
【写真】佐倉綾音、自然体の表情からクールな横顔まで…撮りおろしカット満載!
■“ロリ”に宿る現代的ヒロイズム
――『TO BE HERO X』の世界観やストーリーの印象について教えてください。
佐倉:「人々からの信頼値が、そのままヒーローの力になる」という設定がとてもユニークで、斬新だなと感じました。作中では、各キャラクターが主役になるエピソードが用意されていて、そのたびに画面のトーンや演出のスタイルがガラッと変わるんです。ある回では、ひとつの物語の中でさらに表現が切り替わっていくなど、挑戦的で新しいアニメーションのかたちを提示している作品だと思います。
――“信頼値”=“力”という設定は、たしかに新しいですよね。
佐倉:ある意味で今の時代を鋭く映し出しているというか。SNSやインターネットの普及によって、私たちは日々フォロワー数や“いいね”といった数値で、知らず知らずのうちに信頼や評価を測られているような環境に生きていますが、それは常にポジティブなものとは限らなくて。
人の目にさらされているような感覚や、ずっと評価され続けることへのプレッシャーもある。この作品の世界では、そういった信頼が“力”として可視化され、さらには命に関わる問題にまで発展する。そのシステムを良しとする社会そのものが、とてもシビアで、不安定なものとして描かれている点にも、大きな示唆があると感じました。
――そんな世界の中でヒーローとして活躍するロリですが、キャラクターの第一印象は?
佐倉:最初に設定を見たとき、正直「ロリ」という名前にちょっと驚いたんです。今の時代にあえてこの名前をつける意味ってなんだろう……と考えて。少し心配にもなったのですが、彼女というキャラクターを丁寧に読み解いていくうちに、きちんと意図があるんだなと感じました。
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そんな彼女の言葉や在り方は、今まさに言葉にならない“モヤモヤ”を抱えている誰かにとっての代弁となってくれるような気がしています。
――演じるうえで大切にしたポイントは?
佐倉:演じるうえでは、体格と声の関係も意識しました。私は以前から、身体的な特徴が声に影響を与えることがあると思っていて、たとえば、背が低い人には高めの声が多かったり、喉の構造によって響き方が変わったり。そうした“物理的な要素”を参考にしながら、ロリの声をどう作るかを考えました。
一方で、彼女は見た目こそ小柄で可愛らしいけれど、中身はすごく芯が強くて、活発で、相手に真正面からぶつかっていくタイプ。だからこそ、可憐さの中に気迫や力強さがにじむような声にしたいと思いました。中国語の原音もとても綺麗で、鈴の音のような美しい声だったので、その魅力を大切にしながら演じています。
戦闘シーンでは、彼女の華奢な体格をメカニックで補強して戦うのですが、そうしたギャップのある動きがまた魅力的で。顔がヘルメットで隠れてしまっても、表情がモニターに映し出されるなど、演出にも彼女らしい“可愛さ”がしっかり込められているんです。
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■久しぶりでも通じ合える関係こそが信頼
――“信頼”がテーマのひとつとなる本作ですが、佐倉さんにとって“信頼”とは?
佐倉:私にとって“信頼”は、お仕事と密接に結びついているもので、「9割は信頼で成り立っているのでは?」と思うくらいです。社会に出るまでは「実力がすべて」と思っていた節があったのですが、実際に働いてみると、それだけではない現実に直面して。
たとえば、「なぜこの人はお仕事が途切れないんだろう?」と感じるような方も、近くで見てみると、積み重ねてきた信頼の力がちゃんとそこにあったりする。目には見えないけれど、周囲との関係性や人柄から生まれる“説得力”が、たしかに存在しているんです。
私自身も、このお仕事は人と人との関係なしには成り立たないものだと日々感じていて。だからこそ、信頼関係でつまずかないように、自分の実力をしっかりと発揮するためにも、信頼が足を引っ張ることのない状態を保つこと。それをずっと大切にしています。
――その状態を保つために日頃から心がけていることはありますか?
佐倉:少し極端な話をすると、ある意味“お金で買える信頼”というのも、一部にはあると思っていて。たとえば、誰かとの約束に遅刻しそうになったとき、電車だと間に合わないけど、タクシーを使えば時間通りに行ける。でもタクシー代はちょっと高い……。そんなときに、迷わずお金を使えるかどうかって、相手との信頼をどう捉えているかが問われる瞬間だと思うんです。
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――「時は金なり」と言いますが、相手の時間を無駄しないという感覚は大切ですよね。お金は大切なものだけど、信頼のように“かけがえのないもの”ではないというか。
佐倉:そうなんですよね。お金はすごく明確で、みんなが共通の基準で理解できる“絶対的な価値”を持っている。でもその存在があるからこそ、逆に“お金では測れない価値”の重みが際立つ。それはまるで、光と影のような関係というか。
どちらか一方だけでは成り立たない、互いを際立たせるために必要な存在。お金があるからこそ見えてくる、人の思いや、信頼、時間といった“かけがえのないもの”の価値。それがきちんと、この世界にはあるんだなと、しみじみ思います。だからこそ、自分が少し我慢することで目の前の信頼を保てるなら、それはもう迷わず差し出したい。
ただ、お金ではどうにもならない信頼のほうが、ずっと難しいんですよね。私はそこにこそ、本質があると信じているので、その部分に関しては努力を惜しまないようにしています。
一方で、そうした「信頼を大事にしなくては」という気持ちに固執しすぎて、逆に自分が疲れてしまうこともあると思うので、相手との関係の中では、あまり過剰な期待を抱かせないように、最初から自分のスタンスを示しておくことも必要なのかなと思っています。
――20代から30代になり、そうした人付き合いや価値観の面の変化を感じることはありますか?
佐倉:そうですね。人間関係って、本当に日々触れるものだからこそ、自分の中でも価値観のアップデートは常に必要だなと思っていて。特に今は情報化社会の中で、みんなが絶えず何かを考え続けている時代。そんな中で「価値観はずっと変わらないもの」と思い込んでしまうと、どこかで歪みが生まれてしまう気がするんです。
たとえば、学校のレクリエーションとかでやった“マイムマイム”ってあるじゃないですか。音楽が流れている間にぐるぐると組み合わせが変わっていって、音が止まったときに隣にいる人とペアになる……あれって、ちょっと人間関係にも似ているなって感じるんです。
今、目の前の人と価値観が合っているからこそ一緒にいられる。でも、音楽がまた鳴れば、相手は別の人と手をつなぐかもしれないし、自分だって違う方向に進むかもしれない。それは、悲しいことではなくて、自然な流れなんだと思うんです。人は変わっていくし、価値観も変わっていく。だからこそ、「今、この瞬間」をちゃんと大事にできたらいいなと思います。
自分の目の前から何かがなくなったときも、「どちらかが悪い」とか「裏切られた」とかではなくて、ただ、その時期が終わったんだと、静かに受け止める。その大切さを、ここ数年ですごく学びました。
――信頼と依存は紙一重みたいなところもありますからね。
佐倉:ありますね。もしかしたら、過去に私が信じていた信頼も、どこかで依存に近いかたちになっていたのかもしれない。そう思う瞬間が、やっぱりあるんです。でも、だからこそ最近は、“本当の意味での信頼”ってどういうことなんだろうと、改めて考えるようになりました。
その中で、私が一番信頼に近いなと思えるのが、たとえば、3年くらい連絡を取っていなかった幼なじみから、ふと「ヤッホー、久しぶり、ごはん行こうよ」って連絡が来るような関係。喧嘩したわけでもなく、ただ時間が流れていただけなのに、まるで3ヵ月前まで連絡を取っていたかのように自然と会話が始まる。あれって、すごく素敵だなと思うんです。
実際に会って、「最近こんなことがあって」「私はこんなふうに生きているよ」とお互いの近況をシェアし合う。新しい価値観や考え方をすり合わせながら、「ああ、今はそうなんだ」「私もこんな感じだよ」って、また新しく自己開示していく。それで、「またね」って自然に別れて、また次につながる。そういう関係って、本当に自立した信頼関係だなと思うし、私はそんな存在をすごく尊く、ありがたく感じています。
■視聴者のひと声が、現場をひとつにする――“救い合い”としてのエンタメ
――目には見えない「信頼の手応え」を感じるのはどんな瞬間ですか?
佐倉:お仕事においては「あなたの作るものが好きです」と伝えてもらえたとき、素直に嬉しいなと思います。褒められた内容そのものももちろん嬉しいんですけど、「なぜ今、この人はその言葉をかけてくれたんだろう?」という背景にすごく興味があって。人は何かしらの意図を持って言葉を発することが多いと思うので、その理由を少し掘ってみたくなるんです。
たとえば、「今ちょっと機嫌よくなってほしいからかな」とか、「私のリアクションを見たいのかも」とか。あるいは、「ただただ、自分が思ったことをそのまま口にしてしまうタイプの人なんだな」とか。そういう“言葉の奥にある感情”を読み取ろうとしていると、信頼の手応えって、ひとつじゃないなと感じます。
どんな理由であれ、伝えようとしてくれたこと自体が嬉しくて。その瞬間が訪れた時点で、もうすでにひとつの“信頼のかたち”がそこにあるんだと感じます。
――また、「この人は心から信頼できる」と感じるのは、どんな相手ですか?
佐倉:まず、私のことを信頼してくれようとする人ですね。感情って、ある意味“等価交換”だと思っていて。私は自分のことを全部さらけ出すのがあまり得意ではなくて、自分から先に自己開示するのがとても苦手で、どちらかというと、相手がどれくらい自分のことを話してくれるかを見て、それに応じてこちらも少しずつ見せていく、というタイプなんです。
そのせいもあってか、人間不信とまではいかなくても、どこか慎重に距離を測ってしまうところがあるかもしれません。だから、同じような感覚を持っている人と出会うと自然と惹かれるし、気が合うなと思うことが多いですね。
そういう相手と、少しずつ「どれくらい見せてくれますか?」「じゃあ私もこれくらい」って、お互いじりじりと心の距離を詰めていく。そのプロセス自体が、私はけっこう好きなんです。時間はかかるけれど、そうやって築かれた関係のほうが、結果的に深くて強い信頼で結ばれる気がします。
あとは、やはり家族ですね。血のつながりって、理屈では説明できないけれど、私にとってはすごく大きな信頼の土台になっていて、家族には無条件で心を開けるし、自分のことを全部話してしまえる。そういう相手がいることは、自分の中でもごく自然で当たり前のようでいて、実はとても大切なことなんだなと感じています。
――以前お話を伺った際、そんなご家族が佐倉さんにとっての“ヒーロー”だと仰っていましたよね。一方で、ご自身が声優として活動される中で「誰かにとってのヒーロー」になれたと感じる瞬間はありますか?
佐倉:「あの作品に救われました」とか、「このキャラクターに出会えてよかった」といった言葉をかけていただいたときですね。そういう言葉を聞くと、本当に嬉しくなります。
私たち声優は、基本的にマイクの前でお芝居をしていて、その視線の先って、キャラクターが見ている景色なんですよね。だから、実はその先にいる“お客さん”のことを強く意識しながら演じているわけではないんです。演じる瞬間は、あくまで役と、その役が生きる世界に向き合っている感覚に近くて。
けれど、その時間を真剣に積み重ねた結果として、誰かの心に届いていたり、誰かの人生のどこかで支えになっていたりする。それを知った瞬間は、「ああ、エンタメの持つ力ってこういうことなんだな」と、しみじみ感じます。
私は、ただ自己満足で終わる表現ではなくて、誰かの心を少しでも動かせるような仕事がしたいと思っています。だからこそ、「あなたに救われました」と言っていただけることは、声優として活動していて一番ありがたく、幸せだと感じる瞬間です。
――作り手から受け手に届く瞬間にこそ、喜びがあるのですね。
佐倉:そうですね。特に、大勢の人が関わって、たくさんのお金も動くようなタイトルになると、制作側の人数がどんどん増えて、現場の方向性もばらついていくことがあるんです。そんな中にいると、「自分がやっていることは本当に合っているんだろうか」とか、「誰かの足を引っ張ってないかな」とか、不安になることもあって。
「ちゃんといいものが作れているのかな」と思い悩むこともあるんですけど、そうした中で、作品を受け取ってくれた方のたった一言で、ふっと救われることがあるんですよね。「ああ、報われたな」と思える瞬間というか。
その言葉を聞いたことで、制作に関わる人たちが不思議と同じ方向を向けるようになったりもして。そう思うと、やっぱり私たちって、どこかで“救い合っている”んだなと感じます。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
テレビアニメ『TO BE HERO X』は、フジテレビほかにて毎週日曜9時30分から放送中、毎週月曜12時からNetflix&Prime Videoにて最速配信中。