愛媛県伊方町にある四国電力伊方原発3号機の安全性に問題があるとして、広島・長崎両県の被爆者を含む337人が運転の差し止めを求めた訴訟の判決で、広島地裁は5日、請求を棄却した。大浜寿美裁判長は「住民の生命、身体を侵害する具体的危険性があるとはいえない」と判断した。
伊方3号機は愛媛県西部の佐田岬半島の付け根にあり、1994年から稼働している。訴訟の審理は9年に及び、住民側は地震や火山などの対策で不備があると主張。判決は国の原子力規制委員会による3号機の審査を追認する形で、安全対策の妥当性を認めた。
判決はまず、2011年の東京電力福島第1原発事故を受けてできた原発の新規制基準について「科学的、専門技術的で合理的だ」と指摘。基準に適合していると規制委が判断した場合には「社会的に許容される程度の安全性が確保されていることが推認される」との考えを示した。
続けて、佐田岬半島の北側に走る断層帯「中央構造線」による地震リスクを検討した。四電が13年に実施した音波探査から活断層とは認められず、原発の耐震性の目安となる基準地震動についても四電が設定した650ガル(ガルは加速度の単位)は妥当だと判断した。
原発から約130キロ離れた阿蘇山(熊本県)など九州地方にある火山の危険性に関しては「大規模な火山活動が近い将来に発生する状況ではない」と述べ、火山灰など降下物の想定も問題はないとした。
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そのうえで、住民側が主張した安全対策の不備について「四電が過小評価していることはなく、規制委の審査判断が合理性を欠くとはいえない」と結論付けた。
住民側は控訴する方針。四電は「安全性が確保されているとの主張が認められた。安全対策に不断の努力を重ねる」とのコメントを発表した。
伊方3号機を巡っては、広島高裁が17年と20年に運転差し止めを認める仮処分決定を出したが、いずれも四電が申し立てた異議審で取り消されている。24年3月の大分地裁判決も差し止めを認めなかった。今月18日には松山地裁で判決が言い渡される。【井村陸】
判決に住民「次の世代のためにも」
「訴え届かず」。判決言い渡し後、運転差し止めを求めた住民らが垂れ幕を掲げると、周囲からはため息が漏れた。
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その後の集会で、原告団長で被爆者の堀江壮さん(84)は「南海トラフ地震が起きる可能性が高い中で、非常に無責任な判決だ。ここで諦めるわけにはいかないので、次の世代のためにも頑張っていきたい」と語った。
住民側代理人の胡田(えびすだ)敢(かん)弁護士は判決について「原告側が提起した問題に全く答えていない」と批判。「簡単に勝てるはずがないが、脱原発の声を上げて最後まで闘いたい」と話した。【中村清雅】
四国電力伊方原発
四国電力が唯一、愛媛県伊方町に持つ原子力発電所。佐田岬半島の付け根に立地する。3号機(出力89万キロワット)は1994年に運転開始。2010年からはウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル発電を実施している。1、2号機は運転を終了し、廃炉作業が進められている。
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