
ヒロド歩美さんインタビュー 前編(全2回)
今年2月にアメリカ・アリゾナ州で行なわれたロサンゼルス・ドジャースの春季キャンプ。フリーアナウンサーのヒロド歩美さんは、大谷翔平選手をはじめ、佐々木朗希投手、山本由伸投手ら日本人メジャーリーガーを現地取材した。
ドジャースのキャンプ地で目の当たりにした光景、日本人選手への海外からの評価、そして3月に東京ドームで行なわれたシカゴ・カブス対ドジャースの開幕戦取材などについて語ってもらった。
【ルーキー佐々木朗希への"えげつない"注目】
ヒロド歩美 アリゾナでの取材中、まず驚いたのが佐々木朗希投手への注目度の高さです。まだメジャーリーグでは実績のないルーキーにもかかわらず、チーム内での期待がものすごいと感じたシーンがありました。
佐々木投手が初めてライブBP(実戦形式の練習)を行なう際に、別のグラウンドで練習していたムーキー・ベッツ選手やフレディ・フリーマン選手が、わざわざ自分の練習を中断して"観戦"しに来たんです。
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結局、バックネット裏のフェンスには、大谷翔平選手や山本由伸投手はもちろん、主力選手やコーチ、監督という球団関係者50人ほどが集まり、人で埋め尽くされている状態に。一緒に取材にしていた松坂大輔さんも「なかなかない光景」と驚いていたほど、えげつない光景でした。
まだメジャーで1球も投げていない選手に、これほどの注目が集まるのは大谷選手、さらにはイチローさん、松井秀喜さん、松坂大輔さんといった先人たちが築き上げてきた実績や功績のおかげなのだろうなと感じました。
同時に、これだけの注目を浴びる佐々木投手のプレッシャーも相当なもののはず。開幕後の佐々木投手の活躍を、そういった気持ちの面も踏まえながら見守っています。
【韓国メディアも驚く大谷翔平の世界的影響力】
大谷選手も、囲み取材のスペースから人があふれるほど、現地での熱気もすごかったです。ブルペンでの投球練習の際には、マイナー契約の選手も大谷選手を見に来るほどでした。"ピッチャー・オオタニ"に対する興味や期待の大きさもあらためて感じました。
私が取材に行っていた時、ドジャースに新加入したキム・ヘソン選手の取材のため、韓国メディアも現地入りしていました。そこで、なぜか私が韓国メディアから取材を受けることになり、大谷選手の日本での人気や注目度についてお話させていただくことに。
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大谷選手は韓国でも大人気で、昨シーズン「50-50」(50本塁打・50盗塁)を達成した時は、初めて韓国人以外の人がトップニュースになったそうです。大谷選手は、スポーツという枠を超えた、まさに世界的な存在になっているのだと実感しました。
現地のリトルリーグの球場に行った時も、背番号「17」をつけた子どもたちをたくさん見かけました。子どもたちに聞くと、自分の好きな背番号を自由に選べるそうで、みんな大谷選手が好きで17番をつけていると言っていて、本当にかわいかったです(笑)。
【MLB開幕戦・東京シリーズは大興奮の2日間】
キャンプ取材から帰国後、3月18、19日に東京ドームで行なわれたMLB開幕戦、カブス対ドジャースの2連戦も取材しました。とくに印象的だったのは、開幕戦の独特の雰囲気。満員の東京ドームでしたが、試合開始直前は異様な静けさに包まれていました。
クレイトン・カーショウ投手が「息をするのもつらかった」とコメントしていましたが、本当に張り詰めた緊張感がありました。そんななかで、カブスの今永昇太投手が歴史的な開幕戦の第1球、さらには今シーズンのメジャーリーグの第1球を投げた瞬間は、鳥肌が立ちました。
大谷選手の打席では、ビールの売り子さんが動画を撮る観客の邪魔にならないように一旦販売を中断するという光景も見られました。観客全員が大谷選手の打席に注目し、その一挙手一投足を目に焼きつけようとする。あの雰囲気は本当にすごかったです。
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【"俺にもできるかも"で広がるメジャー挑戦】
大谷選手らの活躍は、ほかの日本人選手にも大きな影響を与えているように感じます。昨年の取材で、岩手県出身の菊池雄星投手(ロサンゼルス・エンゼルス)は、「大事なことは"俺もできるかも"と思うこと。岩手で大谷翔平選手や佐々木朗希選手、佐々木麟太郎選手など、どんどんいい連鎖が出てきているのは、"あの人ができるなら俺もできる"というマインドになるから。岩手に特別な魔法はないです」と語っていました。
身近な選手が活躍することで、子どもたちに夢と希望を与え、野球人口の増加にもつながるといいなと思っています。
近年は、高校卒業後にアメリカの大学へ野球留学する選手や、直接メジャー球団に挑戦する有望選手が増えていますよね。森井翔太郎選手は、桐朋高卒業後、オークランド・アスレチックスとマイナー契約しました。
森井選手は、「すぐにメジャー昇格を目指すというよりは、まずは大学に行ったつもりで3、4年は環境に慣れ、英語や文化、食事になじんでいきたい」と、冷静に自身のキャリアを見つめていました。焦らず一歩ずつ着実に力をつけていく、そんな彼の姿勢に心を打たれました。
また、西田陸浮選手は、東北高卒業後にアメリカに渡り、経営学を学ぶために専門学校、そして4年制大学へと進学。大学で野球を続け、シカゴ・ホワイトソックス傘下のマイナー契約を勝ち獲った異色の経歴の持ち主です。
西田選手は、日本からアメリカに留学する学生をサポートする会社も経営していて、まさに「二刀流」。チームメイトからも愛される明るい性格で、すでにチームに溶け込んでいるとのこと。GMも、「メジャー昇格も近い」と太鼓判を押していました。
【MLBで活躍する日本人スタッフも】
さらに、サンフランシスコ・ジャイアンツには、植松泰良さんがクオリティ・コントロール・コーチとして活躍しています。学生時代にインターンとして球団に携わり、努力を重ねて今のポジションをつかみました。
上松さんは「自分みたいにプロ経験がなくても、こういうかたちでメジャーリーグに関わることができる。もっと日本人スタッフが増えてほしい」と話していました。日本人スタッフは勤勉で真面目という評価を受けているそうで、上松さんもその期待に応えてきたからこそ、今があるのだと思います。
さまざまなルートでメジャーリーグに挑戦する日本人選手やスタッフが増えているのは、本当にすばらしいことだと思います。私自身、アメリカへ行って、日本人としての誇りやうれしさを感じました。
つづく>>
<プロフィール>
ヒロド歩美 ひろど・あゆみ/1991年10月25日生まれ。兵庫県宝塚市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、2014年に朝日放送テレビ(ABCテレビ)入社。2016年に『熱闘甲子園』のキャスターに就任。その後は『サンデーLIVE!!』『芸能界常識チェック!〜トリニクって何の肉!?〜』『芸能人格付けチェック』などに出演。2023年からフリーとなり、現在まで『報道ステーション』のスポーツキャスターを務めている。