「象に踏まれる痛み」にも気づかない恐怖──人間を“鈍感”にする戦慄の病とは?【Dr.山村の診察余録】

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2019年07月01日 16:00  citrus

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「先生、なんとなく調子が悪いんです…」


糖尿病患者の花崎さん(仮名、66歳)が苦しそうにつぶやきます。今朝からなんとなく調子が悪く、肩が凝っているような、胃もたれしているような感じで目覚めたとのこと。ナースも「いつもの花崎さんと違って元気がないんですよねぇ」と心配そう。


嫌な予感がした私は、急いでナースに採血と心電図、レントゲンをオーダーします。毎日たくさんの患者さんを診ていると、「これはアブナイ…」という危険なニオイを嗅ぎ分けられるようになってきます。ナースには結果を至急知らせるよう言付けます。


「先生大変です! 心筋梗塞かもしれません!」


ナースが息を切らしながら持ってきた心電図は、教科書に出てくるような典型的な心筋梗塞の波形。嫌な予感は的中しました。本人に訊くと、胸は痛くない、でもなんだかツラい……と。急いで循環器内科の先生に連絡し、緊急カテーテル手術となりました。

 

 

■心筋梗塞すら気づかない鈍感さ


糖尿病を患っていると心筋梗塞のリスクが増大します。加えて、糖尿病の合併症のため神経の反応が鈍くなり、痛みを感じにくくなります。花崎さんは40代からの糖尿病で、ここ数年はつま先の痺れや、感覚の鈍さなど神経障害の症状に悩まされつつありました。退職後にはじめた家庭菜園で「足がよくつる」と言っていたのも、よくある神経障害の症状です。


通常、心筋梗塞は強い痛みを伴います。「象に胸を踏まれたような」痛みと表現されるほどです。しかし糖尿病による神経障害をかかえた花崎さんは痛みに鈍感になってしまったあまり、心筋梗塞のような超デンジャラスな疾患にすら気づきにくくなっていたのです。幸い、発症から間もないタイミングでの受診だったので、一命を取り留めることができました。


糖尿病と診断されても多くの人は、自覚症状がありません。しかし高い血糖値はいつのまにか血管や神経を傷つけ、あるとき突然、命に直結する病気の引き金を引くこととなります。そうならないためにも、定期的に健康診断を受診し、血糖値が高いと言われたら早めの受診を強くおすすめします。


その後、花崎さんは無事退院。引き続き糖尿病を治療しつつ、家庭菜園を愉しんでいます。

 

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  • 象に踏まれて、痛がるのは象だったりする。治る見込みのない病気では、鈍感であることは最上の救い。
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