「仮装身分捜査」は、捜査員が偽の身分証で闇バイトに応募し、強盗の実行役検挙や事件の発生抑止を狙う新たな捜査手法だ。ただ、犯罪グループは秘匿性が高い通信手段を使っており、導入が指示役の特定に直結するとは限らない。識者からは「根本的な解決にはつながらない」との声も上がる。
警察庁は2010〜12年に行われた研究会で仮装身分捜査の効果を調査。その後も検討を続けてきたが、実施には身分証の偽造が伴い、導入は見送られてきた。
そんな中、首都圏では今年8月以降、闇バイトによる強盗事件が深刻化。警察官であることを秘して闇バイトに応募する「雇われたふり作戦」を行うにも、多くの場合、指示役は応募者に身分証の画像送信を求める。このため、仮装身分捜査の必要性が高まった。
仮装身分捜査では、架空の人物の顔写真や名前などを記した運転免許証を用意し、闇バイトに応募。指示役から集合場所を聞き出し、実際の被害が発生する前に、集まった実行役を強盗予備罪などで検挙したり職務質問したりすることを想定している。
ただ、指示役の検挙には高い壁がある。指示役が応募者とのやりとりに使う通信アプリ「シグナル」は解析が難しく、ある捜査幹部は「指示役につながるチャンスは増えるが、特定に直結できる手法ではない」と明かす。
警察庁は仮想身分捜査の対象を闇バイトが絡む事件に限り、運用方法に関するガイドラインを定める。だが、甲南大の園田寿名誉教授(刑事法)は、ガイドラインの修正で適用範囲は簡単に変更できるとし、「特別法を作って対象を限定するべきだ」と話す。
園田名誉教授は、警察官と悟られた場合に安全をどう確保するかなどの課題を挙げ、「一定程度の抑止力はあると思うが(犯罪グループを)一網打尽にするのが難しい中、リスクの高い捜査手法を取る必要があるのか」と疑問視した。