Suchmosは音楽のバトンをどう繋ぐ? 好セールス作『THE KIDS』がシーンに残すもの

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2017年02月13日 19:03  リアルサウンド

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Suchmos『THE KIDS』

 1月25日に2ndアルバム『THE KIDS』をリリースし、発売週のアルバム売上ランキングで2位(参考:http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2017-02-06/)という好セールスを記録したSuchmos。いくつもの音楽誌、カルチャー誌で表紙を飾り、代表曲「STAY TUNE」はホンダ「VEZEL」のテレビCMにも抜擢。3月より開催する全国ツアー『TOUR THE KIDS』全公演のチケットが即日ソールドアウトにつき、東京・新木場STUDIO COASTで2日間にわたる追加公演が行われる。2013年1月の結成からわずか4年、彼らがここまで受け入れられたのはなぜだろうか。本稿では、彼らの精神性の面からそれを紐解いていく。


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 洗練されたサウンドばかりが話題に上り見逃されがちであるが、Suchmosの思想の根底にあるのは泥臭い「反骨精神」だ。それは歌詞に強く表れており、『THE KIDS』収録曲「TABACCO」での<慢心してんじゃない? グルーピーはもう居ない>や、「STAY TUNE」における<頭だけ良いやつ もう Good night 広くて浅いやつ もう Good night>などはその象徴的なラインだ。彼らを突き動かすのはあらゆるものに対しての怒り・憤りであり、それが楽曲に昇華されている。


 これには、彼らが神奈川に基盤を置くバンドであることも関係している。メンバーの多くが住む横浜も、ボーカルのYONCEが住む茅ヶ崎も独自の音楽文化を擁する地域であり、レゲエ、ダブなどが盛んな茅ヶ崎で育ったYONCEは、そのレベルミュージック的な精神性を少なからず吸収してきたのだろう。何にも媚びず、既成の価値観に中指を立て続ける姿勢は、同世代のリスナーとも音楽を通じて共感し合えるポイントであると言える。


 音楽面でも精神面でも、Suchmosのロック要素を担っているのはYONCEである。彼の音楽的ルーツはNirvanaやOasis、The Beatles、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、BLANKEY JET CITYなどといったロックバンドであり、これはブラックミュージックをルーツとする他のメンバーとは異なる点である。「おれはもともとロックが好きで、リアムやノエルのようにジャージを着るし、カートコバーンのようにボロボロのデニムを履く」(参考:http://www.cinra.net/interview/201507-suchmos)と、偉大なフロントマンであったギャラガー兄弟、カート・コバーンへのリスペクトも口にしており、彼らの影響の下、YONCEのフロントマンとしての美学は形成されたのだろう。「ボーカルって、歌ってないときもかっこよくないとダメなんですよ」「ボーカルがスターじゃない音楽は全般的に好きじゃない」(参考:同上)とはYONCEの発言である。そんな彼によって、Suchmosのマインドは形作られており、そういった意味で、Suchmosはロックバンドなのだ。


 また、彼らが音楽シーンだけに留まらず、ドライブインシアターの開催、Levi’s(R)とのコラボ、BEAMS『TOKYO CULTURE STORY』への出演など、様々なカルチャーとの接点を持っていることも見逃せない。彼らが表紙を飾った『SWITCH』では「2017年のユースカルチャーの旗手」としてSuchmosが取り上げられ、メンバーのインタビューとともに彼らを支えるクリエイターたちに焦点が当てられている。彼らがファッションに強いこだわりを持っていたり、MVやロゴ、ジャケットなどのビジュアル面においても、メンバーと感覚を共有できるアーティストが手掛けていることから窺えるように、彼らはあくまでも音楽をカルチャーの一つとして捉えており、映像、写真、ファッションなど様々な分野の表現者を巻き込みながら、カルチャー全体を盛り立てようとしている。


 そして、Suchmosがここまで急激に受け入れられたのには、メンバーの余裕を感じさせる佇まいも大きいと思える。特にフロントマンのYONCEは、恵まれたルックスに加え、ステージでの軽やかな振る舞い、飄々とした態度と、すでにカリスマとも呼べるような存在感を示している。前述した『TOKYO CULTURE STORY』において、現在を代表する存在としてYONCEが出演していたことは記憶に新しい。その後の3カ月あまりで、名実ともに時代のアイコンになったと言っても過言ではないだろう。


 そして、早くも彼らが語っているのが、後進ミュージシャンへの意識である。メンバーは自分たちの音楽のルーツに自覚的であり、自らもそこから連なる系譜の上に立つ存在であることを強く意識している。そして自分たちを中継点として次世代に音楽のバトンを繋ごうとしており、『THE KIDS』というアルバム名もその思想とは無関係ではない。かつて渋谷系と呼ばれたバンドが自身のルーツを楽曲に混ぜ込んだように、Suchmosも自身のルーツを楽曲に混ぜ込むが、彼らのそれは同族に対しての目配せではなく、次世代に向けての啓蒙意識の表れだろう(バンド名自体もジャズトランペット奏者ルイ・アームストロングの愛称からの引用)。それをどう受け取るかは、次世代を担うリスナーに委ねられている。


 友人同士で集まって音楽を聴くところから始まったこのバンドは、一躍若手バンドを代表する存在となった。彼らがよく目標として掲げている横浜スタジアムでのワンマンライブもいよいよ現実味を帯び、スタジアムロック然とした「A.G.I.T.」を『THE KIDS』の1曲目に置いたことは、その決意とも取れる。Suchmosはユースカルチャーを率いていく存在として、今後その存在感をますます増していくことだろう。彼らの動きに触発されてまた別のところで新たな動きが生まれる、そんな連鎖の引き金に、Suchmosはなろうとしているのだ。(文=渡邊魁)


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