
高木豊が語る飛躍に期待の野手 パ・リーグ編
(セ・リーグ編:期待の野手4人 巨人のショートに定着した泉口友汰らを分析した>>)
交流戦ではソフトバンクが優勝するなど、強さを見せたパ・リーグ。勢いを保ったまま、混戦から抜け出すのはどこのチームか。その起爆剤となりそうな野手について、高木豊氏に聞いた。
【打率トップ3が軒並み飛躍を遂げた野手】
――現在の打率リーグトップは、ソフトバンク6年目の28歳・柳町達選手(打率.342/6月22日時点。以下同)。すでに100試合以上出場したシーズンも2度ありますが、どう見ていますか?
高木豊(以下:高木) もともとバッティング技術は高かったですが、チーム事情であまり使われなかっただけでしたから。野手にケガ人が出て巡ってきた出場機会を完全にモノにしましたね。
|
|
――昨年までと変わった点は?
高木 少しバットのヘッドを落として"縦振り"に近いバッティングを始めました。脇を締めず、少し開けて振ることでバットの操作性をよくするのが縦振りなのですが、彼は腕の使い方が器用です。
それと、縦振りのバットの軌道は打球の初速と角度を向上させ、より遠くに飛ばせるのがメリット。柳町はそれほど体が大きいわけではないですが、長打力(長打率.447)もあります。今のスイングが合っていると思いますし、打率を含め、シーズンを通してどれだけの成績を残してくれるか楽しみです。
――オリックス7年目の太田椋選手(24歳)も、打率.304でリーグ3位と打撃が好調です。昨年は規定打席に到達できなかったものの、自己最多の91試合に出場した経験が活かされているのでしょうか?
高木 そうですね。太田はすごくよくなりました。やっぱり若手は使われることによって余裕が生まれ、バッティングで柔らかさを出せたり、粘れたりできるようになるんです。4打席もらえれば、そのなかで狙い球を絞っていくなど、たまに使われる選手では経験できないことがたくさんありますから。
|
|
ずっと使われることによって、打席での"読み"もうまくなってきています。読みが外れた時は、「次の打席でいい」といった感じで切り替えもできるようになっていきます。太田はパンチ力も秘めていますし、ピッチャーにとって嫌なバッターになりつつありますね。
――昨年に初めて規定打席に到達した、楽天10年目の村林一輝選手(27歳)も、昨年の経験を糧に打率リーグ2位の.316とハイアベレージを残しています。
高木 やはり昨年の経験が大きいでしょうね。バットが素直に出るタイプですし、それほど崩されるバッティングがなく安定しています。
彼は、ドラフト1位ルーキーの宗山塁の加入で、昨年せっかくモノにしたショートのレギュラーを脅かされることになりました。ただ、そこは三木肇監督が村林を腐らせないようにうまく使っています。宗山に対しての意地もあるだろうし、村林の場合は技術というよりも、その刺激が功を奏していると思います。
楽天の2年目、中島大輔(24歳)も走攻守の三拍子が揃っていて面白いです。スイングに癖がなくてバットがスムーズに出ていく。シャープなバッティングをしますし、効果的な一発も打てます。これから場数を踏ませたら大きく飛躍していくような気がします。ただ、タイプ的には辰己涼介や小郷裕哉に似ていますし、そこに勝っていかなければいけませんね。
|
|
【西武のリードオフマン、ロッテの新4番にも期待】
――ここまで37勝31敗と、昨季からの巻き返しに成功している西武。1番・中堅に定着した8年目の西川愛也選手(26歳)の存在が大きいです。打率は.271で、リーグ2位の75安打、盗塁もリーグ2位の14個を記録しています。
高木 先ほどお話した太田や村林と同じく、昨年に多く打席に立ったことが活きていると思います。特に腕のたたみ方がうまくなって、インサイドがある程度さばけるようになったのが自信につながっているんじゃないですかね。もともと守備と走塁は「いいものがあるな」と見ていましたが、バッティングでも自分の形を確立してきましたし、単にトップバッターというわけではなく、リードオフマンになりつつありますよね。
打てるようになる時って、自分のバッティングを客観的に映像化できたり、こういうボールはこういうふうに振れば打てる、といった感性が備わったり、自分のなかに何かが芽生えるんです。今の西川はそういう状態になっているような気がします。
――ロッテでは、サブロー二軍監督兼統括打撃コーチが一軍ヘッドコーチに就任して以来、5年目の山本大斗選手(22歳)が毎試合4番を任されています。打率は.230ながら、リーグ4位の8本塁打を記録していますが、いかがですか?
高木 ロッテの場合、首脳陣がどの選手に期待しているのか、育てようとしているのかを明確にしたほうがいい、と以前から言っていたのですが、サブローがヘッドコーチになってからは明確になりましたね。それまでは選手も打順も日替わりで、使われる選手たちも気持ちが安定しなかったと思うんです。
山本のよさは二軍監督時代からよく知っているでしょうし、今は打線の主軸として期待していることがよくわかります。打球に角度をつけるのがうまいですし、飛ばす能力がある。それは、教えてできることではありません。
それと、起用が続いているタイミングのとり方に余裕が出てきたというか、タイミングを外されそうになっても、つま先をうまく使って合わせています。先ほども言ったように、試合に出続けることで読みなども研ぎ澄まされていきますし、勝敗に対しての責任感も備わってくる。そのことによって選手は伸びていくんです。このままシーズンの最後まで使い続けてほしいですね。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。