思い、10年ごろに収集を再開しました。



──「自分がデータベースを作らなきゃ」という使命感を覚えたんですか?
松原 いや、自分ひとりでやらなきゃという気持ちはないですね。単純に「他の人が持ってないから」、「古本が安いなら買おう」という気持ちです。高額のプレミアアイテムにはあんまり興味がないんです。市場価格が高いということは、それなりの価値があるというわけで、きっとマニアが大切に持っているだろうという安心感があるからです。



──この世から値段もつけられないような知識が失われるのが、もったいないという感覚ですか?
松原 そうですね。特に攻略本なんて私以外に集めている人がいたら、とっくにやめてました。自分自身の知的好奇心からくる部分もあったんですが、「ゲームソフトはコレクターがいるから自分はいいや」って早々に攻略本にターゲットを絞ることができたのも、結果的によかったと思います。



■おススメのファミコン攻略本
──そんな思いで集められた攻略本ですが、全部で何冊ほど持っているんでしょうか?
松原 攻略本の定義というのが難しくて、例えば書店の「ゲーム関連」の棚には攻略本以外にもレビュー本とかゲームの思い出について語っている本とかもあって、一般的にはそこも攻略本の仲間に入れられていると思うんですよね。雑誌やマンガ、小説は除いた、そういった本ですと家に1万5,000冊はあります。その中から設定資料集とか純粋な攻略本だけに絞ると、1万3,500冊くらいかな。ここ5年ぐらいの攻略本はまだ集められていないのですが、それ以前のものは95%程度うちにあります。



──そのうち、今回の「ファミコン攻略本ミュージアム1000」に収録されている攻略本は何冊程度でしょうか?
松原 計1,032冊紹介しているんですが、そのうち自分の持っているのは1,008冊。全部、現物を持っています。



──紹介自体は表紙とレビューのみですが、それでも読んでいるといろんな発見がありますよね。「こんなにスーパーマリオの攻略本が出ていたんだ」とか。
松原 こんなにひどい本も出ていたんだとかね(笑)。



──その中から、松原さんが特にチェックしておきたい、という攻略本を教えてください。
松原 古いものから行くと、まずは勁文社の「つくり面大百科」です。これは『ロードランナー』『マッハライダー』『バトルシティ』など、エディットモードのあるゲームを紹介している本です。どういうステージを作るかという情報と、ゲームの解き方のテクニックが載っています。



──ステージエディットのあるゲームというと、最近は『スーパーマリオメーカー』が話題を呼びましたね。
松原 ゲームのエディット文化は『マリオメーカー』に受け継がれました。私もゲームのエンジンを使って自由に遊ぶのは、大好きです。この文化が一度は廃れてしまったのはRPGが流行ってからだと思います。RPGは2人で遊べないし、時間もかかりますからね。それが「ニコニコ動画」などで再びエディット文化が脚光を浴びるようになったのは、コメントが流れることによって疑似的に多くの人と1ヵ所でワイワイやっている感覚があるからでしょうね。初期のファミコンソフト、特に任天堂ソフトには2人同時プレーのゲームが多かったのも、みんなで遊ぶことを重視していたからだと思います。



──そして次はアスキー(現・エンターブレイン)の「ディープダンジョンIVのすべてがわかる本」。
松原 この本は言葉で説明しづらいんですが、アイテム表や魔法表などのリストに合番が振ってあるんです。その番号は、ゲーム本編の攻略ページのアイテム出現場所や敵の使う魔法なんかと連動していて、攻略ページを見てて詳細を知りたければリストを見てくれ、という作りになっている。もしこれがハイパーリンクになっていれば、便利だったでしょうね。制作側のデータは表計算ソフトのエクセルみたいなものになっていたのだと思います。他にこんな攻略本なんてありません。90年発売ということを考えると、かなり時代を先どっていると思います。



──「ファイアーエムブレムタクティクス」(新紀元社)はいかがでしょうか?
松原 ソフトの発売からほぼ一年後に発売された一冊です。そんな時期に攻略本を出すというのがまず挑戦的だし、それでも需要があったというところに注目です。当時のゲームがいかにゆっくり遊ばれていて、1年経ってもまだ売れるタイトルがあったということがわかります。中を見てみると、どの段階でどこにキャラクターを配置していけばいいのか、というレベルまで言及されているので、初心者はこの本さえ見ればどうにかクリアできるようになっています。かなり丁寧な一冊です。
 ここまでしっかりと作りこんじゃうと、ゲームプレーの実況に近いのかな。本の通りにプレーすると、リプレイに近くなりますからね。そういう意味では、ゲームを楽しめずに挫折した人のための本というニュアンスもあります。『ファイアーエムブレム』は実際に難しかったですからね。この本みたいに、読んだらもう一度ゲームをプレーしたくなる本は好きですね。



──そして最後はJICC出版局(現・宝島社)「女神転生IIのすべて」ですね。
松原 これは知人のゲームライター・成沢大輔さんの本だからひいき目に見ちゃう部分がありますが、ゲーム制作側のスタッフではない成沢さんが、ゲームの世界観をすごく大切にしたガイドブックを作ったという意義はすごく大きいと思います。ゲーム内にはグラフィックと数値データ以外にゲーム中に登場する天使や悪魔の情報はないのですが、この本では様々な専門書から元ネタを集めて設定を作りこんでいます。この本によってファンのレベルが上がっただろうし、もしかしたらこの後のゲーム開発にも影響を与えていた部分があるんじゃないでしょうか。また、ゲームの外から情報を持ってくる、というガイドブックものの作りは以降の攻略本にも大きな影響を与えていると思います。



■変わりゆく書籍流通の中で、サブカル書はどう売るべきか
──「ファミコン攻略本ミュージアム1000」読者の反響はいかがですか?
松原 批判的な感想を目にしないんですよね。「もっと大きな写真で見たかった」とか「もっと多くの文章を読みたかった」というような意見は見るんですが、そういう意見は本の内容に賛同してくれたというか、本自体が本当に良かったからこそ言ってくれる意見だと思っています。まあ「中身を見たい」という意見に対しては確かにそうだと思うんですが、中身を見せるとなると、当時のメーカーや出版社の確認をすべてとる必要があるので、それはちょっと現実的ではない。今できる限りのことをやったというところです。



──実際に売れ行きも好調で、すぐに重版がかかったそうですね。
松原 本当にありがたいと思います。ただ厳密な数字は言えないのですが、ネットで売れたのが7割程度、で書店で売れたのが3割くらいだそうです。さらに言うと、書店に並んだのはほとんど首都圏で、地方はほとんどいきわたってないんじゃないかと思います。



──地方の人はネットで情報を得て、なおかつ通販で買わざるを得なかったと。ファミコンは今の30〜40代を中心に数多くの人が触れたエンターテインメントなので、その攻略本にも何かしらのノスタルジーを憶える人は多いはずですよね。そういった人たちにきちんと届いていれば、もっと読者層が広がっていた可能性があります。
松原 そうですね。リアル書店に1冊ずつでもおいてもらえれば、それだけで数千冊は売れ行きが変わっていた可能性もあります。もしくはコンビニ流通という特殊な流通もあって、コンビニに置かれるだけで2万部は多く刷れるということがあるわけです。たとえ一瞬だとしても2万部が日本中の人々の目につくところに置かれるというのがいいですよね。
 あと、これは本を買ってくれた人に聞いた話なんですが、書店に取り寄せをお願いすると3週間かかると言われたそうです。それで諦めてamazonで買ったという人がいたそうです。書店にこの本が欲しいと言っても3週間かかる。しかも入るかどうかわからないとなると、私も諦めてamazonで買いますよ。指名買いだとamazonの方がいいです。



 では書店の存在価値って何だろう、と考えると、色々な本が並んでてたまたま目に入って興味を持った本を買うという「出会い」なんですが、今は書店がどんどん潰れていっている。これは怖いなと思いますね。
可能ならば私の本も書店に置いてほしかったです。書店に置かれていると、それまで知らなかった人も何となく中を見て買ってくれる可能性があるじゃないですか。でもamazonだとその可能性すらもないんです。本を開いてみる ということがまずなくて、自分の本が上位に表示される確率もすごく低いわけです。amazonだと自分で検索して買う、以外の手段がないんですよね。
 とはいえ内容にはとっても自信がありますし、今更ファミコンの攻略本を扱っている本だから、いつ買っても大丈夫な本になっています。ロングセラーになればいいなと思います。



■正しい情報をどう後世に残すか
──まだまだ所蔵されている攻略本があるわけですが、今後はどんなことをしていきたいですか?
松原 ファミコン以外の本もまだまだあるので、続きの本も書きたいんですが、どういう形で発表しようかというのは多少悩んでいます。例えば電子書籍には非常に魅力を感じている部分と限界を感じている部分があって、さっきの「ディープダンジョンIVのすべて〜」のような内容ならばハイパーリンク的に情報を表示できる電子書籍の形がいいなと思うんですが、まだそういうフォーマットは少ないようですから。
 それと、せっかく攻略本をここまで集めたので、他の人も見られる状況にしたいですね。攻略本の図書館、もしくは博物館を作りたいんですが、図書館だと扱いの悪い人に本をボロボロにされちゃう可能性があるし、博物館だと手に取って調べられないということでどっちも微妙だなという印象です。



 とはいえ私は本をきれいに並べることが好きというわけでもなく、そこにあるという認識だけでも構わない。ただ、何か調べてほしいと言われた時にすぐに情報を取り出せる検索性は持っていたいと思っています。
 あとは本自体を持っていることにも多少疑問を持っていて、国が攻略本をアーカイブ化、電子書籍化するというのであればぜひとも協力したいですね。みんなが正しい情報を見られることの方が重要だと思います。



取材・文/有田シュン(シティコネクション)



■「ファミコン攻略本ミュージアム1000」
単行本: 160ページ
出版社: マイクロマガジン社 (2015/10/2)
ISBN-10: 4896375211 ISBN-13: 978-4896375213
価格:1,620円(税込み)


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