あなたやチームのメンバーは、チーム外の他者と関わることはどれくらいあるでしょうか。USJでは、初対面同士の6人で昼食を取る取り組みが、「横のつながり」をつくり、組織の潤滑油になっているといいます。USJのV字回復期を支える人材育成を担った梅原千草氏が執筆した『最高の自走型チームの作り方』より、USJが実践するUni-Gohanの取り組みを紹介し、リーダーがとるべきコミュニケーションへの姿勢について解説します。
【USJが実践 業務時間内に他部署とコミュニケーションする、ユニークな取り組み】
薫陶(くんとう)とは、他者からのアドバイスや意見をもらうことで気付きを得るものです。あなたには、薫陶をくれる人はいますか?
役職がつくと、どうしても他者との間に壁ができます。私はUSJ時代も今も、部門長や経営者のサポートをすることが多くあります。そのときに感じるのは、リーダーは孤独であるということです。同じ目線で話せる相手、自分に駄目出しをしてくれる相手はなかなかいません。
そこで、経営者同士のコミュニティーを使ったり、私のようなコンサルを相手にしたり、コーチングを受ける機会を設けたりと、裸の王様にならないよう取り組まれている方が多い印象です。
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これがないと誰からも指摘やアドバイスを受けないまま、自分の考えだけで進めてしまうワンマン経営者が生まれます。
●USJ人事部で「ひとりぼっち」の女性管理職が実施した、他者と関わる工夫
女性活躍推進支援の仕事をしていると、女性管理職の先輩も同僚も少ないなかで、相談できる相手がおらず、1人で抱えて頑張っている方と多く出会います。そういう方を集めたマネジメント研修をすると、日々の悩みが怒涛のように出てきて、短時間で参加者同士に相互理解が生まれ、アドバイスし合う関係性が作られる光景を目にしてきました。
また、若くしてリーダーに抜てきされた人や、中途採用で管理職として入社した人が1人で頑張ってしまう状況も多く生まれているのではないでしょうか。
上司や部下、同僚、他部門のリーダー、取引先など仕事で出会う方や、家族、友人、趣味仲間といったプライベートで関わる方など、薫陶をくれる方がいれば、悩んでいるときや、答えが見えないとき、孤独を感じたときなどに、助けてくれます。1人で考えて答えを出すことも必要ですが、他者との関わりの中で他者に頼ることも1つの手段です。
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ぜひ、周囲との関わりを持ち、コミュニケーションを通じて、他者からの力を借りてください。
友達や仲間を作りましょう、と言っているわけではありません。他者と関わる機会を持つことによって、その対話の中で気付きが増えることが大事なのです。
社外研修などで出会う1回だけの交流だったとしても、チームにいる苦手な人であったとしても、自分とは違う価値観や経験を持っている分、全く違う視点からのアドバイスが得られるかもしれません。
なかなかそういう相手がいない場合は、自分から動いて接点を設けてみませんか。
例えば、私は他社の人事とのちょっとした接点を意識して設けるようにしていました。新卒採用市場には多くの企業が集う合同企業説明会というイベントがあります。企業ごとにブースが立ち並び、各ブースで学生に企業説明を行うものです。
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私がUSJ採用担当として参加していたときは、隣近所のブースへごあいさつに行き、少し話をするようにしていました。声が大きかったり、学生数が多くて迷惑が掛かったりするかもしれないため、少しでもいい関係を作っておくことが目的ではありましたが、名刺交換をして少し会話をするだけでも、同じ採用担当としての課題の共有ができたり、解決のヒントを得られたりできました。
あるときは、そこで情報交換をしたことで、一緒に採用イベントをする企画が持ち上がり、実施することができました。
また、私はUSJ人事部で、女性管理職が私だけだったときに、どうしても周囲に弱音を吐いたり相談したりすることができず、1人で考えてしまうことがありました。
そこで、月に1〜2回、人事部以外で話を聴いてみたい方を自分から誘って、お昼ご飯を食べながらお話しする機会を作っていました。
取締役や部門責任者、新入社員、取引先の方もいました。プライベートでは声をかける勇気はありませんが、仕事内の時間であるランチを有効活用することで、私も誘いやすく相手も気軽に応じてくれました。たった1時間でも、視野が広がる、内省できる、勇気をもらえる時間になり、当時の私には、貴重な気付きを得られる場となっていました。
さまざまな場面で、少しでも他者との関わりを作ることで、薫陶を得られる機会になります。
リーダーに多様な角度から薫陶をくれる人がいれば、仕事やチームにいい影響を与えてくれます。
●USJが実践 ランチを活用したユニークな取り組みとは?
チームメンバーにも、多様な人との関わりの機会を作り出してあげてください。
リーダーからの薫陶ももちろん大事ですが、違う角度からもらえる薫陶も大事です。
ただ、自然発生的に人とのつながりを作るのは難しい時代です。コロナ禍では、入社時の研修もなく、同期のつながりがない方もいました。現在でもリモート勤務で、顔を合わせる機会がなく、チーム以外に誰がいるかも分からない人もいます。
部門を超えた先輩後輩のつながりがなくなったため、メンター制度を取り入れて、仕組みとして先輩後輩の関係を作る企業が増えてきています。
私はランチの時間を使って個人的に話を聴いてみたい人を誘っていたとお伝えしましたが、ユニバーサル・アカデミー(USJの社内教育機関)の中でも、ランチ時間を使ってつながりを作るUni-Gohanという取り組みがありました。
これは、組織を活性化させるために有志を募り、プロジェクトチームを作った際に、1つのチームから提案として出てきたものです。
まずはチームメンバー6人でランチをします。その後、メンバー6人それぞれが、次に参加してほしい1人に声をかけます。声をかけられた参加者6人が集まり、2回目が行われます。2回目の参加者が、次の参加者に声をかけていく……を繰り返します。
参加した1人が次の1人を選ぶので、毎回誰が集まるか分かりません。よって、初めましての人たちが集まり、お昼ご飯を食べます。毎回プロジェクトメンバーから1人がファシリテーターとして参加し、フォローをしていましたが、基本は自由にご飯を食べながら話すだけです。
ちなみに、毎回記念写真を撮ってアルバムを作り、それをバトンと見立てて、クルー食堂内のUni-Gohanをする場所に目印として置き、そこに集まります。これまで参加した人たちの記録を見ることができれば、職場に戻ったときに、以前参加した人とUni-Gohanの話題でコミュニケーションが生まれるのではないかという期待を込めた工夫でした。
こうして、初めましてを繰り返し、人とのつながりを作っていったのです。
当時は、V字回復で組織が変化し、社員の数も増えていく中で、横のつながりを強化することが必要でした。部門ごとの縦割りのコミュニケーションを改善し、情報伝達や連携、協働を生むことを目指していた取り組みです。
このUni-Gohanという機会を通じて顔見知りになり、その後仕事で関わる際にやりとりがしやすくなった、他部門に相談できる人ができたなどの声もあがりました。草の根運動ではありましたが、少しずつ他者、他部門への興味が広がっていくのを感じました。
●メンバーと他者との関わりが、チームを成長させる
リーダーは、本人の意思に任せるのではなく、メンバーにさまざまな人と接点を持つ機会を作れないかを考えてみてください。
Uni-Gohanのような仕組みがなくても、他チームとのお昼ご飯の機会を作り誘ってみることはできます。他にも、他部門との会議に連れていく、知り合いと廊下で会って話すときにメンバーを紹介する、他者合同の研修に参加してもらうなどは、できるのではないでしょうか。勤務時間外で何かをするのではなく、勤務時間内でのちょっとした工夫から始めてみるのが、リーダーにとってもメンバーにとっても負担が少なく、取り組みやすいと思います。
もちろんつながりを強制するわけではないため、その機会を生かすかどうかは本人の意思によりますが、きっかけにはなります。
リーダーからメンバーへの薫陶、メンバー同士の薫陶、そしてさまざまな人からメンバーへの薫陶があれば、視野が広がり、コミュニケーションの機会も増え、経験も増えていきます。リーダーの代わりに、指摘やアドバイスをくれる人がいれば、メンバーは必要に応じて、さまざまな人の力を借りながら成長できます。人との関わりが自分にとって有効だと感じられれば、自らコミュニケーションを取るようになり、自走します。
リーダー1人でメンバーを育て、チームを作るのではなく、多くの人からの協力を得て、取り組むことが有効なのです。
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